考察



 本研究の目的は,だてマスクの着用と,プライバシー志向性,自己隠蔽,居場所感との関連について明らかにすることであった。

 この目的をふまえ,本研究で立てられた仮説は以下の3つであった。

仮説1:外見を意識した目的でマスクを着用する人は,居場所感尺度の「本来感」の得点が低く,「自己隠蔽」の得点が高いだろう。

仮説2:人との接触を避ける目的でマスクを着用する人は,居場所感尺度の「本来感」と「自己有用感」の得点が低いだろう。

仮説3:人との接触を避ける目的でマスクを着用する人は,プライバシー志向性尺度の「自由意志」と「遠慮期待」の得点が高いだろう。



1.マスク着用に関する尺度について


 本研究では,だてマスクをする目的についてどのくらいの頻度でマスクを着用するかを測定する,マスク着用に関する尺度を独自で作成した。
マスク着用に関する尺度の因子分析の結果,「接触回避」,「機能的利用」,「美容的利用」の3因子が抽出された。
「接触回避」については,「表情を作るのが面倒だから」「誰とも話したくないから」といった項目が含まれており,人との接触を避ける内容であった。
「機能的利用」は,「マスクをするとあたたかいから」「肌・鼻・喉を保湿するため」といった項目が含まれており,マスクを機能的に利用している内容であった。
「美容的利用」は「小顔効果があるから」「目元を強調するため」といった項目が含まれており,外見を意識し,マスクを美容的に利用している内容であった。
 また,男女差の検討をするためにt検定を行ったところ,マスク着用に関する尺度のすべての下位尺度において男女差がみられ,男性よりも女性の方が,さまざまな目的でだてマスクを経験している可能性が示された。
株式会社インターワイヤードのDIMSDRIVEが行った調査において,男性よりも女性の方がだてマスク経験者の割合が圧倒的に高いという結果が報告されている。
また,ユニ・チャーム株式会社がアンケート調査においても,女性にだてマスク経験者が多いという結果が示されており,本研究においてもこれらの調査と同じような結果が得られた。
 マスク着用に関する尺度の下位尺度の信頼性係数については,十分な値が得られたことから,マスク着用に関する尺度の一定の信頼性が認められた。
本研究においては,「接触回避」と「美容的利用」にフロア効果が見られたが,分析に必要な下位尺度と判断し,その後の分析においても除外せずに使用している。
よって,今後さらに項目を精査し,尺度を検討していく必要がある。



2.だてマスクの着用と,プライバシー志向性,自己隠蔽,居場所感との関連


 男女ごとに,マスク着用に関する尺度の各下位尺度得点の高群・低群において,日本語版自己隠蔽尺度,プライバシー志向性尺度(本邦版)の各下位尺度と,居場所感尺度の各下位尺度の得点の違いを比較するためにt検定を行った。
その結果,男女の「接触回避」では,「自己隠蔽」,「遠慮期待」,「閑居」が低群よりも高群の方が有意に高いという結果となった。これより,仮説3の一部が支持された。
女性の「接触回避」では,「自己有用感」が高群よりも低群の方が有意に高いという結果となった。よって,仮説2の一部が支持された。
また,女性の「美容的利用」では,「遠慮期待」と「隔離」が低群よりも高群の方が有意に高いという結果となった。この結果から,仮説1は支持されなかった。
 マスク着用に関する尺度得点を用いてクラスタ分析を行った結果,4つのクラスタを得た。
第1クラスタは,マスク着用に関する尺度の各下位尺度得点が低かったことから,だてマスクを利用しない,もしくは利用頻度が低いと考えられる。
第2クラスタは,「接触回避」と「美容的利用」の得点は平均以下であったが,「機能的利用」得点はわずかではあるが平均値を上回っていたため,だてマスクの利用頻度は低いが,利用するならば「機能的利用」が主な目的であると考えられる。
第3クラスタは,マスク着用に関する尺度の各下位尺度得点が高く,特に「接触回避」得点はすべてのクラスタの中で最も高いことから,だてマスクの利用頻度が比較的高く,「接触回避」が主な目的であると考えられる。
第4クラスタは,マスク着用に関する尺度の各下位尺度得点が平均値を上回っており,特に「美容的利用」得点はすべてのクラスタの中で最も高いことから,だてマスクの利用頻度は中程度であり,「美容的利用」が主な目的であると考えられる。
以上のことより,第1クラスタを「だてマスク利用なし群」,第2クラスタを「機能的利用群」,第3クラスタを「接触回避群」,第4クラスタを「美容的利用群」と命名した。
 次に,得られた4つのクラスタを独立変数,日本語版自己隠蔽尺度,プライバシー志向性尺度(本邦版)の下位尺度「独居」,「自由意志」,「友人との親密性」,「遠慮期待」,「家族との親密性」,「閑居」,「隔離」と,居場所感尺度の下位尺度「自己有用感」,「本来感」を従属変数として1元配置の分散分析を行った。
その結果,「自己隠蔽」,「閑居」,「隔離」において有意な群間差が見られた。
多重比較を行ったところ、「自己隠蔽」得点が、だてマスク利用なし群よりも接触回避群が有意に高かった。このことから,接触回避群は自己隠蔽傾向が高いということが示された。