結果



1.マスク着用に関する尺度の因子分析


 マスク着用に関する尺度全18項目を対象に因子分析を行った(最尤法,プロマックス回転)。
因子負荷量が.03未満の項目と,複数の因子に.03以上の負荷量が見られた項目を削除し,再度因子分析を行った結果,3因子が抽出された(Table5)。
第1因子は「マスクをするとあたたかいから」「肌・鼻・喉を保湿するため」といった項目が含まれており,マスクを機能的に利用している内容であることから「機能的利用」,第2因子は,「表情を作るのが面倒だから」「誰とも話したくないから」といった項目が含まれており,人との接触を避ける内容であることから「接触回避」,第3因子は「小顔効果があるから」「目元を強調するため」といった項目が含まれており,外見を意識し,マスクを美容的に利用している内容であることから「美容的利用」と命名した。
マスク着用に関する尺度の下位尺度ごとにCronbachのα係数を算出すると,「機能的利用」はα=.809,「接触回避」はα=.877,「美容的利用」はα=.819となっており,十分な値が得られた。






2.記述統計量


 各下位尺度において平均点,標準偏差を算出した(Table6)。
その結果,マスク着用に関する尺度の「接触回避」と「美容的利用」において,フロア効果が見られたが,分析に必要な下位尺度と判断し,今後の分析においても使用することとした。
次に,内的整合性を検討するため,各下位尺度においてCronbachのα係数を算出した(Table6)。
その結果,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「自由意志」(α=.528),「遠慮期待」(α=.645),「家族との親密性」(α=.665),「閑居」(α=.695)において,信頼性がやや低い結果となったが,7下位尺度であることを考慮し,利用可能な値であると判断した。






3.各下位尺度間の相関分析


 マスク着用に関する尺度,日本語版自己隠蔽尺度,プライバシー志向性尺度(本邦版),居場所感尺度の各下位尺度間の関係を見るため,相関分析を行った(Table7)。

3-1.各尺度内の相関
 各尺度内での相関関係をみると,マスク着用に関する尺度の「接触回避」と「機能的利用」,「接触回避」と「美容的利用」,「機能的利用」と「美容的利用」の間に有意な正の相関が見られた(r=.637 ; p<.01, r=.531 ; p<.01, r=.522 ; p<.01)。
 プライバシー志向性尺度(本邦版)の「独居」は,「自由意志」,「遠慮期待」,「閑居」,「隔離」との間に有意な正の相関が見られた(r=.436 ; p<.01, r=.360 ; p<.01, r=.505 ; p<.01, r=.226 ; p<.01)。
また,「自由意志」は,「遠慮期待」,「閑居」,「隔離」との間に有意な正の相関(r=.242 ; p<.01, r=.343 ; p<.01, r=.176 ; p<.05),「友人との親密性」は,「家族との親密性」との間に有意な正の相関が見られた(r=.233 ; p<.01)。
さらに,「遠慮期待」は,「家族との親密性」,「閑居」,「隔離」との間に有意な正の相関(r=.182 ; p<.05, r=.289 ; p<.01, r=.189 ; p<.05),「閑居」は,「隔離」との間に有意な正の相関がみられた(r=.467 ; p<.01)。
 居場所感尺度の「自己有用感」と「本来感」との間に有意な正の相関が見られた(r=.401 ; p<.01)。

3-2.各尺度間の相関
 各尺度間の相関をみると,マスク着用に関する尺度の「接触回避」は,自己隠蔽尺度,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「独居」,「遠慮期待」,「閑居」との間に有意な正の相関(r=.372 ; p<.01, r=.224 ; p<.01, r=.294 ; p<.01, r=.263 ; p<.01),「機能的利用」は,自己隠蔽尺度,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「遠慮期待」との間に有意な正の相関(r=.174 ; p<.05, r=.232 ; p<.01),居場所感尺度の「本来感」との間には負の相関が見られた(r=-.181 ; p<.05)。
また,「美容的利用」は,自己隠蔽尺度,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「遠慮期待」,「閑居」との間に有意な正の相関が見られた(r=.264 ; p<.01, r=.228 ; p<.01, r=.257 ; p<.01)。
 自己隠蔽尺度は,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「独居」,「遠慮期待」,「閑居」,「隔離」との間に有意な正の相関(r=.360 ; p<.01, r=.472 ; p<.01, r=.445 ; p<.01, r=.220 ; p<.01),居場所感尺度の「自己有用感」,「本来感」との間には有意な負の相関が見られた(r=-.210 ; p<.01, r=-.363 ; p<.01)。
 プライバシー志向性尺度(本邦版)の「友人との親密性」は,居場所感尺度の「自己有用感」との間に有意な正の相関が見られた(r=.283 ; p<.01)。
 居場所感尺度の「本来感」は,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「自由意志」,「家族との親密性」,「隔離」との間に正の相関(r=.198 ; p<.05, r=.169 ; p<.05, r=.167 ; p<.05),「遠慮期待」との間には負の相関が見られた(r=-.155 ; p<.05)。






4.男女差の検討


 男女差の検定を行うために各下位尺度においてt検定を行った。
各下位尺度のt検定の結果をTable8に示す。
その結果,マスク着用に関する尺度の「機能的利用」,「接触回避」,「美容的利用」,プライバシー志向性尺度(本邦版)の「遠慮期待」,「家族との親密性」においては男性が順に平均1.87,1.50,1.16,3.10,3.32,女性が順に平均2.45,2.02,1.41,3.40,3.63と男性よりも女性の方が有意に高い得点を示していた(t=.4.80 ; p<.01, t=.3.40 ; p<.01, t=.2.76 ; p<.01, t=.2.04 ; p<.05, t=.2.37 ; p<.05)。






