本研究では,多数派と少数派を形成するために被験者1人に対してサクラを5人用意し,支持者有群と支持者無群に分けた。そして,6人で提示した二者択一のテーマについて話し合わせた。質問紙は実験前後の計2回で回答を求めた。支持者有群と支持者無群の違いについて,支持者有群は多数派4人と少数派2人,支持者無群は多数派5人と少数派1人で構成されたものであり,いずれも被験者は少数派とした。
三重県内の女子大学生13名に実験を行い,全ての回答に不備がなかったが,サクラを認識した1名を除き,女子大学生12名。被験者の平均年齢は20.67歳,標準偏差は1.37であった。支持者有群6名,支持者無群6名で行った。
2016年11月上旬〜12月上旬
多数派と少数派の状況を作るために,5人サクラを用意した。群を2つに分け,多数派4人と少数派2人で話し合いを行う支持者有群では,多数派のサクラを4人と支持者となるサクラを1人,多数派5人と少数派1人で話し合いを行う支持者無群では,多数派のサクラを5人用いた。サクラは全ての実験において同じメンバーであり,各群4回ずつ本実験と同様に練習を行った。また,被験者を含めた話し合うメンバーに番号の書いた名札を与え,話し合う時に呼びやすいようにした。
A4サイズの裏に「国内旅行」表に「海外旅行」と書いた紙(以下,意見選択用紙)を1人ずつに配布し,他のメンバーに対して意思表示する時に利用した。話し合いの様子はビデオカメラで撮影・録画した。
机と椅子の位置について,机は縦240cm×横120cmのものを使用し,会話域は50 cmから150 cmである(西出,1985)ことから,椅子は50cm間隔で配置した。
被験者と5人のサクラは設置してある椅子に座らせた。その後,被験者には,本実験は複数人での話し合いの際の会話のやりとりの研究をするためのものであることを伝え,ここにいる6人であるテーマについて話し合いをすることと,実験前後で質問紙に回答するという説明を行った。そして,実験の様子を録画・撮影し,得られたデータを研究に使用する旨を伝えた後,実験前の質問紙への回答を求めた。その後,話し合いのテーマを提示し,実験の詳細について説明した。テーマは「大学の長期休業の間,アルバイトや部活・サークルなど何も用事が無い1週間の休暇ができた友人Aは,1週間丸々使って旅行に行くことにしました。友人Aは海外旅行に行くか,国内旅行に行くか悩んでおり,あなたにアドバイスを求めてきました。あなたなら友人Aに海外旅行をすすめますか,国内旅行をすすめますか。ただし,友人Aの旅行予算は同一とします。」とした。話し合いについて,10分間で自分と異なる意見を持つメンバーを説得するように行うようにし,司会者をサクラ1名に設定した。司会は全て同じ者が担当した。また,発言を促すために,司会者の進行に関係なく自由に発言するように伝えた。
名前だけの自己紹介を被験者から時計回りで順にさせた。その後,テーマに対して意見選択用紙を用いて自分が選んだ方を被験者から順に時計回りで他のメンバーに提示させた。この時支持者有群では,サクラは被験者の選択を見て,支持者のサクラは被験者と同じ側,他のサクラ4人は被験者の意見と異なる側を提示させた。
意見共有によって誰がどちらの意見を選択したかを把握した上で10分間自由に話し合いを行わせた。実験者は実験に影響を与えることのないように,実験開始の合図をした後,実験室から退室し,10分後話し合いの終了を伝えに再度入室した。話し合いについて,司会はサクラであるが全ての実験において担当し,話し合いの流れを統制するためにシナリオに沿って話し合いを進めた。話し合いの流れについて,「一人ずつ選択した方と理由を言う」→「安全面」→「費用面・時間」→「経験・その他」とし,司会者のセリフは固定して,サクラは実験者が作成したシナリオ内の複数のセリフの項目の中から選択し,被験者の発言や話し合いの流れに応じて発言するようにした。
