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援助要請の内容および妥当性について
坂・山村・真下・三宮(2013)は,そもそも大学生は日常生活においてどのような場面でどのようなことに困っているのかについて調べている。その結果,困窮事態を大きく分けると5カテゴリーに分類集約している。一つのカテゴリー内の中身は多岐にわたっており,細かく22のカテゴリーに分けている(坂ら,2013)。
また,援助要請行動は要請の内容によって,援助要請が抑制される要因が違うが,要請内容としてどのようなものがあるのだろうか。野崎・石井(2004)は,大学生を対象に,「大学に入学してから,困ったり苦しい状況の時,実際に誰かに助けを求めたり,何かをしてもらうように頼んだ出来事」と「大学に入学してから,周りの誰かが他の誰かに助けを求めたり,何かをしてもらうように頼んでいた出来事」を聞いており,その結果,30種類の援助要請行動を見出している。30種類の援助要請行動は,「緊急事態における援助要請行動」,「日常のちょっとした困窮場面における援助要請行動」,「心理的サポートに関する援助要請行動」,「貴重な資源の提供を求める援助要請行動」,「利己的な援助要請行動」の5つに分けられ,問題の重大性,自尊心への脅威,心理的負債感のそれぞれにおいて,5つの援助要請行動の間で差が見られている(野崎ら,2004)。
これらのことより,大学生は様々な困窮事態を経験しており,そのなかで援助要請行動を行っているということである。
一方,援助要請内容は同じでもその妥当性が高いものと低いものが存在する。妥当性とは,「実情などによくあてはまり,適切である性質」という意味の他に,「ある判断の認識上での価値」という意味がある。つまり,援助要請の妥当性は,援助要請(援助要請者)に対するある判断に大きく影響してくると考えられる。
援助要請と被援助志向性について
一般に,困窮状態に陥ると,誰かに助けてもらうことを考える。高木(1997)の援助要請過程モデルでは,自身の困窮状況の認識や把握の後,一旦は自分で自力解決を目指すことを考え,それが無理だと判断した場合に,やっと誰かに援助を要請することを検討することになる。しかしながら,援助要請をするかどうかは,様々な要因が関係している。その状況の重大さや,その場に援助適任者がいるのかいないのかといったこと,それから自分自身のパーソナリティや普段の行動傾向なども大いに関係するところである。
その中で,援助要請行動に関するパーソナリティとして「被援助志向性(水野・石隈(1999)」がある。援助要請の仕方には当然個人差があるわけであるが,その要因の一つとして,この「被援助志向性」を挙げている。被援助志向性とは,個人が,情緒的,行動的問題および現実生活における中心的な問題でカウンセリングやヘルスサービスなどの専門家,教師などの職業的な援助者および友人・家族などのインフォーマルな援助者に援助を求めるかどうかについての認知的枠組みと定義される。さらに,その被援助志向性に影響を及ぼす変数として,性差・年齢・教育レベルと収入・文化的背景の違いといった「デモグラフィック要因」,ソーシャルサポート・事前の援助体験の有無の「ネットワーク変数」,自尊心・帰属スタイル・自己開示の「パーソナリティ変数」,そして個人の問題の深刻さ,症状の4領域に分けられるものがある(水野ら,1999)。また,田村・石隈(2006)は,被援助志向性は特定の状況下で「他者に対する援助の求めやすさ」を測定する「状態被援助志向性」とどんな困難な状況でもある程度一貫した「他者に対する援助の求めやすさ」を測定する「特性被援助志向性」の2つに分けて,状態被援助志向性と特性被援助志向性との間には関連が見られ,特性被援助志向性とバーンアウトとの関連についても示唆している。具体的には,被援助に対する懸念や抵抗感が低い教師ほど脱人格化しにくいという結果が見られている。また,後藤・川島(2014)によると,援助要請行動の頻度が多い人ほど,援助要請をした時に一貫して快情動を感じる。被援助志向性は援助要請行動と正の弱い関連が見られる(雨宮・松田,2015)ことより,被援助志向性が高ければ,「援助された」時に快情動を感じることができると考えられる。
また,永井(2013)は,援助要請行動の頻度は人によって異なるとして,援助要請スタイルを検討している。それによると援助要請スタイルは,援助要請自立型,援助要請過剰型,援助要請回避型という3つのスタイルに分類されるとしている。援助要請自立型の得点の高い人は,悩みの程度に応じて援助要請を行っていたのに対し,援助要請過剰型の得点の高い人は,悩みが少ない時でも援助要請を多く行っていて,援助要請回避型の得点の高い人は,悩みが多い時でも援助要請を行わなかった。すなわち,援助要請行動は,必ずしも望ましい行動であるとは言えない場合もあるわけであり,単に要請ばかりすればよいというものでもない。援助要請過剰型や回避型の人は,コミュニケーション上も相手との疎通を欠き,援助を上手く導き出すことができない可能性が高い。つまり,援助要請自立型が望ましい形と考えられる。
援助要請が抑制される要因
前述の高木(1997)の援助要請過程モデルで一連の過程が進行したとしても,最終的に必ず援助要請が行われるわけではなく,むしろなかなか援助要請が行われない(できない),つまり援助要請が抑制される場合も多いと考えられる。
この援助要請が抑制される要因としては,原田・出雲(2008)は負担懸念と評価低下懸念を挙げている。負担懸念とは,自分の援助要請が相手の迷惑や負担になることを恐れること,評価低下懸念とは,援助要請によって自己肯定感や自己評価が下がることを恐れることである。原田ら(2008)は,さらに,負担懸念・評価低下懸念と賞賛獲得欲求・拒否回避欲求との間に相関が見られ,それは援助要請の内容によって相関の方向・強さが異なるとしている。賞賛獲得欲求とは,他者からのある一定水準以上の評価を得ようとする志向性で,拒否回避欲求とは,他者から嘲笑されたり拒否されたりしたくない欲求のことである。つまり,援助要請は,要請内容によって程度は異なるが,被援助要請者(=援助者)からの評価を気にすることで抑制されると考えられる。また,援助要請者から見れば,被援助要請者だけでなく,その場に居合わせた第3者的な他者,いわば傍観者からの評価もほぼ同様に認知していると考えられ,やはり抑制の方向で働くと考えられる。
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