5.マスク着用に関する尺度の各下位尺度の高低別のt検定


 マスク着用に関する尺度の下位尺度「機能的利用」、「接触回避」、「美容的利用」の得点ををそれぞれ男女ごとに平均点で高群と低群に分けたところ、「機能的利用」においては男性高群15名、低群40名、女性高群66名、低群41名に分けられた。
「接触回避」においては男性高群15名、低群40名、女性高群50名、低群57名に分けられた。
「美容的利用」においては男性高群8名、低群47名、女性高群41名、低群66名に分けられた。
 男女ごとに、マスク着用に関する尺度の各下位尺度得点の高群・低群において、日本語版自己隠蔽尺度、プライバシー志向性尺度(本邦版)の下位尺度「独居」、「自由意志」、「友人との親密性」、「遠慮期待」、「家族との親密性」、「閑居」、「隔離」と、居場所感尺度の下位尺度「自己有用感」、「本来感」の得点の違いを比較するためにt検定を行った。
その結果、男性の「接触回避」では、「自己隠蔽」、「遠慮期待」、「閑居」において高群が順に平均値3.37,3.71,3.24,低群が順に平均値2.82,2.88,2.60と低群よりも高群の方が有意に高い得点を示していた(t=.2.61 ; p<.05, t=.3.54 ; p<.01, t=.2.26 ; p<.05)。
女性の「接触回避」では、「自己隠蔽」、「遠慮期待」、「閑居」、「自己有用感」において高群が順に平均値3.31,3.63,3.22,2.58,低群が順に平均値2.74,3.21,2.67,3.01と、「自己隠蔽」、「遠慮期待」、「閑居」では低群よりも高群の方が有意に高く、「自己有用感」では高群よりも低群の方が有意に高い得点を示していた(t=.3.49 ; p<.01, t=.2.45 ; p<.05, t=.2.55 ; p<.05, t=.2.76 ; p<.01)。
また,女性の「美容的利用」では,「遠慮期待」と「隔離」において高群が順に3.64,2.34,低群が順に3.26,1.83と低群よりも高群の方が有意に高い得点を示していた(t=.2.24 ; p<.05, t=.2.33 ; p<.05)。結果をTable9,10,11に示す。










6.クラスタ分析による検討


 マスク着用に関する尺度と日本語版自己隠蔽尺度、プライバシー志向性尺度(本邦版)、居場所感尺度の関係について検討するため、女性を対象にクラスタ分析を行った(Ward法)。
 マスク着用に関する尺度得点を用いてクラスタ分析を行い、4つのクラスタを得た。第1クラスタには39名,第2クラスタには28名,第3クラスタには26名,第4クラスタには14名の調査対象者が含まれていた。
 得られた4つのクラスタそれぞれにおけるマスク着用に関する尺度得点の差をFigure3に示す。



 得られた4つのクラスタを用いて、4つのクラスタを独立変数、マスク着用に関する尺度の「機能的利用」、「接触回避」、「美容的利用」を従属変数として1元配置の分散分析を行った。
機能的利用得点は、女性全体の平均値が2.45であるのに対して、第1クラスタの平均値が1.62、第2クラスタの平均値が2.56、第3クラスタの平均値が3.34、第4クラスタの平均値が2.88であった。
接触回避得点は、女性全体の平均値が2.02であるのに対して、第1クラスタの平均値が1.01、第2クラスタの平均値が1.75、第3クラスタの平均値が3.69、第4クラスタの平均値が2.29であった。
美容的利用得点は、女性全体の平均値が1.41であるのに対して、第1クラスタの平均値が1.03、第2クラスタの平均値が1.10、第3クラスタの平均値が1.78、第4クラスタの平均値が2.43であった。
「機能的利用」、「接触回避」、「美容的利用」すべてにおいて、有意な群間差が示された(機能的利用:F(3,103)=50.24 ; p<.01, 接触回避:F(3,103)=159.67 ; p<.01, 美容的利用F(3,103)=39.22 ; p<.01)。
TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行ったところ,「機能的利用」得点は、第1クラスタよりも第2クラスタ、第3クラスタ、第4クラスタが有意に高く、第2クラスタよりも第3クラスタが有意に高かった。
「接触回避」得点は、第1クラスタ、第2クラスタ,第4クラスタ,第3クラスタの順で有意に高かった。
「美容的利用」得点は、第1クラスタよりも第3クラスタと第4クラスタが有意に高く、第2クラスタよりも第3クラスタ、第4クラスタが有意に高く、第3クラスタよりも第4クラスタが有意に高かった。
以上をふまえて、第1クラスタを「だてマスク利用なし群」、第2クラスタを「機能的利用群」、第3クラスタを「接触回避群」、第4クラスタを「美容的利用群」と命名した。

 次に、得られた4つのクラスタを独立変数、日本語版自己隠蔽尺度、プライバシー志向性尺度(本邦版)の下位尺度「独居」、「自由意志」、「友人との親密性」、「遠慮期待」、「家族との親密性」、「閑居」、「隔離」と、居場所感尺度の下位尺度「自己有用感」、「本来感」を従属変数として1元配置の分散分析を行った。
その結果、「自己隠蔽」、「閑居」、「隔離」において有意な群間差が見られた。
TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行ったところ、「自己隠蔽」得点は、第1クラスタよりも第3クラスタが有意に高かった(自己隠蔽:F(3,103)=5.57 ; p<.01, 閑居:F(3,103)=3.00 ; p<.05, 隔離:F(3,103)=2.81 ; p<.05)。
得点差をFigure4に示す。