【結果】

 回収したデータ74名分(男性:23名,女性:49名,回答しない:2名)すべてを分析対象とした。

1. 他者理解尺度の因子分析と尺度構成の検討
 青木(2011)で使われている下位尺度をそのまま使用しようと考え各下位尺度の信頼性係数を求めたところ,「他者受容度」でα=.556,「他者分析欲求」でα=.532と十分な信頼性係数が得られなかった。そこで「他者受容度」と「他者分析欲求」を除いた項目について平均値と標準偏差を求め床効果がみられた4項目を除いた22項目で最尤法・プロマックス回転で因子分析を行い,因子負荷量が.3以下の項目を削除し再び因子分析を行った。その結果,2因子抽出された(Table1)。第1因子を「現状の他者理解度」,第2因子を「他者理解欲求」と命名した。内的整合性を検討するためにα係数を算出したところ,「現状の他者理解度」でα=.856,「他者理解欲求」でα=.764と十分な値が得られた。
相川・髙本・杉森・古屋(2012)のコミュニケーション能力尺度は「解読」因子のみを用いる。信頼性係数を求めたところα=.767と十分な値が得られた。

結果

2, 他者理解の下位尺度間の関連
 他者理解尺度の下位尺度とコミュニケーション能力尺度の「解読」因子において平均と標準偏差,相関係数を算出した(Table2)。 結果  Table2より,「現状の他者理解度」は「他者理解欲求」と「解読」に対して有意な正の相関がみられた。

3. 想起する人物によるアイロニー評価の比較
 想起する人物によってアイロニー評価が異なるかを検討するために,想起する人物を独立変数,アイロニー評価を従属変数とした対応のあるt検定を行った(Table3)。「どれくらい冗談らしく感じたか」(t(73)=-3.66,p<.001),「どれくらい攻撃的に感じたか」(t(73)=2.26,p<.05)において有意な差がみられた。 結果

4. 男女間でのアイロニー評価の比較
 先行研究では性差によってアイロニーの受け取り方に違いが出ていたため,性別を独立変数,アイロニー評価を従属変数としたt検定を行った(Table4.5)。
その結果,Aを想起した場合では「どれくらい冗談らしく感じたか」(t(70)=-2.69,p<.01)については男性よりも女性の方が有意に高い得点を示していた。また,「どれくらい嫌な気持ちを感じたか」(t(70)=2.06,p<.05)については,女性よりも男性の方が有意に高い得点を示していた。Bを想起した場合では,「どれくらい冗談らしく感じたか」(t(70)=-2.10,p<.05)について男性よりも女性の方が有意に高い得点を示していた。 結果

5. 下位尺度得点の高群と低群による比較
 下位尺度の「現状の他者理解度」・「他者理解欲求」・「解読」それぞれの平均値を基に高群と低群に分けAを想起した場合とBを想起した場合のt検定を行った(Table6~11)。
その結果,Aを想起した場合では,「現状の他者理解度」で「発話は言葉通りの意味だと思うか」(t(71.461)=2.55,p<.05),「どれくらい皮肉らしく感じたか」(t(60.612)=-2.67,p<.01),「どれくらい攻撃に感じたか」(t(68.372)=-3.24,p<.01),「どれくらい嫌な気持ちを感じたか」(t(72)=-3.26,p<.01)において高群と低群で有意な差がみられた。「他者理解欲求」で「どれくらい冗談らしく感じたか」(t(72)=-2.70,p<.01),「どれくらい聞き手に配慮されていたか」(t(72)=2.00,p<.05)において高群と低群で有意な差がみられた。「解読」で「どれくらい皮肉らしく感じたか」(t(72)=-2.08,p<.05)において高群と低群で有意な差がみられた。
Bを想起した場合では,「現状の他者理解度」と「解読」では有意な差がみられなかった。「他者理解欲求」で「どれくらい嫌な気持ちを感じたか」(t(72)=-2.21,p<.05)において高群と低群で有意な差がみられた。 結果 結果 結果

6. アイロニー環境の把握・非把握おけるアイロニー評価の比較
 アイロニー環境を把握しているかを確認するために「ホテルに期待していたこと」,「期待していたことが現実に満たされているか」,「このホテルに泊まったことに満足しているか」について尋ねた。「ホテルに期待していたこと」は自由記述で回答を求めた。得られた回答のうち「快適」・「良いサービス」・「宿泊費に見合う価値」について言及しているものは「話し手の期待」を読み取れているとし,それ以外の回答や無回答は読み取れていないとした。「期待していたことが現実に満たされているか」については「満たされていない」と回答したものを「期待と現実の不一致」を読み取れているとし,「満たされている」・「わからない」と回答したものは読み取れていないとした。「このホテルに泊まったことに満足しているか」については「満足していない」と回答したものを「否定的態度」を読み取れているとし,「満足している」・「わからない」と回答したものは読み取れていないとした。「話し手の期待」・「期待と現実の不一致」・「否定的態度」3つとも読み取れているものをアイロニー環境把握群とし,1つでも読み取れていないものがあったら非把握群としてt検定を行った(Table12,13)。
 その結果,Aを想起した場合では,「発話は言葉通りの意味だと思うか」(t(63.319)=-3.36,p<.001),「どれくらい皮肉らしく感じたか」(t(71.893)=3.60,p<.001),「どれくらい攻撃的に感じたか」(t(72)=2.76,p<.01),「どれくらい嫌な気持ちを感じたか」(t(72)=3.63,p<.001)において有意な差がみられた。
 Bを想起した場合では,「発話は言葉通りの意味だと思うか」(t(72)=-3.24,p<.01),「どれくらい皮肉らしく感じたか」(t(72)=4.38,p<.001),「どれくらい攻撃的に感じたか」(t(72)=3.27,p<.01),「どれくらい嫌な気持ちを感じたか」(t(51.440)=3.05,p<.01),「どれくらい聞き手に配慮されていたか」(t(72)=-2.30,p<.05)において有意な差がみられた。 結果

7. アイロニー環境把握群と非把握群と各下位尺度高群と低群による影響
 アイロニー評価がアイロニー環境を把握しているかどうかと各下位尺度の高低に影響を受けているかを検討するために,アイロニー環境(把握群・非把握群)と「現状の他者理解度」・「他者理解欲求」・「解読」の尺度平均点(高群・低群)を独立変数,アイロニー発言へのそれぞれの評価を従属変数として2要因分散分析を行った(Table14~19)。
その結果,Aを想起した場合では,「他者理解欲求」の「発話は言葉通りの意味だと思うか」(F(3,70)=7.30,p<.01),「どれくらい攻撃的に感じたか」(F(3,70)=6.37,p<.05)で有意な交互作用がみられた。Bを想起した場合では,「他者理解欲求」の「発話は言葉通りの意味だと思うか」(F(3,70)=5.81,p<.05),「どれくらい皮肉らしく感じたか」(F(3,70)=8.72,p<.01),どれくらい攻撃的に感じたか」(F(3,70)=6.06,p<.05),「解読」の「どれくらい冗談らしく感じたか」(F(3,70)=4.02,p<.05)で有意な交互作用がみられた。 結果 結果 結果 結果 結果 結果