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問題と目的
1.問題
(1)社会的背景
近年,学校教育の現場においてキャリア教育や職業教育といった社会的・職業的自立や,学校から社会・職業への円滑な移行を可能とすると考えられる教育活動が取り入れられている。
その背景として,中央教育審議会(2011)では,現在の学習と自分が将来就きたい仕事との関連が低いと感じている中高生が多いことや,中途退学者や若年無業者等が挙げられている。
また,職に就いておらず,学校教育機関にも所属しない,就労に向けた職業訓練にも参加していない15歳から34歳までの若者のことはニート(Not in Employment , Education or Training)と定義されている(白井,2006)。
玄田(2007)は,ニートを,就業を希望しつつ職探しをしていない非求職型と,そもそも働くことを希望していない非希望型,求職中であるニート以外の無業者は求職型として分類した。
玄田(2016)は,近年,景気の影響や若年雇用対策の効果により,ニート人口は減少傾向であると述べている。
一方,ニートの中でも,非希望型は増加傾向にあり,近年の若者は,働くことに希望を持てない人が多いという特徴があると述べている。
また,若松(2006)は,狭い範囲の中から理想の進路を探そうとしたり,どんな進路を目指すのか,意志決定が十分にできないまま慌てて進路を選択してしまったりすることを指摘し,進路選択の仕方に問題があるとしている。
ベネッセ教育総合研究所の実施した,高校生の大学選択の基準に関する調査(2013)では,進学動機と大学選択のパターンを,@就きたい職業(なりたい職業があって,それに就ける大学・学部を選んだ),A学びたい学問(学びたい学問があって,それが学べる大学・学部を選んだ),B良い大学(特に職業や学問にはこだわりがないが良い大学に入ることを目指して頑張った),C入れる大学(特に職業や学問にはこだわりはなく,自分の成績で入れる大学を選んだ)と4つに分類している。
調査から,特に就きたい職業や学びたい学問がない(B・C)生徒のうち,教師・友人・保護者の勧めが,進路を選択した理由の一つに大きな割合を占めることが示唆されている。
動機の曖昧さは,大学に入学した後や,就職活動の際にも影響を与えることが危惧される。これらの問題を解決する手立てとして,キャリア教育の一環である,職場体験やインターンシップが盛んになってきている。
社会や他者と関わることが,働く意欲を高めたり,進路選択の範囲を広げたりする役割があると期待されていると考えられる。
また,学校教育において,いじめの問題を対応するにあたり,道徳教育の役割に注目が集まっている。
2015年3月に「道徳」が「特別の教科である道徳」と位置づけられ,道徳教育の充実を図るため,教科としての道徳の目標や内容,教材などが見直された。
学校現場の多くでは,文部科学省が「心のノート」を改訂して作成した「私たちの道徳」という教材を中心に学習が進められていくこととなる。その特徴として,学習指導要領に示されている道徳の内容項目ごとに読み物部分と書き込み部分とで編成されており,いじめ問題への対応や伝統,文化に関する内容が充実されていたり,子どもたちの発達の段階を踏まえて,先人の名言や,偉人や著名人の生き方に関する内容が多く取り上げられたりしている。
こういった現状から,夢を持ち,目標となるような他者にあこがれることは,これからの社会を担う若者たちにとっての希望となるように思われる。
そこで,本研究では,他者との関わりが私たちの行動面や感情面にどのような影響を与えるのか,具体的な他者としてあこがれの人を想定し,検討していく。
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(2)あこがれについて
リクルート進学総研(2015)が行ったアンケート調査によると,全国の高校2年生に「目指している・あこがれている人」がいるかを尋ねたところ,目指している人・あこがれている人が「いる」と回答した高校生は全体の26%で,過去調査と比較すると減少傾向がみられた。
目指している人・あこがれている人と回答した高校生に,その対象を父親,母親,有名人,その他の中から選択させたところ,有名人が最も多く,次いで母親が挙げられた。性別ごとにみると,男子は父親,女子は母親の割合が多く,同性の親を理想とする傾向がみられた。
目指している・あこがれている理由の自由記述では,「いろんな事を知っているし,自分で経営しているからあこがれている」,「いつも笑顔で毎日を生き生きとすごしているから」,「人を思いやる気持ちを忘れずに人と接しているから」といった記述があり,偉業を成し遂げたような特別なことではなく,一緒に生活をする中で見られる内容が理由として挙げられている。
また,他者が個人の理想・生き方に影響を与える存在であると捉えた家島(2006)は,理想・生き方の面で感化を受けた人物に着目し,人がどのような関係にある人物から理想・生き方に影響を受けているのかを検討した。最も多いのは同性の親であり,身近な人では友人と教師,メディア上の人物では芸能人・有名人,マンガ・アニメの登場人物などが多く,多様な人物が影響を与えた他者として挙げられている。
そこで,私たちの夢や目標,生き方に関係し得る存在として,“あこがれの人”に着目する。
先行研究において,あこがれの人は,「具体的な行動方法,技術や行動事例を習得するために,模倣となる人物」,「自分が経験したことのないフィールドにいる人」,「ロールモデル」といった位置づけで用いられている(神谷,2014;青木・中島,2011;松田,2007)。
