占的な親密関係指向

 

 心理的居場所感と罪悪感予期が独占的な親密関係指向にどのような影響を与えるのか検討するために,階層的重回帰分析を行った。その結果,心理的居場所感と罪悪感予期の交互作用が見られた。さらに,単純傾斜検定の結果からは,心理的居場所感が低い場合において有意な傾きが見られた。

友人グループにおける心理的居場所感が低く友人グループ外の人を仲間に入れないことに対する罪悪感予期が高い場合に,独占的な親密関係指向が高くなることが示唆された。この結果から、心理的居場所感が低く罪悪感予期が高い場合,仲間集団指向性は低くなるだろうという本研究の仮説Bは支持されなかった。独占的な親密関係指向とは,「友達グループのメンバーでおそろいのものを持ちたい」や「友達グループのメンバーと交換日記をしたり,ケイタイなどでメールのやりとりをしたりすることがある」など特定の親しい友人関係を持っていることを背景とした,自分の所属する友人グループでない人に対する排他性や行動傾向の強さと,「友達グループのメンバーの子と他の子と楽しそうに話していると嫌な気分になる」と「友達グループのメンバーを他の子にとられそうで心配になる」の友達グループ内の人に対する感情を示した項目も含まれている。つまり,独占的な親密関係指向は,自分の所属している友人グループ内の人が友人グループ外の人と親しくなることを不快に思い,友人グループ内の人は自分とだけ親しくしてほしいという感情を表している。笠原・島谷(2012)は,「親和欲求」は「孤立不安」と関連があることを明らかにしている。つまり,友人との親しい関係になるのを望むことと友人から孤立することに対する不安が高い場合に、より強く友人と親しい関係になることを望むと考えられる。友人グループの中で居心地の良さや安心感は得られないが,友人グループ外の人が仲間に入れないような態度をとることは申し訳ないと思うので,友人グループ外の人を仲間に入れないように働きかけ排他する行動をとることはない。しかし,友人グループ外の人を入れることで,グループの居心地の良さや安心感がさらになくなり,居場所がなくなるかもしれないと不安に思うことで,友人グループ内の人は自分とだけ仲良くしてほしいと思う感情を高めることにつながると考えられる。つまり,友人グループ外の人に対してグループ内の人と違う態度をとることに対する罪悪感が高かったとしても,友人グループ内の居場所や安心感を得るために,友人グループ内の人は自分とだけ仲良くしてほしいと思い,行動し結果的に友人グループ外の人が仲間として入りづらい状況ができると考えられる。

最も独占的な親密関係指向が低くなったのは友人グループにおける心理的居場所感が低く友人グループ外の人を仲間に入れないことに対する罪悪感予期が低い場合である。つまり,自分の所属している友人グループにおいて安心感や居心地の良さを、あまり得られておらず,友人グループ外の人であるか友人グループ内の人であるかによって態度を変えることに対する申し訳なさが低い場合に,友人グループ内の人は友人グループ外の人と仲良くしてほしくないという感情が低くなるということが示唆された。この結果は心理的居場所感が低く罪悪感予期が低い場合,仲間集団指向性は高くなるだろう。という本研究の仮説Cは支持されなかった。友人グループにおける安心感や居心地の良さが低いということは自分の所属している友人グループ内の人とあまり親密な関係を築けていないと考えられる。友人グループ外の人に対して友人グループ内の人と態度を変えることを申し訳ないと思う感情が薄いことから,そもそも友人グループに所属しているという意識が低いのではないかと考えられる。