理的居場所感

 

3-1心理的居場所感の定義

  近年,「居場所」という概念が注目されている。「居場所」の意味には,いるばしょ,いるところ,という意味があり(広辞苑第6版),自分が存在する場所という意味だけでなく,心理的な意味で自分が存在する場所という意味も含んでいる。

居場所の捉え方は研究によって様々である。杉本・庄司(2006b)は小・中・高校生の「居場所」の心理的機能の因子として「被受容感」「精神的安定」「行動の自由」「思考・内省」「自己肯定感」「他者からの自由」の6つがあることを明らかにした。また,「自分ひとりの居場所」「家族のいる場所」「家族以外の人のいる場所」の3つに分類し,それぞれの「居場所」のもつ心理的機能の固有性を明らかにした。そして,個人の「居場所」を総合的に捉える概念として「居場所環境」を提唱し,居場所環境について検討した。その結果,中学生は「自分の部屋」と「教室」と「家」を居場所として挙げていることが明らかにされた。また,男子より女子の方が「友だちのいる居場所」を含む居場所環境を持っていることを明らかにしている。石本(2010)は,居場所感を教育臨床と心理臨床の視点から「ありのままでいられる」ことを測定する本来感尺度と「役に立っていると思える」ことを測定する自己有用感の2つの尺度から居場所感尺度を構成した。則定(2008)は,居場所について,物理的居場所の有無は別にして,心理的側面を含めた「居場所」の検討をしている。心理的居場所感を構成する概念として,「自分が自分である」と思う本来感,「ありのままの自分を受け入れられる」と思う被受容感,「必要とされている」と思う役割感,「安心する」と思う安心感の4つから心理的居場所感が構成されていると述べ,居場所感の発達的特徴について検討した。本研究では友人グループにおいて,物理的な意味での「居場所」ではなく,心理的な意味で「居場所」があると思う強さを測定するために,則定(2008)の心理的居場所感を用いる。則定(2008)は心理的居場所感について「心の拠り所となる関係性,および,安心感があり,ありのままの自分を受容される場」と定義しており,本研究でもこの定義を採用する。

 

3-2.心理的居場所感の心理的機能

 杉本・庄司(2006a)は,中学生の「友だちのいる居場所」での心理的機能について,被受容感,自己肯定感,行動の自由と,内省・思考が低くなることを明らかにしている。つまり,自分が受け入れられていると思うこと,自分で自分を受け入れられていると思うことが高い一方,行動の自由や自分について考えるという機能は「友だちのいる居場所」では低いことを示唆している。石本(2011)は,居場所感と自己肯定意識との関連について検討している。居場所感が自己肯定意識の様々な側面に影響しており,ありのままでいられ,役に立っていると思えるような人間関係を築くことによって心理的適応を高めているということを示している。

 

3-3心理的居場所感の性差

 先行研究から居場所感には性差が見られることが報告されている。杉本・庄司(2006b)は,居場所の心理的機能について,女子は自分が人から受け入れられていると感じることが重要で,男子は自分で自分を受け入れられていると感じることが重要であることを示唆している。石本(2011)の研究では,中学生男子は,友人関係での本来感が自己受容に影響を与え,中学生女子では,友人関係での本来感が充実感と学校生活享受感に,友人関係での自己有用感が自己実現的態度に影響を与えていることを明らかにしている。男子は友人関係においてありのままでいられると思うことが自分を受け入れることにつながり,女子は友人関係においてありのままでいられる,必要とされていると思うことによって,自分自身の態度や学校生活を送る上で良い影響を与えることを示唆している。則定(2008)の研究では,中学生男子,中学生女子ともに心理的居場所感の下位尺度の得点の差について,男子女子ともに,安心感と本来感が高くなっており,その次に男子は役割感の方が高く,女子は被受容感が高くなっていることが示された。友人グループにおいて安心感がある,ありのままでいられると思うことが重要で,男子については必要とされていると思うこと,女子は友人グループに受け入れられていると思うことが重要であると言える。