6. 与えられた役割の違いによる,自尊感情の変化


 役割を“幹部系”と“その他”の2つに分類し,これらの与えられた役割の違いによって,「自尊感情(事前)」と「自尊感情(事後)」の得点に変化が見られるかどうかを検討するため,2要因分散分析を行った。その結果,主効果,交互作用ともに有意でなかった。古川(1986)は,自分および自分の職場が高業績を上げているとした被験者ほど,直属上司の構造づくりおよび配慮行動を高く評定していることを示している。このように,集団自体の価値の高さでリーダーの評価が変化するということは,自分にどのような役割があろうとも,集団自体に価値があれば,その集団に所属する自分に価値があると捉えられ,特にその中で役割を与えられていようものなら自尊感情は高まるだろう。しかし,集団自体に価値がなければそんな集団に所属する自分に価値を見出せず,むしろ自尊感情は低下することも考えられる。つまり,これら自尊感情の変化には,与えられた役割や役割の有無だけではなく,その集団に対する評価も関連することが考えられる。しかし,今回検討した幹部系とその他の役割では置かれている立場や仕事内容が異なる。

 そのため,幹部系の中でも,代表・キャプテン・会長・リーダーなどと副代表・副キャプテンなどの間で,「自尊感情(事前)」と「自尊感情(事後)」の得点に変化が見られるかどうか検討を行おうと考えたが,検討を行うに当たり,人数が少ないという問題があった。そのため,代表・副代表それぞれについて,世代交代前から世代交代後にかけて自尊感情が上昇したもの,変化しなかったもの,下降したもので分け,それぞれの人数の比率に違いがあるかどうかを検定するために,Fisherの正確確率検定を行った。その結果,有意な差が見られた。この結果から,代表は副代表に比べて,自尊感情が上昇した人の割合が多く,副代表は代表に比べて下降した人の割合が多いといえる。よって,仮説8は一部支持されたといえる。

 吉川(2016)は,リーダーの行動には@組織の目標に向けて計画やルールを定め,時に厳しいかもしれないがメンバーを引っ張っていく行動と,Aメンバーにひとりの人間として気を配り,時にフォローを行ったりメンバー同士の対立を仲裁したりしてチームの雰囲気をよくする行動という、ある意味で相反する2つの行動群が求められると述べている。リーダーという言葉から多くの人が思い描くのは組織の目標を立ててメンバーを率いていく“強いリーダー”であり,多くの理論の暗黙の前提となっていた。しかし,仲間の能力を肯定し,お互いの利益になる信頼関係を築くという“サーバントリーダーシップ”で想定されているのは,メンバーの意見に丹念に耳を傾けたり,メンバーが活動しやすい状況を整備することに力を注いだりして,その結果としてメンバーの信頼を得て,組織の目標に向かってチームを動かしていく,そのようなタイプのリーダーである(吉川,2016)。このように集団を率いていく力のほかに,メンバー一人ひとりを尊重し,思いやる力も必要となる。こうした行動を自然と為すことができる人物がリーダーとなるのである。これらから,代表というのは仲間たちから慕われ,信頼された人物に与えられる役割であると考えられる。そのため,選ばれた本人がそうした自覚がなくとも,代表という役割を持ち,仲間との関係性や信頼を実感することで,自尊感情が高まったのではないかと考えられる。

 これに対し,副代表等の代表の次に当たる役割を持つ人物は,リーダーを支える存在である。つまり,リーダーができないことや,手が回らないことに関してサポートを行い,リーダー,そして集団を支える役割をしている。こうした,目立って引っ張っていくのではなく,陰で集団を支えるという点から,直接的に自分の取り組みが評価されることが少なく,代表ばかりが目立ってしまうため,代表よりも世代交代前から世代交代後にかけて,自尊感情が下降するという結果につながったのではないだろうか。