0. 分析ソフト
本研究の分析は全て清水(2016)が作成したExcelのマクロ機能を利用した統計分析ソフトウェアであるHAD Version15.00 を使用した。
1.記述統計量
すべての項目において平均点、標準偏差を算出した。その結果、その結果、抑うつを測定するCES-D Scaleの項目以外については、天井効果・床効果は見られなかった。CES-D Scaleの項目については、多くの項目について床効果が見られたが、健常者に対し、抑うつ傾向を測定する尺度を用いているため、このまま用いるのが妥当であると判断し、CES-Dの項目を含む、すべての項目について使用することとした。
1-1.自我理想型・超自我型人格尺度(EI-SES)
EI-SESの「志向性」、「べきの専制」の尺度得点を平均し、志向性得点、べきの専制得点とし、平均と標準偏差を算出した(Table5)。次に、内部一貫性を検討するため、クロンバックのα係数を算出した。志向性はα=.83、べきの専制はα=.86という結果が得られ、信頼性は十分であると判断した。
1-2. わりきり志向尺度
わりきり志向尺度の「わりきりの有効性認知」、「対処の限界性認知」の尺度得点を平均し、わりきりの有効性認知得点、対処の限界性認知得点とし、平均と標準偏差を算出した(Table5)。次に、内部一貫性を検討するため、クロンバックのα係数を算出した。わりきりの有効性認知はα=.82、対処の限界性認知はα=.70という結果が得られ、信頼性は十分であると判断した。
1-3. CES-D
CES-Dの項目を合計し、抑うつ得点とし、平均と標準偏差を算出した(Table5)。次に、内部一貫性を検討するため、クロンバックのα係数を算出した。わりきりの有効性認知はα=.81という結果が得られ、信頼性は十分であると判断した。
1-4. 時間的展望体験尺度
時間的展望体験尺度の「現在の充実感」、「過去受容」、「希望」の尺度得点を平均し、現在の充実感得点、過去受容得点、希望得点とし、平均点と標準偏差を算出した(Table5)。次に、内部一貫性を検討するため、クロンバックのα係数を算出した。現在の充実感はα=.66、過去受容はα=.72、希望はα=.78という結果が得られた。α係数の値について、過去受容、希望については高い数値が得られ、信頼性は十分あると判断した。また、現在の充実感はやや低い値であったが、このまま使用するすることとした。
2. 各下位尺度得点の相関分析
EI-SES、わりきり志向尺度、CES-D、時間的展望体験尺度の各下位尺度得点の関係を見るため、相関分析を行った(Table6)。
2-1. 各尺度内での相関
各尺度内での相関関係を見ると、EI-SES、わりきり志向尺度、時間的展望体験尺度の尺度内に相関が見られた。
EI-SESの志向性とべきの専制の間に弱い正の相関が見られた。わりきり志向尺度については、わりきりの有効性認知と対処の限界性認知の間に中程度の正の相関が見られ、時間的展望体験尺度については、現在の充実感と過去受容の間に中程度の正の相関、現在の充実感と希望の間に中程度の相関、過去受容と希望の間に強い正の相関があった。
2-2. 各尺度間での相関
各尺度間での相関関係を見ると、EI-SESの下位因子の志向性は、わりきり志向尺度の下位因子の対処の限界性認知に弱い負の相関、抑うつに弱い負の相関、時間的展望体験尺度の下位因子の現在の充実感に弱い負の相関、過去受容に中程度の正の相関、希望に中程度の正の相関があった。わりきり志向尺度の下位因子のわりきりの有効性認知は抑うつに弱い負の相関があり、対処の限界性認知は時間的展望体験尺度の下位因子の現在の充実感に弱い負の相関、希望に弱い負の相関があった。抑うつは、時間的展望体験尺度の下位因子の現在の充実感に中程度の負の相関があり、希望に中程度の負の相関があった。
3 志向性ごとの、わりきり志向が精神的健康に及ぼす影響
茂垣(2005)(Figure1)を参考に、EI-SESの志向性、べきの専制の強弱により、個人の志向性を捉えることとした。茂垣(2005)においては、個人の志向性の傾向によって、わりきり志向が精神的健康に及ぼす影響が変化するかを見るために、階層的重回帰分析により、交互作用の検定を行った。
