総合考察


 本研究では,心理的居場所感とwell-beingの関連について,大学生の友人関係に着目し,一対一で付き合いのある個人友人と複数人で付き合いのある友人集団で心理的居場所感の高低に差はあるのか,また,その心理的居場所感の高低によって,主観的幸福感に差はあるのか,そして,想定した友人との関係や友人集団の人数によって差があるのかを検討することを目的とした。そこで本研究では,個人友人と友人集団それぞれの心理的居場所感を測定し,それぞれを高群低群に分け,主観的幸福感も測定した。

 心理的居場所感とwell-beingの関連について,各下位尺度間の相関係数の算出により,個人心理的居場所感・集団心理的居場所感どちらも主観的幸福感との高い正の相関がみられた。これは,居場所感とは一般的に快感情を伴うものであるとし,現実の居場所感と心理的well-beingに正の相関がみられることは妥当であるとする石本(2010)の考えや,尺度作成の際に行った併存的妥当性の検討において主観的幸福感と心理的居場所感との間に正の相関がみられた則定(2007)らの先行研究の内容が支持された結果だと言える。相関係数の比較を通して,個人と集団の差を検討した。どちらも強い相関を示す中で,心理的居場所感の下位尺度である「本来感」,「被受容感」と,主観的幸福感の下位尺度「自信」の間に差がみられた。どちらも,個人より集団の方が強い相関を示し,仮説2が一部支持された。「本来感」と「被受容感」の項目の内容より,自分が自分らしい状態のままで相手に受け入れてもらっているということが,「自信」を持つことに繋がっていると予想される。また,重回帰分析を通して,心理的居場所感が主観的幸福感に及ぼす影響を検討した。個人心理的居場所感は下位尺度「本来感」,「役割感」,「安心感」の3つから,主観的幸福感尺度とその下位尺度に6つの影響を及ばし,集団心理的居場所感は下位尺度「本来感」,「被受容感」の2つから主観的幸福感尺度とその下位尺度に2つの影響を及ぼしていた。相関係数の比較で個人より集団の方が強い相関を示したものと重回帰分析の結果が一部一致した。やはり,集団の中では,自分自身がありのままで受け入れられていることが,自信や満足感に繋がるということが改めて示唆された。個人心理的居場所感では役割感が主観的幸福感,自信,達成感と3つに影響を与えている。特定の一人の友人に対しての役割感は実感が湧きやすく,主観的幸福感にも影響しやすかったのだと考えられる。

 友人・友人集団との関係や友人集団の構成人数と心理的居場所感の関連をみるために,1要因分散分析を行った。友人・友人集団との関係は,該当者の少ない者を除いた「学部・学科」と「サークルや部活等」の2つを比較した。どちらもはっきりとした差は得られなかったが,友人集団において,その関係と心理的居場所感の下位尺度「役割感」に有意差がみられた。平均値の比較で,「サークル・部活」の方が僅かながら高い得点を示し,岡田(2009)は部活動に参加しているかしていないかの違いにより,友人関係にも差があることを示しており,そのことから,同じ目的や目標に向かう人同士の集まる部活動やサークルの方が,友人関係が形成されやすいため,心理的居場所感の獲得もされやすかったのではないか。これらより,仮説3は一部支持された。友人集団の構成人数による差は,心理的居場所感の下位尺度「安心感」において有意差がみられ,3〜5名より6〜9名,3〜5名より10名以上の方が集団安心感に強い影響を与えていた。鈴木・藤生(1999)が,複数人の友人関係がポジティブな影響を及ぼすと述べていたように,集団の人数が多い方が心理的居場所感の下位尺度に強い影響を及ぼすため,仮説4は一部支持され,友人関係の中の集団に着目することによる新たな結果が得られた。

 友人・友人集団との関係ごとの心理的居場所感がwell-beingに与える影響の比較のために,2要因分散分析を行った。ここで,個人・集団どちらにおいても,友人との関係と心理的居場所感の高低で交互作用がみられなかった。心理的居場所感の高低での主効果は多く見られ,集団では,関係による主効果も一部みられたが,関係と心理的居場所感の高低が組み合わさることによって起こる影響がないことが確認され,仮説5は支持されなかった。

 以上より,今回の研究で,心理的居場所感がwell-beingに影響することを改めて確認することはできたが,肝心な個人と集団を組み合わせたことによる影響の差を明確にすることはできなかった。個人と集団では,集団心理的居場所感の方が強い影響を与えているという結果からwell-beingを高めるためには,個人友人での心理的居場所感だけではなく,友人集団での心理的居場所感の獲得が必要だということが示唆された。また,仮説検討する上での分析結果で,個人での友人関係よりも集団での友人関係において,多くの結果が得られた。友人関係における心理的居場所感では,友人集団というグループに着目することで個人友人との違いだけでなく,友人との関係性による差や友人集団の人数による差が新たに示された。このことから,大学生の友人関係において,友人集団の存在が重要であること,友人集団に属して,さらにそこでの心理的居場所感を獲得することがwell-beingを高めることに繋がることが示唆された。