本実験では被験者各群15名ずつ計30回実験を行う予定であったが,被験者・実験者のスケジュールの都合上,各群6名ずつ計12回のみ行うこととなった。したがって被験者サンプルの数が少ないため,被験者ごとの分析や大まかな群の傾向の分析を中心に行う。
支持者無群は,支持者有群より被験者に集団圧力をかけられているか見るため,逆転項目の処理を行った後,両群間で主観的なサポート受容感全体と,主観的なサポート受容感の質問項目のうち「自分と異なる考えを持つメンバーに説得されることで,プレッシャーを感じた。」について平均値の差をt検定によって確認した。
その結果「自分と異なる考えを持つメンバーに説得されることで,プレッシャーを感じた」という質問項目では有意な差は見られなかったが,主観的なサポート受容感全体(t=5.04,p<0.01)において支持者有群の方が支持者無群より有意に高い得点を示した。
また,実験の統制について,話し合いの流れは,被験者AとJ以外の実験において,おおよそシナリオ通りに進められていた。
実験前後でテーマに対する意見の変化があったものは,支持者有群で6人中2人,支持者無群で6人中3人であった。支持者無群の方が意見変容は多いものの,支持者有群であっても意見変容が起こった。
発言回数について,サンプルによって全体の発話の総数が異なるため,サンプルごとに話し合いの実験10分間の発言回数全体に占める被験者の発言回数の割合(以下,発言割合)を算出した。結果,被験者Jが最も発言割合が高く,本研究では支持者無群の方が多い傾向にあった。被験者が実験10分間のうち発言した時間である発言時間に表しても,支持者無群が支持者有群を上回っていることが示された。ただし,発言時間に「あー。」や笑い声などの主張とは関係のない意味のない言葉は含まなかった。
支持者有群では,程度に個人差はあるものの,どの被験者も不安感が実験前より軽減されていた。支持者無群では,不安感が実験前より軽減された者,実験前後で変化しなかった者,実験前よりも増大した者の,パターンとして3通り見られた。
支持者有群の方が支持者無群よりも平均値は高かったが,被験者全て7件法の基準である4以上の数値であり,全体として高い得点が示された。
ENDCOREsについて自己主張には個人差が見られたが,被験者全体として他者受容の平均得点が高い傾向が示された。
COMPASSにおいては,自己評価として実験での発話態度を測るものであるが,被験者FとI以外の被験者は消極的参与よりも能動的参与の平均得点が高かった。
支持者有群と支持者無群の差を見るため,主観的なサポート受容感全体と各項目,状態不安差全体と各項目,発言割合,発言時間において平均値の差についてt検定を行った。
群間で主観的なサポート受容感全体と各項目の平均値の差を,t検定によって検討した。主観的なサポート受容感全体(t=5.04,p<0.01)では,先述した通りに有意な差が見られた。各項目については,「話し合いのメンバーの中に,同じ考えを持っている仲間がいると感じた。」(t=7.89,p<0.01)や「話し合いのメンバーの中に,自分の考えに同意してくれる人がいたので,安心できた。」(t=3.59,p<0.05),「話し合いのメンバーの中に,自分の考えを代弁してくれる人がいたので,心強く感じた。」(t=2.30,p<0.05)において,支持者無群より支持者有群の方が有意に高い得点が見られた。
群間で状態不安差の平均値の差を,t検定によって検討した。結果,群間には有意な差は見られなかった。また,各項目の状態不安差について「ホッとしている」(t=2.90,p<.05)のみ,支持者有群の方が支持者無群よりも有意に高い得点を示した。
群間で発言割合と発言時間を,t検定によって検討した。発言回数においては有意な差は見られなかったが,発言時間(t=2.78,p<0.05 )は支持者無群の方が支持者有群よりも有意に高い得点を示した。
特徴的な事例として,支持者有群と支持者無群ともに3パターンずつ抽出し,支持者有群は被験者A,D,F,支持者無群はG,J,Kであった。また,意見変容したものと意見が維持されたもので分けて分類し,実験前の選択した理由,実験後の選択した理由,(意見変容した場合は)変容理由,特徴的な感想を質的データとしてまとめた。
支持者有群について,被験者Aは意見が実験前後で維持されており,被験者の中で最も実験前後で状態不安が軽減されていた。被験者Dも意見が実験前後で維持されているが,被験者の中で最も発言割合が低かった。被験者Fは,意見は実験前後で変容しているが,主観的サポート受容感の平均得点が高かった。
支持者無群について,被験者Kは意見が実験前後で変容しており,実験前後状態不安は軽減されているが,その程度は小さかった。被験者Gは,実験前後で意見が維持されており,日本でない海外出身であることによって海外の知識を多く有してして,映像データを見ると確信的に発言をしていた。被験者Jは,意見が実験前後で維持されており,被験者の中で発言割合,発言時間がともに最大であった。
映像データから抽出したサンプル別に,口調,表情,視線,動作,その他の特徴をまとめた。表情と視線は被験者自らの発言時である「自分の発言時」と他のサクラの発言時である「他者の発言時」に分け,動作については自分の発言時と他者の発言時,10秒以上沈黙が続いていた時の動作である「沈黙時」に分けた。