2-1.排他性の定義
先にも述べたように,中学生になると特定の友人と結びつきの強いグループを形成することが報告されている。特定の友人との親密度が高まるに伴って,仲間集団外の他者を受け入れないといった排他性を持つことが指摘されており(三島,2003),排他性の高さはいじめと関連していることが示唆されている(藤原・鵜飼,2009)。しかし,榎本(1999)は他者を求めながら閉鎖的な考えを築くことは,より広い友人関係を形成する段階において重要な関係であることを示唆しており,特定の友人との親密性を高めることも友人関係の発達において必要であると言える。
排他性の捉え方は研究によって様々である。黒川(2006)は,集団透過性という概念を用いて,友人グループ外の人との関わり方に着目している。集団透過性とは,個人の認知上での集団境界を通過できる可能性を表したものである。集団透過性は,集団内成員が集団外成員とかかわっている程度と,集団外成員が集団内成員とかかわっている程度から成り立っている。有倉・乾(2007)は,児童・生徒の友人関係の排他性について,感情レベルの排他性と排他的規範の認知の2つの観点から検討している。排他性規範とは,自分の所属する友人グループの排他的な行動に対してどのように捉えているのかを示したものである。三島(2003)は排他性について,集団や関係において「自分の仲間であるかどうかによって相手に対する態度を変えたり,自分の仲間と活動することに比べ,仲間以外の児童と活動することを楽しくないと感じたりする強さ」であると定義している。本研究ではこの定義を採用する。
2-2.いじめとの関連
藤原・鵜飼(2009)は,いじめ加害体験と排他性は関連があることを明らかにしており,親しい人であるかどうかによって態度を変えることはいじめであると認識されていると言える。三島・橋本(2016)は,仲間集団への指向性といじめ被害との関連について検討している。友人グループとの親密な関係に対する指向性が強い生徒ほど親しい仲間からいじめられたといういじめ認知が高くなることを明らかにしている。したがって,特定の友人と親密な関係を築くことは,友人グループ外の人が仲間に入りづらい環境を作り出している一方,親密な関係を友人グループ内で築きたいと思う人ほど,友人グループ内の人からいじめられたと感じる傾向があるということが分かる。
2-3.排他性と適応の関連
三島(2008b)は友人グループ内の結びつきが強く,友人グループの人がグループ外に出たり友人グループ外の人が友人グループ内に入ったりすることが少なく,仲間と仲間以外の者とに対する態度の違いが大きい友人グループの行動や考えを,仲間集団指向性としている。さらに,仲間集団指向性が強い成員から構成される友人グループは,グループ内の結び付きが強く,メンバー同士の関係が親密であり,仲間と仲間以外の者とに対する態度の違いが大きいことを明らかにしている。さらに,そのような友人グループは,友人グループ外の者に対して排他的な集団であることを明らかにしている。
有倉・乾(2007)は,友人グループの排他性について,排他性規範の弱い仲間集団の方が,また,排他性欲求の強い児童生徒の方が自分の所属している集団に適応していて,排他性規範の強い仲間集団にいながら排他性欲求の弱い児童・生徒が最も自集団適応感が低かったと述べている。排他性規範の強い集団に所属し排他性欲求が低い児童生徒は学校適応感が最も低くなっている。石本(2011)は,中学生のグループ境界の強固性と心理的適応との関連について,友人グループの境界が強固であるほど,心理的適応が低くなることを明らかにしている。これらの研究は,友人グループの境界が強い,あるいは友人グループ外の人を仲間に入れたくないと思う感情が強いほど,友人グループに適応していることを示唆している。
黒川(2006)は,仲間集団における関係の満足度と仲間集団外の人との関わりについて検討している。積極的に仲間集団外成員と関わる際には,仲間集団内地位が高いほど,友人グループの地位が低い人よりも友人グループから排除される可能性が低くなり,その結果,積極的に友人グループ外の人と関わっていくことができることを明らかにしている。また,友人グループ外の人を受け入れる際には,友人グループ内での適応が関係しているが,友人グループ内での地位は関係ないことを示唆している。そして,友人グループへの適応が高い人の方が,交友関係の基盤となる友人関係が良好であるために,集団外成員受容が高くなることを明らかにしている。つまり,友人グループに適応している人の方が,グループ外の人を仲間に受け入れやすいことを明らかにしている。
これらの先行研究から,友人グループ内での適応が高いと,排他性が高くなると示唆している研究と,排他性が低くなると示唆している研究があるが,友人グループに対する感情が,排他性に大きく影響を及ぼすものであると言える。
2-4.親密性との関連
三島(2004)は,親密性と排他性について「2人だけで過ごす時間」と「2人だけで行う行動」は親密な関係を表す行動である一方,第三者に対する排他的な行動であり,親密な友人関係はその関係に属さないものに対して排他的であるという特徴をもつことを示唆している。このことから,友人グループのメンバーだけで行動を共にすることは,友人グループ内の親密さを高める一方,友人グループ外の人が仲間に入りづらい状況を作りだすことによって,排他するつもりはなかったとしても,友人グループ外の人が仲間に入れないということが起こりうると考えられる。
石本(2011)の研究によると,グループ境界が強固であると,自己肯定意識が低下し,心理的距離が遠くなることを明らかにしている。これについて,石本(2011)は,グループ境界が強固であるということは,グループ間のメンバー移動が少なく,いつも同じメンバーで固まって過ごしているため,周囲からは親密な友人関係を持っていると評価されることを示唆している。したがって,中学生は,いつも一緒に休み時間を過ごしている友達グループのメンバーと必ずしも親密な関係を築いているわけではないと言える。
本研究では,友人グループにおいて,友人グループ内の人であるかどうかによって態度を変えることに関わる要因について検討する。