文部科学省(2003)の学校教育に関する意識調査において,小学校3年生では68.2%,小学校5年生は69.2%,中学校2年生では72.0%が学校で身につけたい能力は「友だちをつくったり,自分の周りの人々などと仲良く付き合ったりするなど社会の一員として必要な幅広い能力」と回答している。他者と良好な関係を築くことに対する関心は年齢が上がるにつれて大きくなると言えよう。また,文部科学省が発表した『平成26年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について』の不登校になったきっかけと考えられる状況によると,不登校になったきっかけについて小学生は,「不安などの情緒的錯乱」が36.1%,「無気力」が23.0%,「親子関係をめぐる問題」が19.1%,「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が11.2%と友人関係をきっかけとして不登校になったのは第4位と報告されている。一方,中学生は,「不安などの情緒的錯乱」が28.1%,「無気力」が26.7%,「いじめを除く友人関係をめぐるトラブル」が15.4%と第3位と報告されている。したがって中学生になると,小学生と比べて友人関係をめぐるトラブルや悩みが起こりやすくなると言える。友人関係をめぐるトラブルには,相手とコミュニケーションがうまくとれない,相手に無視をされた,など様々なものがあるが,友人関係をめぐるトラブルの1つに,友人グループの結びつきが強く,そのグループに所属していないために仲間はずれにする,仲間に入りづらいということが挙げられる。
榎本(2000)は,他者と閉鎖的な関係を築くことについて,同じ欲求を持ちながら互いの違いを理解し,より広く付き合う関係に移行するまでの成長の段階において,必要不可欠なことであることを示唆している。このことから,特定の友人と人間関係を築き,信頼関係を築くことは,友人の付き合い方の発達において必要な要因であると言える。しかし,藤原・鵜飼(2009)は排他性といじめに関連があることを示唆しており,特定の友人でない人を必要以上に排他することによっていじめにつながる可能性もある。また,三島(2008a)は,小学校高学年の時に経験したいじめ経験と高校生の時の友人関係の関連について,小学校高学年でいじめられた経験は,友人関係において親しい友人との間に心理的距離をとるようになることを明らかにしている。このことから親しい友人との関わり方が,その後の友人関係の形成に大きな影響を与えうることが考えられる。友人グループの実態を調査し,把握することは友人グループが抱える問題の支援の手がかりになると考えられる。
落合・佐藤(1995)は青年期の友達とのかかわり方の姿勢の発達による変化について検討している。青年期のはじめには,友達との間に距離を置き,周りに意見を合わせて自分を見せない「浅く広くかかわるつきあい方」が多く見られるが,年齢が増すにしたがって,積極的に理解し合おうとする深いつきあい方が増えていくことを明らかにしている。石本(2011)は,友達グループの境界の強固性は中学生,高校生,専門学校生と学校段階が上がるにつれて低下することを明らかにしている。友人とのつきあい方は年齢によって違いが見られ,中学生は友人グループ内の結びつきが最も強いと言える。また,長沼・落合(1998)は,青年期の友達との「つきあいの深さ」と「相手との心理的接近の仕方」について,女子は好かれていたいという願望が背景にあるつきあい方や,いつも決まった仲間と行動するなど密着した関係を持つことを明らかにしている。一方,男子は,友達に自分の内面を出さず,心理的に離れた関係を持つことを明らかにしており,性別によって友人関係に求めるつきあい方は異なると言える。高坂・池田・葉山・佐藤(2010)は中学生の友人関係の共有の心理的機能について,友人と同じものを持つ“物質的な共有”や,一緒に行動をする“行動的な共有”をしている友人関係よりも,気持ちや目標を共有する友人関係の方が,親密になる上で重要であることを明らかにしている。つまり,より親密な友人関係を築く上で,友人と一緒に行動することよりも,自分の気持ちを友人に伝えることが重要であると言える。しかし,石川(2011)は中学生の友達付き合いに関して,友達に対して率直に心を開いた関係を持ちづらいこと,自分と友達との間に心理的な距離を置いて,友達に自分を見せようとせず,自分を守ろうとして,一緒にいる仲間として友人関係を意味付けていることを示唆している。つまり,中学生の友人関係は,ありのままの自分を友人に見せたり,自分の本音を伝えたりせずに友人と同調的な関係を築く傾向があると言える。したがって,友人グループ内の結びつきが強いにも関わらず,自分の本当の気持ちや意見を友人に伝えることは,中学生にとって容易なことではないと考えられる。本研究では強固な結びつきを持つとされている中学生の友人グループに着目し,その実態について調査を行う。