総合考察と今後の課題



本研究では,本研究は,話し合い場面において,自らが少数意見者となった時に,社会的支持者の存在による主観的なサポート受容感の生起によって,多数派意見に同調せずに意見を維持し,グループ内の他者に向けて主張できるのかということについて,実際に多数派と少数派で話し合うという状況を作り,社会的支持者の有無の比較によって検討した。また,公的自己意識に着目し,主観的なサポート受容感による不安感低減への効果についても検討した。


本研究では以下のことが明らかになった。

まず,社会的支持者の存在によって主観的なサポート受容感が生起されるが,必ずしも意見の維持に影響を与えないことがあげられる。意見の維持・変容についてはかなり個人差が見られ,本研究では,社会的支持者の存在によって多数派への同調が低減され,行動意図を維持するという先行研究(Allen(1975),松村(2001) )をやや支持しない結果となった。しかし,被験者個人に焦点を当てると社会的支持者がいることによって主観的なサポート受容感が高まり,意見が維持される者もいた。今までの同調実験では知覚実験による研究が多く,今回は話し合い場面という会話の柔軟性を伴うものであったこともあり,実験によって会話内容が完全に一致したものはなかった。したがって,他の要因が多く関わっていると考えられ,統制するべきものは何か慎重に検討して実験を行う必要があるだろう。

次に,社会的支持者と発言回数について,支持者無群の方が支持者有群よりも有意に高い得点を示していたことである。つまり,社会的支持者のいない方が発言回数は増えることが示唆された。支持者無群は,同じ意見の人がいないため,自らが発言しなくてはならないという責任感が生じることや社会的支持者が同じ意見を持つ者が2人ではなく自分のみである方が他者縛られずに自由に発言できること,支持者有群では同じ方向の意見を持つ人が2人であることによって社会的手抜きが働いたことが要因となり,支持者がいない方が,発言時間が増えたのではないかと考えられる。

最後に,公的自己意識の高い者は主観的なサポート受容感が高まるが,不安感低減には個人差があることがあげられる。この結果は,統計的に十分な検証はできずに被験者個人に焦点を当てて検討したものであったため,今後人数を増やして再度検討する必要があるだろう。



今後の課題として,以下のことがあげられる。

1つ目は,本研究における被験者の人数が不足していたことである。当初の予定では支持者有群15名,支持者無群15名の計30名で実験を行うこととなっていたが,実験者と多数派サクラと被験者の予定が合わず,短い期間内に支持者有群6名,支持者無群6名の計12名のデータしか収集することができなかった。そのため,統計的に分析して信頼性や妥当性の高い結果を得ることができず,群ごとの傾向や被験者個人に焦点を当てて行う事例研究を行った。よって,長期間の中で確実に実験を行っていき,多くの実験データを収集する必要があるだろう。

2つ目は,テーマの検討とテーマへの関心の程度の測定である。今回のテーマは,友人に海外旅行に行くことを薦めるか,国内旅行を薦めるかを選択するというものであったが,被験者の中には英語系の学科に所属する者や海外出身者がいた。また,テーマに対しての関心度にも個人差があり,実験への態度もテーマ次第で異なる可能性がある。よって,今回は含んでいなかったが,テーマを1つに絞らずに複数のテーマを用意して実験を行うことや,設定したテーマに対しての関心度を測るような質問項目をおくことが必要であったと考える。

3つ目は,被験者全体的に公的自己意識得点が高かったことである。本研究では,仮説3において支持者有群を公的自己意識の高群と低群に分け,不安感の低減を比較して検討する予定であったが,収集データが少ないことや,また,菅原(1984)は,大学生の公的自己意識の平均得点は男性よりも女性の方が有意に高いことが示しており,サクラが全て女性で性差の影響を考えて実験対象者を女性にしていたことによって全体として公的自己意識が高かったと考えられる。よって,被験者を増やすのはもちろんのこと,話し合いのメンバーの男女構成について検討した上で,用いるサクラや実験対象者の性別を決めていく必要があるだろうと考えられる。

4つ目は,同調の程度の測定である。本研究では,二者択一のテーマについて話し合いを行い,2つの選択肢から一方を選択する形式であったが,意見の維持・変容の判断が同じ選択肢を選んだかどうかというものであり,社会的支持者の存在によって多数派への同調の程度の変化を見ることはできなかった。よって,実験後にスケールを用いて多数派への同調の程度を測定する項目を設けることで,もし支持者有群で意見が変化してもどの程度多数派へ同調したのかということを踏まえた上で検討を行うことができたと考えられる。

5つ目は,実験の座席の配置である。本研究では,多数派と少数派であることを認識した上で,6人で話し合いを行う形式であったが,被験者と司会者の配置は向かい合わせであった。映像データを見ると,司会者が意見を他のメンバーに振った時,正面に被験者がいるために視線が重なり,自分が発言しなければいけないという使命感のようなものを被験者が生起させ,真っ先に言わざるを得ないという状況が多くの実験で見られた。これが,発言回数に少なくとも影響しているのではないかと考えられる。また,今回社会的支持者の位置を被験者から向かって右に配置したが,その位置が必ずしも最大限に主観的なサポート受容感を生起させるとは限らない。したがって,被験者,司会者,社会的支持者の位置を変えて比較し,発言回数や主観的なサポート受容感への影響を検討する必要があるだろうと考えられる。

6つ目は,実験内容についてである。本研究では,話し合いを活発にするために異なる意見を持つ人を説得するように進めることとしたが,説得するということを意識してルールを忠実に守るために,活発に話し合いを進めていた被験者がおり,発言回数に影響を与えていた可能性がある。しかし,日常の話し合い場面ではそのような制約は無く,そのルールを設けたことで発言回数に影響があり,普段とは異なる状態であった可能性があることは否めない。できる限り発言回数に影響が出ないようなルールの検討が必要であろうと考えられる。


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