自由記述回答と行動志向性との関連
他者の期待に対する感じ方の違いを検討するために、自由記述で回答を求め、各行動志向性との関連を検討した。
その結果、期待をしてくれることは嬉しいと記述した者は、記述がない者に比べて友人関係の行動志向性が高く、
期待に応えられないことで他者の信用を失いたくないと記述した者は、運動能力の行動志向性が低い傾向が見られた。
期待を肯定的に捉える者は、他者から期待を受けること自体に喜びを感じる傾向があるのではないかと想定される。
そこで、期待を得るためには自身を認めてくれる友人の存在が不可欠であるため、より多くの人物と友人関係を築きたいという思いが生じるのではないかと考えられる。
また、他者の信用を維持することに気を配りがちだという者は、失敗することに恐れを抱いていることが窺える。
スポーツは成功または失敗が他者の視点からでも明確に判断できる特徴があるため、失敗を恐れることで、できるだけその機会を逃れようとしてしまうのではないかと考えられる。
自由記述回答とCS尺度との関連係
自由記述回答の内容と「他者欲求への敏感さとその充足の優先」および「自己主張の強さ」との関連を検討した。
その結果、期待されることをプレッシャーに感じると記述した者、期待に応えられないことで他者の信用を失いたくないと記述した者については、
記述がない者に比べて「自己主張の強さ」が低くなっていた。
また、期待されたことには精一杯応えると記述した者、期待されることをプレッシャーに感じると記述した者については、
記述がない者に比べ、「他者欲求への敏感さとその充足の優先」が高くなっていた。
自己主張よりも他者の欲求充足を叶えることが重要であると考えるパーソナリティを有している者は、
他者からの期待には必ず応えなければならないものだと認知しているために、期待がプレッシャーだと感じるのではないかと考えられる。
また、自己主張が弱い傾向が見られる者は、自らの欲求を率直に伝えることが苦手であると想定されるため、
あまり期待を寄せてほしくないという場面において、自分はうまくやれないかもしれないと他者へ事前に忠告をするなど、期待の程度を下げてもらうことで、
期待から逃れようとするのではないかと考えられる。
さらに、他者欲求の充足を優先する傾向がある者は、自らを犠牲にしてでも他者の欲求に応えたいという意思を持っているために、
期待には精一杯応えると考えているのではないかと思われる。
自由記述回答と抑うつ傾向との関連
自由記述回答の内容と抑うつ傾向との関連を検討した。
その結果、他者からの期待には応えるようにしていると記述した者は、記述がない者に比べポジティブ感情が高く、
期待してくれた人物からの信用を落としたくないと記述した者は、記述がない者に比べポジティブ感情が低くなっていた。
本研究では、期待への応え方についての記述に関して、その程度によって3群に分類している。
どの群においても記述がない群に比べてポジティブ感情が高くなっていたが、中でも中程度に分類された群の得点が有意に高かった。
つまり、他者の期待に精一杯、またはそれ以上に応えようとしたり、自分ができる範囲で応えようと行動したりするよりも、
期待された分だけ努力しようと行動する者が最も精神的に健康であると言える。
また他者の信用を維持したいという者については、期待に応える背景で他者の姿が浮かんでおり、常にその他者を満足させなければならないと統制されるために、
精神的健康に悪影響を及ぼしているのではないかと考えられる。