要旨


 本研究は,中学生が教師からの期待をどのように受け止めているのかについて検討し,期待の受け止め方にはどのような要因が影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした。そこで,教師からの期待の程度,教師の指導行動,対人葛藤方略スタイルに着目し,それぞれがどのように教師からの期待の受け止め方に影響を及ぼしているのかを検討した。

 本研究では大学生を対象に,中学生の時を想起させる回想法を用いて質問紙調査を実施した。質問紙調査では,最も印象に残っている担任教師,期待の程度,期待の受け止め方,教師の指導行動,対人葛藤方略スタイルについて尋ねた。期待の程度は渡部・新井・濱口(2012)で用いられている1項目を用いた。期待の受け止め方については,渡部・新井・濱口(2012)の期待の受け止め方尺度を用いた。教師の指導行動に関しては,三島・宇野(2008)の教師認知尺度と村上・鈴木・坂口・櫻井(2013)の教師の行動・態度についての評価における適切な叱りを用いた。対人葛藤方略スタイルは,加藤(2003)の対人葛藤方略スタイル尺度(HICI)を用いた。

 以上より,中学生における教師からの期待の受け止め方に,期待の程度,教師の指導行動,対人葛藤方略スタイルがどのように影響を及ぼしているのかについて検討した。

 調査の結果,期待の程度は,教師からの期待を積極的に受け止めることにつながることが明らかとなった。本研究の結果から教師の期待は,高く期待されることが生徒のやる気につながることが示唆された。教師の指導行動については,親近感や信頼感を抱くような指導が積極的受け止めにつながること,不適切な指導は積極的受け止めを低めることが明らかとなった。教師としてしっかりと助言や指導することが重要であるということが示唆された。「この先生は頼れる」と思えるような行動や態度が,期待を積極的に受け止めることに影響を及ぼすと考えられる。また積極的受け止めにつながると同時に,失望回避的受け止めも高められることも明らかとなった。信頼できる先生だからこそ,「期待に応えたい」という思いが強くなることが考えられる。対人葛藤方略スタイルを検討した結果,統合スタイルの方略を用いやすい生徒は期待を積極的に受け止めることが明らかとなった。自分の希望も相手の期待も尊重できることが,期待をポジティブに受け止めることに影響を与えることがわかった。相互妥協スタイルや自己譲歩スタイルは負担的受け止めに影響を与えており,自己主張と他者尊重のバランスが期待の受け止め方において重要であることが示唆された。教師から期待された際に,自分の希望と教師の期待の両方をもとに自らの行動を決定していける力を身につけることが,期待をやる気や自信に変えることにつながると考える。