本研究の課題と展望

【本研究の課題と展望】

本研究では仮説を完全に支持する満足した結果を得ることができなかった。大き な理由は,コミュニケーション・スキルと遠慮・察しコミュニケーションスキルの 上一致である。さらにそこに親密性という要因が加わり,親密性に応じた遠慮・察しコミュニケーションの違いが見られた。その最たる例が,友人関係の構築スキルであろう。親密な相手にはあえて無遠慮さや察しのなさを発揮すること,親密でない相手には逆に過剰に配慮することで,評価を下げないようにふるまうことが,友人関係の構築というコミュニケーションスキルに求められていることが示唆された。本研究で使用した友人関係構築の下位尺度尺度はわずか2項目でしか構成されておらず,妥当性を欠いている。また,関係調整能力としてコミュニケーションスキルを広く扱っていたため,筆者自身,スキル一つ一つに対して十分な研究を行っていなかった。今後の課題の一つは,数多くあるコミュニケーションスキルを遠慮・察しコミュニケーションスキルと同一視せず,遠慮・察しコミュニケーションと合致しているのかどうか,スキルを一つ一つ精査することである。

さらに,親密性の統制のあり方にも検討すべき課題が見つかった。本研究の質問紙では高群“親しい同期の友人とコミュニケーションをとるとき”,低群で“会ったばかりの友人(先輩,後輩を除く),または友人の中でもそれほど親しくない人とコミュニケーションをとるとき”,としたのみであり,状況の統制までは行っていない。しかし,親密性の統制が状況を規定し,状況がコミュニケーションスキルと遠慮・察しコミュニケーションに影響した可能性がある。本研究の場合では,親密性低群の回答者の多くが,それほど親しくない友人とのコミュニケーションと聞いて,授業中の話し合いを想像した可能性がある。そうなれば,他者説得力が過剰遠慮行動の抑制をもたらすのは妥当といえる。今後の課題のもう一つは,親疎と同時に状況も統制することで,対人的志向性およびコミュニケーションスキルの単純な影響を測定することである。これと並行して,状況の違いがコミュニケーションスキルおよび遠慮・察しコミュニケーションに及ぼすかどうかを明確にしておかなければならない。

最後に,遠慮・察しコミュニケーション尺度の信頼性・妥当性である。本研究では高群・低群共に下位尺度間の相関があまり見られなかった。遠慮と察しは相互同調的に働くと考えられていたこれまでの研究からすると,遠慮と察しの間に相関が見られるべきであろう。遠慮・察しコミュニケーションをスキルとして扱うために筆者独自の項目を加えたため,原典の遠慮・察しコミュニケーション尺度とは少し異なる解釈も含まれていた可能性がある。小山・池田(2011)は遠慮・察しコミュニケーション尺度の内的一貫性を確認することを課題に挙げている。遠慮・察しコミュニケーションは,心理学的にはあまり研究事例のない概念である。遠慮・察しコミュニケーション尺度の精度を高め,何が「遠慮・察しコミュニケーション《といえるのかを明確にすることが,3つ目の今後の課題である。

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