ここで,あこがれを感情として捉えられるかどうかについて,武藤(2014)の研究によると,尊敬に関わる感情を尊敬関連感情として捉え,青年期後期における尊敬関連感情経験が自己向上や優れた他者との関係性において重要な役割を果たすことが示唆された。
あこがれは,尊敬関連感情の5つの分類(敬愛,心酔,畏怖,感心,驚嘆)のうち,優れた誰かに夢中になる熱烈な気持ちという定義として心酔のカテゴリーに位置づけられてはいるが,あこがれだけを取り出して,言及はされていない。
また,あこがれによって期待される効果についての先行研究として,青木・中島(2011)は,社会的動機づけの一つとしてあこがれを取り上げ,あこがれが学ぶ意欲に及ぼす影響について,向上心(意欲,やる気,負けん気,と比較するための妬み),目標志向性(マスタリー目標,パフォーマンス目標)の関係から,小学校5・6年生と中学校1年生を対象に検討した。
その結果,あこがれは,内発的な意欲・やる気を介して,内発的な動機づけを高めるマスタリー目標につながったり,持続的・継続的な向上心には,強いあこがれが関わっている可能性があったりすることが示唆された。
その他に,松田(2007)はあこがれの人を通して夢や希望が意識されると,それは生活意欲・学習意欲につながっていくと指摘している。また,今村(2009)は,身近にあこがれの人を見つけることで,モチベーションを引き出すことできると考えている。
一方で,あこがれの人とはどのような対象がなりやすいのか,どういった特徴を持っているのかについて,検討した研究は少ない。
以上より,本研究では,私たちの夢や目標,生き方に関係し得る存在として,あこがれの人に着目し,どのような人物が対象となりやすく,あこがれた時期やきっかけ,あこがれるところについて検討する。
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(3)自己成長主導性について
今日,自己啓発という言葉がよく用いられ,自己啓発を促す書籍やセミナーの開催が増えてきており,現代社会において,自分自身の能力の向上や精神的な成長が求められているように思われる。
ここで,あこがれがやる気や生活・学習意欲の向上,目標設定や理想の生き方に関わる可能性があることから,実際に目標に向かって自身の能力を高めたり,成長を促したりするなど,行動自体への影響も考えられる。
私たちの行動に関して,人の内面および外的要因から起動・継続する仕事や職務に対する精神的活力のことをワーク・モチベーションといい,人が行動を起こす一つの要因であると言われている。
ワーク・モチベーションは働く意欲に関わる理論ではあるが,私たちの自己の成長や熟達への意欲にもつながりがあると考えられる。ワーク・モチベーションを生成する内面的な源泉には欲求,価値,感情の3つが存在する(齋藤,2012)。
欲求は,人の行為を起動し,持続させ,方向づけるような,人の内面の心理的エネルギーのことである。価値は,主体による主観的な解釈や評価のことである。感情は,行為を始動・持続・終結させる心理的エネルギーの一種である。
特に,感情は行動を喚起する段階で大きな役割を果たすと考えられている。
また,自己の成長に関して,自己成長主導性(Personal Growth Initiative:PGI)という理論(Robitschek,1998;Robitschek,Ashton,Spering,Geiger,Byers,Schotts,& Thoen,2012)がある。
Robitschek(1998)は,自己成長主導性(PGI)とは,自分の人生をよいものにしたいという意図の下に,自ら率先して自己成長をなしとげようとする認知的な側面・行動的な側面を含む概念と定義している。
PGIは精神的なWell-Being,希望ならびに楽観主義,幸福感などの概念を測る尺度との間に正の相関が確認されており,ポジティブな現象と関係があると考えられる。
また,PGIは人生の領域を横断する変化や成長への方向付けを行うものとされている。
そのため,自己成長に関わる教育プログラムやカウンセリング,コーチングでの活用の有効性や,職業の意志決定や自己効力感との関連についても検証を行う価値があるものと示唆されている。
また,Robitschek et al.(2012)は,自己成長のための個人の資源には必然的に限界があり,他者や社会的資源を活用することにより,自己成長が促進する可能性について指摘している。
このことから,資源としての他者を特定することが可能であれば,自己成長のために自己の変化だけを求めるのではなく,周囲からも有効なサポートができるようになると考えられる。
そこで,本研究では,行動の喚起に大きな役割を果たすとされている感情の中で,尊敬関連感情として考えられているあこがれと自己の成長との関連に着目し,あこがれの人を想起することでPGIにどのような影響を及ぼすのかを検討する。
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2.本研究の目的
本研究では,あこがれの人はどのような人物が対象となりやすく,あこがれた時期やきっかけ,どのようなところにあこがれ,あこがれることでどのような効果が得られるのかということを主導的な自己成長(PGI)との関連にも着目しながら,あこがれについて明らかにすることを本研究の目的とする。
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