総合考察
本研究は過去のネガティブ体験として失恋体験に着目し,ソーシャルサポートが失恋体験の意味づけにどのような影響を与えているのかについて検討することを目的とした。先行研究では関係崩壊後に受けたサポートについて分類しているものは少なく,また受けたサポートとその後の意味づけの関連や意味づけの内容を詳細に検討した研究はなかった。そこで本研究では研究1として大学生が最も印象に残っている失恋体験について尋ね,その後に受けたサポートを片受・大貫(2014)の新大学生用ソーシャルサポート尺度を用いて測定し,ストレス体験における意味の付与尺度(宅,2005)を用いて意味づけにどのような影響を与えているのかを検討した。また,研究2では対象者を離愛群に限定し,インタビュー調査を行った。
評価的サポートを受けたと認知していることは,ねぎらいを含む自己に対する評価と出来事のもつメッセージ性を見出すことに繋がっていることがわかった。評価的サポートは「自分を認め,受け入れ,評価・尊重をしてくれる他者からのポジティブな情報」(片受・大貫,2014)である。他者から受け入れられ尊重してもらえることは,失恋体験によって傷ついた自己肯定感を回復することに直接繋がったのではないだろうか。また,離愛群は片思い群と比べて情緒的サポートを受けたと認知することで,それもそれで良い機会だったと思うことや自分へのメッセージがあったのではないかと考えることに繋がっていることがわかった。離愛と片思いの決定的な違いは交際期間の有無である。離愛は当初は交際関係としてお互いに認め合い,情緒的な相互作用が行われていた関係であり(中山他,2017),片思い群よりも失恋による傷つきが大きいことが考えられる。亀田・相良(2011)は過去にいじめられた経験のある大学生に対する面接調査から,ソーシャルサポートを得ることで,他者への信頼感を回復し肯定的な意味づけに繋がることを報告している。失恋経験によって他者との関係に傷ついた場合に,情緒的サポートによる悲嘆の感情の軽減や,他者への信頼感を回復することが経験を見直すきっかけとなったのではないだろうか。
さらに離愛群において,情緒的サポートと評価的サポートは,学びや教訓として捉えることや,失恋体験の良い面を見出すという肯定的な意味づけに効果があった。主にみられたサポート内容は,@友達に話を聞いてもらうこと,A楽しいことを一緒にしてもらうこと,B友達,または家族に軽めに励ましてもらうこと,C同じ経験をしたことがある人に話を共有してもらうことの4つであった。これらのサポートによって@気持ちの整理ができた,不快な感情が発散された,A気持ちが切り替わり,穏やかになった,B吹っ切れた,C希望に思えた,すっきりしたという変化がみられた。友達に話を聞いてもらうなどのサポートにより気持ちの整理ができたという変化にみられるように,受容的な関係の中で経験を言語化することで失恋体験を考え直したり,見つめ直したりしていることが推察された。辛い出来事に直面することは苦しいことであるが,話をきいてもらうというサポートは同時に自分を肯定・尊重してくれることでもあり,自分を支えてくれる他者の存在にあらためて気づくことでもある。そのような支えの中で経験に直面化でき,出来事を肯定的に捉えなおすことができたと考えられる。また,気持ちが穏やかになった,すっきりしたという変化から,楽しいことを共にしてもらったり,同じ経験を共有してもらったりするというサポートは不快な感情を軽減していることが示唆された。これは楽しい経験によって辛かった出来事を回避している回避型コーピングや気晴らしによるコーピングとも読み取れる。塚脇(2014)は失恋ストレスコーピングがストレス反応と回復期間に及ぼす影響を検討した結果,回避型コーピングがストレス反応の低下に繋がり,失恋の痛手から回復するための有効な手段となり得ることを示唆しており,同じ結果になったと考えられる。よって,情緒的または評価的サポートがストレス感情を軽減すること,重要な他者の存在に気づくこと,出来事を捉えなおすことに働きかけていることが示唆された。そしてその結果,学びや教訓として出来事を意味づけたり,体験から得るものがあったと振り返り意味づけたりしていることが明らかになった。本調査によって失恋経験後に受けたソーシャルサポートの内容や,意味づけ内容,その繋がりがより詳細に明らかになった。