定的な集団指向性

 

 心理的居場所感と罪悪感予期が固定的な集団指向性にどのような影響を与えるのか検討するために,階層的重回帰分析を行った。心理的居場所感と罪悪感予期を独立変数とし,固定的な集団指向を従属変数として交互作用の検定を行ったところ心理的居場所感と罪悪感予期の交互作用が見られた。さらに,単純傾斜検定の結果から,心理的居場所感が高い場合において有意な傾きが見られた。

友人グループにおける心理的居場所感が高く,親しいかどうかで態度を変えることに対する罪悪感予期が高い場合に,固定的な集団指向が最も低くなるということが示された。固定的な集団指向とは,メンバーの流動性が小さい固定化した友人グループに対する指向性を背景に,自分の所属する友人グループに所属していない人に対する排他的な考え方や行動傾向の強さを表したものである。つまり,自分の所属している友人グループにおいて安心感や居心地の良さを十分に得られており,グループ内の人だけで行動することや,グループ外の人に対して態度を変えることを申し訳ないと思う気持ちが強いと,友人グループ外の人を仲間に入れずに行動したいという感情が抑制されることが示唆された。この結果は,心理的居場所感が高く罪悪感予期が高い場合,仲間集団指向性は低くなるだろうという本研究の仮説@を一部支持するものであると考えらえる。

また罪悪感予期の影響について,大西・黒川・吉田(2009)は,いじめに対する罪悪感予期が,異質性排除や享楽的いじめ加害傾向を抑制する傾向があることを明らかにし,石川(2010)は,いじめを傍観したり同調したりすることに対する罪悪感と良好な友人関係を持つことが関連のあるものであることを明らかにしている。本研究では,友人グループ外の人であるか友人グループ内の人であるかによって態度を変えることに対する罪悪感が,友人グループ外の人であるか友人グループ内の人であるかによって態度を変えることを抑制するということが示された。したがって,友人グループにおける安心感や居心地の良さは高く,友人グループ内の人だけで固まって行動したいという感情はあるが,友人グループ外の人を仲間に入れないことを申し訳ないと思うことによって,友人グループ外の人を仲間に入れず,友人グループ内の人だけで固まって行動したいという感情が抑制されると考えられる。

友人グループにおける心理的居場所感が高く,友人グループ外の人を仲間に入れないことに対する罪悪感予期が低い場合に,固定的な集団指向が最も高くなることが示された。つまり,友人グループにおいて安心感や居心地の良さを得られており,友人グループ内の人であるかどうかによって態度を変えることに対する申し訳なさが弱い場合に,友人グループ外の人を仲間に入れず,友人グループ内の人で固まって行動したいという感情が高くなることが示唆された。この結果は,心理的居場所感が高く罪悪感予期が低い場合,仲間集団指向性は高くなるだろうという本研究の仮説Aを一部支持するものであると考えられる。自分の所属している友人グループにおいて安心感や居心地の良さを十分に得られており、友人グループ外の人を仲間に入れることで今得られている居心地の良さや安心感がなくなることに対する不安が生じ,友人グループ内の人で固まって行動したいと思う感情が高くなる。これは排他性欲求の強さと友人グループにおける適応感は関連があることを示唆した有倉・乾(2007)の結果と一致する。さらに,友人グループ外の人を仲間に入れないことに対する罪悪感も低いことから,友人グループ外の人を仲間に入れず,友人グループ内の人だけで固まって行動したいと思う感情を,より高めることにつながったと考えられる。

友人グループにおける心理的居場所感が高い群と低い群の両方において,友人グループ外の人を仲間に入れないことに対する罪悪感予期が高いことが,固定的な集団指向性を抑制することが示された。高群と低群を比較すると,友人グループにおける心理的居場所感の高い群の方が友人グループ外の人を仲間に入れないことに対する罪悪感が高まるにつれて,固定的な集団指向の得点が低くなっている。心理的居場所感が高い場合には、グループ外の人を排他し、親しいかどうかで態度を変えることに対する罪悪感予期によって、固定的な友人グループのメンバーのみで行動したいという感情が抑制されるが、友人グループにおいて安心感や居心地の良さを得られていない場合は、友人グループ外に人を排他する罪悪感予期では固定的な人間関係を維持し、行動したいという感情は抑制されないということが示唆された。つまり,友人グループ内において安心感や居心地の良さを十分に得られている場合は,友人グループ外の人を排他することへの罪悪感予期がより強く固定的な集団指向性に影響すると考えられる。