要旨
本研究では, 中学生を対象に,仮想したいじめ場面の目撃者の集団内地位という条件を組み入れたシナリオを作成し,いじめ場面を目撃した第三者のその後の行動について,第三者の集団内地位はどのような影響を及ぼすか,第三者の公正世界信念はどのような影響を及ぼすのか,また,それらの組み合わせはどのような影響を及ぼすのかを検討することを目的とした。
いじめ目撃場面での第三者の行動については,蔵永・片山・樋口・深田(2008)のいじめ関連行動の「はやしたて行動」「被害者援助行動」「傍観行動」の3つの下位尺度を用いて検討を行った。
第三者の正当世界信念については村山・三浦(2015)の公正世界信念尺度「究極的公正世界信念」「内在的公正世界信念」「不公正世界信念」の3つの下位尺度を用いて検討を行った。
集団内地位についてはシナリオ中に集団内地位高群を意味する「人気者」集団内地位低群を意味する「目立たない存在」という言葉を挿入した。
また,公正世界信念については下位尺度それぞれを平均値によって高群・低群に分け,分析を行った。
その結果,はやしたて行動については集団内地位,内在的公正世界信念それぞれの有意な主効果が,被害者援助行動および傍観行動については集団内地位,究極的公正世界信念,内在的公正世界信念それぞれの有意な主効果が見られ,いずれについても不公正世界信念からの有意な主効果は見られなかったが,はやしたて行動については,集団内地位と不公正世界信念の交互作用に有意傾向が見られた。
そして,人気者の方が目立たない存在よりはやしたて行動を行うこと,人気者の方が目立たない存在より被害者援助行動を行うこと,目立たない存在の方が人気者より傍観行動を行うこと,究極的公正世界信念高群が究極的公正世界信念低群より被害者援助行動を行うこと,究極的公正世界信念低群が究極的公正世界信念高群より傍観行動を行うこと,内在的公正世界信念低群が内在的公正世界信念高群よりはやしたて行動を行うこと,内在的公正世界信念高群が内在的公正世界信念低群より被害者援助行動を行うこと,内在的公正世界信念低群が内在的公正世界信念高群より傍観行動を行うこと,不公正世界信念高群においては,人気者の方が目立たない存在よりもはやしたて行動を行う可能性があることが明らかとなった。
本研究から,子ども一人ひとりが学級という集団において自分の被害者援助行動を周囲はサポートしてくれると感じられるような学級の雰囲気を作ること,自由な振る舞いができるように子どもたちの人間関係を整えること,子どもがよいことをしたら褒め悪いことをしたら叱るということを通して子どもの中の公正世界信念を強化することが,子どもがいじめを発見した際,その子どもがいじめ解決に向かうような行動をとることにつながることが示唆された。