方法
1.調査対象
研究目的と調査内容への同意が得られた,ダウン症児をもつ母親4名(平均年齢53歳)を対象にインタビューを行った。
2.調査時期
調査は2019年10月下旬から11月上旬に実施した。
3.手続き
3-1.調査方法
半構造化面接を行った。調査開始前に,「子育てに関する研究」の説明として,研究の意義・目的,研究方法,倫理面の配慮について説明を行った。また,インタビュー内容はICレコーダーで録音し,逐語録を作成して分析すること,得られたデータは文章を細かく分断するため,個人が特定されることはないこと,本研究以外では使用しないことを伝え,本研究の趣旨に同意を得られた上で回答を得た。はじめに,調査協力者の年齢,職業,家族構成(子どもの年齢を含む),対象児の年齢,対象児の診断名について尋ねた。その後,1人あたり約30分~1時間程度のインタビューを行った。インタビューは,調査協力者の自宅や喫茶店など,調査協力者の希望する場所にて行った。
インタビュー項目について以下に示す。
①子どもの名前の由来。
②産まれてから現在までの子どもの育ち。
③これまでの子育ての中で印象的なエピソードとその時の気持ち。
④子どもに対する気持ちや障害について日頃感じていること。
⑤子どもの障害を知った時の気持ち。障害に対する考え方の変化や,もしくは今でも変わらない考え方。
⑥子育ての支えになっているもの。
⑦話していく中で気づいたことや伝えたいこと。
3-2.倫理的配慮
研究協力は自由意志であり,随時中止ができること,守秘や個人情報,研究データの通り扱いについて文書と口頭で説明した。面接内容は調査協力者の許可を得てICレコーダーで録音し,逐語録を作成した。
3-3.分析方法
障害のある子どもの乗り越えプロセスを明らかにするため,TEMを用いて分析を行った。安田ら(2015)は,TEMは研究者が研究したいことを後押しする方法論であり,それぞれ工夫して考えて行うため,TEMにはあえて決まった手順はないことを述べている。そこで本研究では,荒川ら(2012)の示す以下の手順を参考に分析を行う。
①インタビューデータを文字にする。
②文字データを意味のまとまりごとに切片化する。
③それぞれの対象者の経験を時間順に並べる。
④同じような経験を同じ列にそろえて,ラベルを考える。
⑤以下のTEM図の基礎概念を位置づける。
・等至点(Equifinality Point:EFP)多様な経験の経路がいったん収束する地点
・両極化した等至点(Polarized Equifinality Point:P-EFP)理論上対極に位置する等至点 価値づけを相対化し,経路の多様性が豊かに捉えられる
・分岐点(Bifurcation Point:BFP)ある選択によって各々の行為が多様に分かれていく地点
・必須通過点(Obligatory Passage Point:OPP)ある状況に至る上で必ず通るポイント
・社会的方向づけ(Social Direction:SD)等至点への個人の行動や選択に制約的・阻害的な影響を及ぼす力
・社会的助勢(Social Guidance:SG)等至点へのあり様を促したり助けたりする力
・可能な経路 インタビューでは得られなかったが,理論上通過すると考えられる行動や選択
・非可逆的時間 人間が時間と共にあることを表す概念
⑥個々人の変遷が十分追えるかを確認する。
TEM図の基礎概念について,本論における位置づけはTable1に示す。