方法
1.調査対象
A県内の中学生1年生334名(男性176名,女性158名)に質問紙調査を行った。回答に不備があったものを除き,合計292名(男性152名,女性140名)を分析対象とした。
2.調査時期
2016年10月下旬〜11月初旬
(手続き)
質問紙による調査を行った。質問紙は中学校の講義時間に一斉に配布をし,回答後一斉に回収した。
3.質問紙の構成
集団内地位の異なる2場面を設定し,それぞれの場面でどのように感じるかを以下に示す尺度を用い検討を行った。なお,カウンターバランスをとるために,質問紙ごとに場面の順番をランダムに入れ替えた。
仮想場面は,本研究におけるいじめの定義に則したいじめ場面を第三者として目撃するシーンを想定した。
3-1.いじめ関連行動尺度(12項目)
各場面でそれぞれのいじめ関連行動をどの程度行うかについて検討するために,蔵永他(2008)のいじめ関連行動尺度を使用した。「はやしたて行動」,「被害者援助行動」,「傍観行動」の3因子14項目から構成されている尺度であった。項目数を各因子で均等にするため,本研究では「被害者援助行動」「傍観行動」から蔵永他(2008)の研究で因子負荷量が最も低かった項目を一つずつ削除し,下位3尺度各4項目を採用した。「はやしたて行動」とは,いじめ解決に向けて消極的に働く行動であり,いじめ場面において第三者がいじめを面白がったりはやしたてたりする行動に関するものがみられた項目である。「被害者援助行動」とはいじめ解決に向けて積極的に働く行動であり,被害者をなぐさめたり,いじめを仲裁したりする行動に関するものがみられた項目である。「傍観行動」はいじめ解決に向けて消極的に働く行動であり,いじめ場面において第三者がいじめをただ見ていたり,無視したりする行動に関するものがみられた項目である。計12項目からなり,5件法(「しない」「どちらかといえばしない」「どちらともいえない」「どちらかといえばする」「する」)で回答を求めた。
3-2.公正世界信念尺度(12項目)
中学生のもつ公正世界信念を測定するために村山・三浦(2015)の公正世界信念尺度の3つの下位尺度12項目の一部に若干の修正を加えた尺度を用いた。「究極的公正世界信念」(4項目),「内在的公正世界信念」(4項目)と「不公正世界信念」(4項目)の3つの下位尺度から構成される。「究極的公正世界信念」とは,不公正によって受けた損失が将来的に埋め合わせされると信じる傾向であり,自分が知るに至らなくとも,被害は将来的に回復されると考え,被害の回復は現世で行われる必要はなく,来世でも構わないという,宗教性の強い長期的視点を含む信念であり,内在的公正世界信念と比較して,その信念維持のための関係者への援助や被害の埋め合わせ,事件の認知的再解釈といった実質的・心理的な努力を必要としない(Hafer&Begue,2005;Maes,1998;Maes&Schmitt,1999)信念である。「ひどく苦しんだ者はいつか幸せになる」「不公平なことに苦しむすべての人々は,苦しんだ分だけいつか幸せになれるに違いない」「苦しんでいるすべての被害者はいつか救われる」「すべての不幸はいつか幸運によって埋め合わせされる」といった項目からなる。「内在的公正世界信念」とは,ある出来事(特に負の結果)が起こった原因を,過去の行い(負の投入)によるものと信じる傾向であり,得られた結果には正義が内在すると考え(Hafer&Begue,2005),幼児期からの満足の遅延に関する学習や,報酬・罰の経験を通して形成,強化される(Bennett,2008)信念である。「どんな人であっても,悪いことをしたらいつかその仕返しを受ける」「他人を犠牲にして何かを手に入れる者は,結局たくさんの大切なものを失うことになる」「悪いことをした人は全員,いつかそのことを責められる」「悪事を計画する人は,その計画によってその人自身がダメになる」といった項目からなる。「不公正世界信念」とは,この世に公正は存在しないと信じる(村山・三浦,2015)傾向である。「世の中にはたくさん不公平なことがある」「この世界は不公平なことだらけだ」「この世界では,良いことをしても褒められない人がたくさんいる」「この世界では,悪いことをしても怒られない人がたくさんいる」といった項目からなる。
本研究では,中学生でも答えられるように村山・三浦(2015)の公正世界信念尺度の項目の一部を修正し,4件法(「全くそう思わない」「あまりそう思わない」「少しそう思う」「とてもそう思う」)で回答を求めた。
3-3.仮想場面
@集団内地位高群(人気者)
AとBたちとあなた…同じクラス
AとBたち…普段仲良し
あなたはクラスの人気者です。
ある時,あなたはAが,Aと普段から仲のいいBたちに無視されているのを目撃しました。
というのも,AがいくらBたちに挨拶をしたり話しかけたりしても,Bたちは知らんぷりをして相手にしないのです。
実際に,Bたちがある話題で盛り上がっているときにAが話に入っていこうとすると,Bたちが急に話をやめ,そっぽを向いてしまうということがありました。この時この状況を見たBが「シーン」と言ってはやしたてると,Bたちはどっと笑いました。
それからすぐに話題が変わり,Bたちはほかの話題を話し始めました。
A集団内地位低群(目立たない存在)
AとBたちとあなた…同じクラス
AとBたち…普段仲良し
あなたはクラスで目立たない存在です。
ある時,あなたはAが,Aと普段から仲のいいBたちに無視されているのを目撃しました。
というのも,AがいくらBたちに挨拶をしたり話しかけたりしても,Bたちは知らんぷりをして相手にしないのです。
実際に,Bたちがある話題で盛り上がっているときにAが話に入っていこうとすると,Bたちが急に話をやめ,そっぽを向いてしまうということがありました。この時この状況を見たBが「シーン」と言ってはやしたてると,Bたちはどっと笑いました。
それからすぐに話題が変わり,Bたちはほかの話題を話し始めました。