実験終了後,再度テーマについて自分の意見を選択し,意見選択用紙を被験者から順に時計回りで他のメンバーに提示させた。この時,サクラは全て実験前と同じ側を提示した。また,再度質問紙に回答させた。
実験終了後,調査目的が複数人で話し合う場面で,少数派意見を持つ人が意見を維持したままグループ全体に向けて主張する方法を検討するために行ったものであり,他のメンバーは全て実験者が用意したということを説明し,再度実験データや映像データを研究に使用する同意を求める項目を含む実験後アンケートに回答させた。
質問紙は,実験前後で計2回行われた。実験前は,テーマに対する意見選択と理由,STAI日本語版により構成されており,実験後は,テーマに対する意見選択と理由,意見が実験前と変容した場合は変容した理由,STAI日本語版,主観的なサポート受容感,COMPASS,公的自己意識,ENDCOREsにより構成された。
フェイスシートにおいて,「話し合い場面の会話に関する実験」と称し,実験参加に同意するか確認する項目,学年,年齢,性別を尋ねた。
話し合いの実験前に二者択一のテーマに対して,意見選択と理由(自由記述)を尋ね,実験前後で意見維持・変容を確認する計2項目。
話し合いの実験後に二者択一のテーマに対して,意見選択と理由(自由記述)を尋ね,実験前後で意見維持・変容を確認する2項目。実験後意見が変容した場合は,変容した理由を自由記述で尋ねる1項目。計3項目。
実験前後の状態不安の差を測定するために,Spilbergerら(1981)のSTAI(状態−特性不安検査)を清水・今栄(1981)により日本語版に作成された尺度のうち,A-State(状態不安)尺度の各20項目,計40項目。「全くあてはまらない」から「よくあてはまる」の4件法で尋ねた。
松村(2001)の組合役員,一般組合員との関係に関する項目の「サポート受容感」「役員との関係」「孤独感」を話し合い場面に沿うよう修正した「話し合いのメンバーの中に,同じ考えを持っている仲間がいると感じた。」など5項目と,自ら作成した「自分と異なる考え方を持つメンバーに説得されることで,プレッシャーを感じた。」など3項目を加え,主観的なサポート受容感を測定する8項目。「全くあてはまらない」から「非常にあてはまる」の5件法で尋ねた。
会話者のコミュニケーション参与スタイルを測定するCOMPASS(藤本,2008)より,発言や他者の発言への指摘やコメントを積極的に行うような主体的な姿勢に関わる「能動的参与」,司会進行や発言促進によって会話の流れに関与する「会話マネージメント」,自分からは参加せずに会話進行を見守るような傍観に関わる「消極的参与」を用いて話し合い実験における態度を測定する各4項目,計12項目。「全くあてはまらない」から「非常にあてはまる」の7件法で尋ねた。
菅原(1984)によって作成された自意識尺度日本語版の「公的自意識」因子より,「自分が他人にどう思われているか気になる」など8項目と,黒沢(1992)によって作成された自己意識尺度の公的自己意識項目より「あまり自分の外見を気にしない」など4項目で構成された計12項目を使用した。「全くあてはまらない」から「非常にあてはまる」の7件法で尋ねた。
藤本・大坊(2007a)によって作成されたコミュニケーション・スキルを測定する尺度であるENDCOREsを使用した。「自己主張」4項目,「他者受容」4項目の計8項目からなり,「かなり苦手である」から「かなり得意である」の7件法で尋ねた。
実験目的の説明の後に,説明を聞いた上で実験データと映像データを研究に使用する同意を求める項目,「実験中に,自分以外の他のメンバーが実験者の用意した人であると気づきましたか。」というサクラを認識したか測定する項目,サクラを認識していた場合,いつ気づいたのかを自由記述で求める項目,自由記述による実験の感想で構成されたシートに記入させた。