総合考察
本研究はダイエット行動に着目し,ダイエット行動における目標志向性尺度の作成及び痩身願望と対人関係,目標志向性がダイエット行動に与える影響について検討することを目的とした。そこで本研究では,大学在籍時のダイエット場面における痩身願望や目標志向性について及び対人関係に関する項目を併せて取り上げ,ダイエット行動にどのような影響を及ぼすか検討した。ダイエット行動における目標志向性尺度の作成について,光浪(2010)の学習における目標志向性の項目を,渋谷(2010)のダイエットにおける目標志向性尺度の語句に置き換え,項目数を調整するため,6項目を追加し作成した。因子分析の結果,先行研究(光浪,2010)の「遂行接近目標」「遂行回避目標」に加え,熟達目標が,自己の体型や体重を管理することに関する内容と見た目に関するダイエット行動の成果を重視した内容に分かれたため「自己管理に関する熟達目標」「見た目に関する熟達目標」の4因子が抽出された。ダイエットにおいては,自己の体重を管理,把握し課題を達成する「自己の身体の管理に関する能力」の向上に加えて,スタイルや服の着こなしなどの見た目による課題の達成も見られると考えられるため,4因子になったと考えられる。
痩身願望と対人関係,目標志向性がダイエット行動に与える影響について検討するために共分散構造分析を行ったところ,ダイエット行動における目標志向性は痩身願望によって規定されていること,遂行目標には対人関係が影響していることが明らかになった。目標を規定するものとして達成動機が挙げられており(Elliot&Church,1997),達成動機は領域固有の動機づけの傾性のことと定義されている。ダイエット行動における達成動機は痩身願望と捉えることが出来るため,痩身願望はいずれの目標志向性にも影響を与えており,Elliot&Church(1997)の結果を支持するものになったと言える。また,遂行目標は他の人に自分の有能さを示すことを目標とする(中間,2016)ため,他者の存在が目標に与える影響が大きい。被異質視不安は「異質な存在にみられることに対する不安」,異質拒否傾向は「異質な存在を拒否する傾向」と定義されており(坂,2010),こういった他者との関係の中で生じる心性が遂行目標に影響を与えていたと考えられる。しかし,異質拒否傾向が高い人ほど遂行回避目標の数値が低くなっていることが明らかになった。このことは,異質拒否傾向はグループから異質なものを排除することで同質なグループを構成しようとするが,大きな集団からは孤立するという二重性を抱えている側面もある(山田,2019)ことから,異質拒否傾向のある者は他者からの評価を聞く機会が減少し遂行回避目標に負の影響を与えたと推測される。
次に,目標志向性がダイエット行動に与える影響について検討したところ,遂行接近目標及び自己管理に関する熟達目標を立てる傾向のある人ほどダイエットを行い,遂行回避目標を立てる傾向のある人ほどダイエットを行っていないことが示された。他者と比べてできないことを避けることを目標とすると,失敗した場合に自尊心が損なわれるのを防ぐために,積極的な行動を避けるといったセルフ・ハンディキャップ行動を助長させる。ダイエット行動を促進するには,課題の上達や習得,および他者と比べて有能であることを目指して課題に取り組もうとすることが理想的であると言えよう。
痩身願望が強いほど,非構造的ダイエットを行っていることが明らかになった。摂食障害傾向が高くなるにつれて構造的ダイエットも非構造的ダイエットも高頻度で行うようになるが,摂食障害群では特に非構造的ダイエットの頻度が高いことが明らかになっており,(松本・熊野・坂野,1997) 痩身願望は摂食障害傾向と関連がある(太田・種市,2016)ことから,痩身願望が強い者ほど非構造的ダイエットを行っていたと考えられる。
ダイエットの成功者,失敗者における影響の差について検討したところ,失敗者は遂行接近目標を立てることによって非構造的ダイエットを行っていたが,成功者においては影響がみられないことが明らかになった。失敗者は他者からの評価を過敏に感じすぎるが故に短期間で急激に体重を減らしていくような非構造的ダイエットに取り組んでしまうことが示唆された。中山・山崎(2018)や深見・山崎(1996)もダイエットが失敗する理由として「続かない」ことを挙げている。これらのことから,ダイエット失敗者は他者からの評価を気にして短期間で急激に体重を減らそうとする無謀ななダイエットに取り組もうとするため,ダイエットに失敗する傾向が現れたと言える。