3-1 わりきり志向が抑うつに及ぼす影響
抑うつを目的変数とし、EI-SESの志向性とべきの専制、わりきり志向尺度のわりきりの有効性認知と対処の限界性認知を説明変数とし、三次の交互作用項を含む階層的重回帰分析を行った(Table7)。Step1には、説明変数に志向性、べきの専制と、それぞれにわりきりの有効性認知、対処の限界性認知を投入し、Step2には、それぞれに志向性×わりきりの有効性認知とべきの専制×わりきりの有効性認知、志向性×べきの専制、志向性×対処の限界性認知、べきの専制×対処の限界性認知の二次の交互作用項を投入し、Step3にはそれぞれ、志向性×べきの専制×わりきりの有効性認知、志向性×べきの専制×対処の限界性認知の三次の交互作用項を投入した。その結果、Step1においては、志向性、わりきりの有効性認知が抑うつを低めることを予測し、Step2においては、べきの専制×わりきりの有効性認知の交互作用項に有意傾向があったが、R2の有意な増加は見られなかった。Step3においては、志向性×べきの専制×わりきりの有効性認知の交互作用項に有意傾向があり、R2の増加に有意傾向が見られた。また、べきの専制×対処の限界性にも有意傾向が見られたが、有意なR2の増加は見られなかった。
階層的重回帰分析の結果、志向性×べきの専制×わりきりの有効性認知の交互作用が有意であると判断し、単純主効果の検定を行った。すなわち、説明変数の得点に、各平均値±1SDの値をそれぞれ代入し、抑うつに対する単回帰直線を求めた(Figure 2)。その結果、高志向性・弱べきの人、低志向性・強べきの人のわりきりの有効性認知と抑うつとの間の主効果が有意(それぞれ、p < .05, p< .01)であった。
3-2. わりきり志向が時間的展望に及ぼす影響
時間的展望の現在の充実感、過去受容、希望を目的変数とし、EI-SESの志向性とべきの専制、わりきり志向尺度のわりきりの有効性認知と対処の限界性認知を説明変数とし、三次の交互作用項を含む階層的重回帰分析を行った(Table8-10)。Step1には、説明変数に志向性、べきの専制、わりきりの有効性認知を投入し、Step2には、志向性×べきの専制、志向性×わりきりの有効性認知、べきの専制×わりきりの有効性認知の二次の交互作用項を投入し、Step3には志向性×べきの専制×わりきりの有効性認知の三次の交互作用項を投入した(Table8-10)。
3-2-1. わりきり志向が現在の充実感に及ぼす影響
時間的展望体験尺度の下位因子である現在の充実感を目的変数とした階層的重回帰分析(Table8)においては、Step2において、べきの専制×対処の限界性認知の交互作用項に有意傾向があったが、R2の有意な増加は見られなかった。Step3においては、志向性×べきの専制×対処の限界性認知の交互作用項が有意であり、R2の有意な増加が見られた。
志向性×べきの専制×対処の限界性認知の交互作用が有意であったため、単純主効果の検定を行った。(Figure3) その結果、高志向性・弱べき、高志向性・強べきの対処の限界性認知と現在の充実感との間の主効果が有意傾向(いずれもp < .10)であった。
3-2-2. わりきり志向が過去受容に及ぼす影響
時間的展望体験尺度の下位因子である過去受容を目的変数とした階層的重回帰分析(Table9)においては、Step2において、志向性×対処の限界性認知の交互作用項に有意傾向があったが、R2の有意な増加は見られなかった。Step3においては、志向性×べきの専制×対処の限界性認知の交互作用項が有意であり、R2の有意な増加が見られた。
志向性×べきの専制×対処の限界性認知の交互作用が有意であったため、単純主効果の検定を行った。(Figure4) その結果、高志向性・弱べき、低志向性・弱べきの対処の限界性認知と過去受容の間の主効果がそれぞれ有意、有意傾向にあった。(それぞれ、p <.05, p < .10)であった。
3-2-3. わりきり志向が希望に与える影響 時間的展望体験尺度の下位因子である現在の充実感を目的変数とした階層的重回帰分析(Table10)においては、Step2において、志向性×対処の限界性認知の交互作用項に有意傾向があったが、R2の有意な増加は見られなかった。