はじめに
 人は他者から自分がどのように見られているかを意識する。 私たちは様々な集団の中で生活しており、所属する集団によって自分に対する他者評価が異なっていることがある。 ある集団ではうまくいかないことが多く、叱られることが多々あるが、またある集団では、周囲から期待を寄せられ、重役に任命されることもしばしばといった例も少なからず存在する。 2つの集団を比較すると、叱られてばかりの集団においては、自信を喪失してしまい、努力しても無駄であるかのように感じてしまうが、期待を寄せられている集団においては、自信が満ち、それに応えようとより一層努力できる。 また集団内に限らず、私たちは日常生活の中で多くの他者と関わっており、それぞれの他者との関係において、自分がどのように見られているかを意識している。 特に親や友人など自分にとって重要な他者からどのように見られているかということは、自らの評価に大きな影響を与える。 そのような他者からの評価が自己評価よりも高いものであると認知した場合は、その評価に応えようと意欲的になる一方で、他者評価にできるだけ近づけるよう自己を高めなくてはならないといったプレッシャーにも繋がるとも考えられる。
 他者からどのように見られているかということとは別に、私たちはそれぞれに到達目標を持っており、現在の自分がそれにどの程度近づいているかによって自己評価を下している。 この自己評価が高いことも、自分の長所をさらに伸ばそうといった意欲に繋がる。 自己評価と他者からの評価を比べた際に、どちらの評価が優位である場合により行動へ移そうという意欲が生じるのだろうか。
 一方で、他者からの評価の高さはプレッシャーに繋がることもある。 学校現場において、いわゆる優等生がストレスを抱え、うつ症状を引き起こす事例がある。 それが原因となって不登校に繋がることも多い。他者から良く思われていると捉えることは意欲を生むが、その反面で他者からの評価を維持しなければならないといった義務感に駆られることで、抑うつ傾向を高めてしまうのではないかと考えられる。
 先述した通り、日本人は他者からの評価を気にしやすい性質を持つために、他者からの評価の高さは負の側面が目立ってしまうように感じられる。 しかし、他者からの評価を気にしやすいということは、言い換えれば他者との関係を重視するということである。 つまり、他者との関係が良好であることに喜びを感じ、他者の幸せは自分の幸せでもあると捉えることができる性質を持っていると言える。 そのようなパーソナリティを持つ者は、他者からの評価の高さを肯定的に捉えることができるのではないだろうか。
 これらのことから、ある行動を起こそうとする意欲には自己評価や他者からの評価を自分がどう捉えるかが関係しており、それが精神的な健康を害してしまうか否かは、他者関係を重視するパーソナリティが決定するのではないかと考えられる。 他者から直接下される評価の高さが行動志向性を生むといった研究はこれまでに存在するが、他者評価の捉え方に着目した研究はほとんど見られていない。 そこで本研究では、他者から自分がどのように思われているかを自分自身で判断した評価に着目し、自己評価との差やパーソナリティ要因も踏まえ、行動志向性や抑うつ傾向にどのように関わるのかを検討する。