1.はじめに
大学での学校生活において学生が取り組むものとして,学業のほかに,“課外活動”というものがある。大束・新矢・湯川・富川・長光・平田・山(2012)は,“課外活動”を「単位履修と関係のない取り組み,クラブやサークル・同好会といった学生の自主的な活動」と捉えている。小学校や中学校,高校では課外活動として,“部活”“クラブ”などが挙げられるが,大学に入学すると,小学校や中学校,高校であった“部活”に加えて“サークル”が存在する。大学では,小学校や中学校,高校のようにクラスで一定の人と常に同じ空間で過ごすことは少なく,授業によって異なる人間と関わることが一般的であるため,特定の人物との関わりは少ない。そんな中での部活やサークルの存在というのは,所属しているメンバー,つまり特定の人物と深い関わりを持つため,特定の人物との関わりの場があまりない大学生活において,個人に与える影響が大きくなることが考えられる。
そして,大学生になり,こうした部活やサークルに所属すると,世代交代を経験する。中学校や高校の部活動では,学生だけではなく,教師の存在がある。しかし,大学の部活やサークルでは,自分たちでサークルを発足させたりするように,主に学生が主体となって運営されている。こうした点からも本研究で世代交代を取り上げるにあたって,中学校や高校よりも,大学生における世代交代が個人に強い影響を与えていることが考えられる。こうして世代交代を行って,世代交代後に「先輩がいなくなって不安」と感じる人もいれば,「私たちが主体になるのだから,先輩のようにチームをしっかり引っ張っていって,応援してくれる人たちのためにも頑張ろう」と集団に対する希望ややる気を出す人もいる。新井(2004)は,大学生のサークル集団を対象に対先輩行動の側面を抽出し,集団状況要因・先輩の勢力との関連について検討した。そこで,対先輩行動は,「親交」「礼儀」「服従」「参照」「衝突回避」「攻撃」の6つの側面に分類されることを明らかとした。中でも,「参照」は,別の他者との相互作用場面において,先輩の行動を参考にしたり,内面化したりするといったことを指し,集団での今後の活動に対して,希望ややる気を持ち積極的に働きかけている行動であると考えられる。
また,こうした世代交代の際には代表や副代表等の役割が,特定の個人に与えられる場合が多い。役割を与えられることによって,「他人から自分が認められている」「他人から必要とされている存在である」と自分自身に価値を感じることもあるのではないだろうか。こうした思いというのは「他者からの期待に応えよう」「他者のために頑張ろう」といった意識とも関連があることが考えられる。
以上のことから,本研究では,大学生の部活やサークルにおける世代交代の前後において,役割の有無や個人の向上心に関する特性,他者志向的動機といった様々な要因と世代交代前後の自尊感情の変化との関連について検討を行う。
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