総合考察


 本研究では自己との関わりが深い保護者との関わりにおいて生じる自己への期待がどの程度認知され,自己との意識の違いや,互いの意識の水準によって自己に影響が生じるかを検討することを目的としていた。本研究においては以下の点が明らかになった。

 1つ目は,子どもの自律を促したり励ましたりする自律性援助と保護者が大学生の子どもに対して持つ就職先や職業選択に関しての「(保護者)就活有利」が負の相関を持つことである。自律性援助は子ども自身の考え方を尊重して励ます態度であるのに対し,「(保護者)就活有利」は保護者が大学生の子どもの就職に関して自分なりの見通しを持っている態度を示している。そのため,この結果が得られたのではないだろうか。桜井(2003)において自律性援助が高いと自律志向性が高く,動機づけ喪失志向性が低い結果が得られていることからも,自律性援助は子ども自身からの動機づけを促す役割があることが分かる。そのため,就職活動への意識に関しても保護者の介入に関するような下位尺度である「(保護者)就活有利」において負の相関が得られたのではないかと考える。

 2つ目は,自己受容の「情緒不安定でないこと」と「自信・自己信頼に欠けていないこと」の2つの下位尺度において自律性援助が影響を持っていることである。どちらの場合も自律性援助の認知が高い方が有意に自己受容の得点が高くなっている。自律性援助は保護者が子どもに向ける援助であり,養育態度の1つでもある。保護者の養育態度によって子どもは保護者と自分との関係性を感じ取り,愛着関係を感じることにもつながるだろう。愛着関係が自己に対して影響を与えていることは森下・三原(2013)でも述べられている。本研究においても,自律性援助が自己受容の得点と関連していたことより,先行研究を一部支持していると考えることができるだろう。

 3つ目は,就職活動への意識を大学生自身,保護者の2者の意識の大きさにより分類して得られた保護者意識高群と自律性援助の認知の高低は,自己受容の「生き方」と「情緒不安定でないこと」との間に関連があることである。2つの下位尺度に対しては異なる結果が得られており,「生き方」では自律性援助が低く認知されている方が,「情緒不安定でないこと」では自律性援助が高く認知されている方が自己受容に対して肯定的な関連があることが明らかにされた。

 以上の3つの点が本研究によって明らかにされた。そして,就職活動への意識は直接的には自己受容との関連は持っておらず,自己受容への影響としては自律性援助の働きの方が大きくなっている可能性が考えられる。先行研究でも,自律性援助や養育態度は子どもの自己意識に対して大きく影響を持つことが明らかにされているため,本研究においても自律性援助が自己受容との関連を持ちやすい傾向が見られたものと考えられるだろう。