要旨
本研究では,現代の若者に広く浸透しつつあるコミュニケーション・ツールである“キャラ”に焦点を当て,その“キャラ”が,実際にどのように用いられ,人間関係とどのような関連があるのかについて,さらに,その“キャラ”を相手や状況に応じて切り替えることの効果,特に友人関係満足度に及ぼす影響について検討した。
大学生を対象に質問紙調査を実施し,回答者が過去もしくは現在に所属していた友人グループの中での“キャラ”を想起してもらい,その“キャラ”についての認知およびそのグループでの友人関係満足度について尋ねた。その際,千島・村上(2015)の「キャラについての考え方」12項目および,加藤(2001)の友人関係満足度尺度を用いた。また,キャラの変化程度,キャラの変化動機,友人関係についての回答を求めた。変化動機では,佐久間・武藤(2003)の変化動機尺度,友人関係では岡田(1995)の友人関係尺度を用いた。
この調査結果より,大学生が用いる実際の“キャラ”の実態について,また“キャラ”と友人関係満足度および友人関係の特徴との関連,さらに,“キャラ”の切り替えの動機,“キャラ”の切り替えと友人関係の在り方や満足度との関連についてが明らかになった。
まず,「お笑い」や「いじられ」キャラが多く用いられていることが明らかになった。“キャラ”の使用に関して性差がみられ,女性では「天然」「ほのぼの」キャラの数が多いのに対し,男性では「ボケ」や「お調子者」キャラが多くみられ,女性より男性の方が「キャラに対するメリット認知」をしていることが示された。
さらに,「いじられ」や「お笑い」キャラと「まじめ」キャラとの間に,友人関係満足度などの差がみられた。これは,「友人関係における役割」キャラおよび「当人の性格特性」キャラの差異からくるものであることが考えられる。
次に,友人関係の在り方の中では,特に「群れ関係群」において「キャラに対するメリット認知」が高く,それゆえ“キャラ”が多く用いられていることが示唆された。加えて,「キャラに対するメリット認知」は,友人関係満足度に影響を及ぼしているのに対し,「キャラに対するデメリット認知」は友人関係満足度との間に関連がみられないという結果が得られた。
最後に,“キャラ”の切り替えという観点からは,“キャラ”の切り替えが「自然・無意識」を主な変化動機として行われている可能性が示された。そして,「友人関係における役割」キャラおよび「当人の性格特性」キャラにおける切り替えの程度によって,その切り替えは「関係維持」や「演技隠蔽」を変化動機として行われる場合もあるということが明らかになった。
これらの具体的な“キャラ”の使用についての結果や,“キャラ”の切り替えについての検討は,先行研究にはみられない新たな知見である。しかし,“キャラ”の使用が無意識に行われ得るものであることから,質問紙調査には限界があるといえる。そのため今後はさらなる調査方法について検討をするべきである。そして,本研究で検討した“キャラ”を用いることのプラス面だけではなく,マイナス面についても検討を行い,“キャラ”についての研究をさらに進めていく必要があるだろう。