今後の課題


 本研究では,元々ライブ・コンサートに参加する意思があって参加した能動的参加者と,友人に誘われて参加し,元々参加する意思はなかった受動的参加者に分けて比較を行った。その結果,「フロー」の値に有意な差は認められなかった。まず,これまでのライブ・コンサートへの参加経験数や,ライブ・コンサートに参加すること自体の好き嫌いを問う質問項目を取り入れておらず,受動的参加者の区分けが足りなかったことが要因として挙げられる。受動的参加者の中には,ライブ・コンサート自体が好きで,さまざまな会場に通っている人も存在する可能性が大いにあるだろう。そのため,受動的参加者が,初めからライブ・コンサートに参加する態度が能動的であった可能性が考えられる。
 さらに今回,インターネット調査ということもあり,十分な回答数がなかなか集められなかったことがもう一つの要因として考えられる。能動的参加者と受動的参加者に分けて,各下位尺度のt検定を行ったが,能動的参加者が73人に対して,受動的参加者が10人と圧倒的に少なく,確固たる信頼性がある分析結果であるとは言えないかもしれない。
 また,本研究においては回答者に過去のライブ・コンサート経験を振り返ってもらい回答をしてもらうという追想方式をとったため,ライブ・コンサートに参加した際に経験したそのものをうまく反映することができなかった可能性が考えられる。そのため,回答への負担を考慮した上で,ライブ・コンサート閉演直後での調査を検討する必要もあるだろう。
 そして,本研究のライブ・コンサートは,ポピュラー音楽を対象範囲とした。そのため,会場やアーティストが異なる回答結果を分析に用いることとなった。会場やアーティストの違いによって経験価値に差が出ることも予想されるため,同一の会場,同一のアーティストのライブ・コンサートの参加経験者を対象に調査を実施することが望ましい。
 したがって,ライブ・コンサート当日に同一の会場・アーティストの参加者に回答を求め,より妥当性のある分析を行うことが,今後検討すべき課題だと考えている。
 最後に,今回の調査では,ファンの度合いによって見出す経験価値が違うという結果が得られた。さらに,ポピュラー音楽を対象範囲として様々なアーティストを対象に回答を求めたことにより,アーティストの特性の違いによっても見出す経験価値に差が見られるということが明らかとなった。ファンの中には,ファン心理が精神的にポジティブに作用するファンもいれば,過度な依存からネガティブな面を持つファンなど(小城,2018),様々な特性が見受けられるため,今後,ファンを細かくカテゴライズした経験価値の違いを明らかにする検討が求められるだろう。