外発的動機づけと内発的動機づけ
 行動を起こす際に、それが何によって動機づけられるかによって動機づけの種類は異なる。 岡田(2010)はDeci & Ryan(1985)の自己決定理論を取り上げ、動機づけ状態は@非動機づけA外発的動機づけB内発的動機づけの3つがあるとしている。 これらの内、非動機づけについては活動に全く動機づけられていない状態を指すため、実際に動機づけが成立しているものは「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」の2つであると言える。 鹿毛(2012)によると、報酬を求める、あるいは罰を避けるために行動するという賞罰に基づく動機づけは「外発的動機づけ」、その活動自体から生じる固有の満足を求めるような動機づけは「内発的動機づけ」と呼ばれる。 また杉山・菅(2010)は内発的動機づけと外発的動機づけの相違点について、 @活動が何によって始まるか(内発的動機づけは自らの意志によって生じ、外発的動機づけは他者からの主体への働きかけによって生じる) A活動がどのようにして持続されるか(内発的動機づけは探索的、斬新的反応が主であり、外発的動機づけは機械的、効率的反応が主である B活動が何によって終結するか(内発的動機づけは主体の好奇心や向上心の満足によって終わり、外発的動機づけは予告された報酬や罰、評価が主体に与えられることによって終わる)の3点から説明している。 これらのことから、他者による報酬や罰の提供がきっかけで始まり、それを得たり避けたりするために行動し、結果が得られたら終結してしまう外発的動機づけに比べ、 自分の意志で始め、興味に基づいて行動し、自らの好奇心が満足するまで持続される内発的動機づけの方が、長期的な動機づけを可能にすると言える。 さらに外発的動機づけにおいて特徴的な報酬の提供は、内発的動機づけを低下させることが明らかになっており(碓井,1986)、むしろ主体者のやる気を低める結果となってしまうという。 それでは、外発的動機づけはやる気を高める手法としては不適切なのであろうか。

外発的動機づけの分類

 外発的動機づけは成功すれば報酬が得られ、失敗すれば罰を受けるといったものばかりではない。 Deci & Ryan(1985)が提唱した自己決定理論では、内発的動機づけと外発的動機づけを自己決定性という観点から一次元上の両極として捉え、連続性を持つものとされている(岡田・中谷,2006)。 また櫻井(2012)によると、自己決定理論における有機的統合理論では、外発的動機づけを自律性の高さで4つに分類しており、 自律性の低いものから順に「外的調整」「取り入れ的調整」「同一化的調整」「統合的調整」と呼ばれる。 報酬と罰による動機づけは「外的調整」に含まれ、最も自律性が低いものであることがわかる。 その他の動機づけについては、「取り入れ的調整」は罪や恥の回避、自己・他者承認への関心に基づくもの、「同一化的調整」は自分にとって重要だからといった 価値の内在化に基づくもの、「統合的調整」は自分の価値観と一致した状態であり、青年期以降に現れるものだという(高山,2009)。 私たちはしばしば他者の期待に応えたいという欲求を抱き、それに沿うべく行動を起こすことがあるが、このような動機づけは「取り入れ的調整」に分類される。 「取り入れ的調整」は「外的調整」に続き自律性の低いものとされているが、報酬と罰による動機づけに比べると、行動を起こすか否かの決定権が自分にある点で大きな差がある。 中でも他者からの直接的な言葉がけなどに対しては、それが叶えられなかった場合に罪悪感が生じ、自分に不利益となるが、 自分を応援してくれているであろう他者を意識した上での行動は、それに応えなくとも他者との信頼関係を崩す結果にはならないため、自由に意思決定ができると考えられる。
 以上のことから本研究では、他者の直接的な期待ではなく、自身が捉える他者の思いに焦点を当てていく。 また動機づけに関して、本研究では自己概念を形成する要因毎に、行動を起こそうという意志に着目したい。 行動を起こそうという意志については、行動志向性と表記することとする。