方法
1.手続き
Webでの質問紙調査を行った。調査はGoogleフォームを用いた。大学の講義や筆者の友人に調査協力を依頼し,調査に同意した人のみQRコードまたはURLから質問フォームを開いて回答を求めた。大学の講義では,調査依頼書を提示しながら説明事項等を確認し,同意を得られた方に調査依頼書に記載されているQRコードから質問フォームへとアクセスしてもらった。また,重複回答を防ぐため,回答は一度のみであることを伝え,一度回答したことがある方は回答を控えるよう呼びかけた。
2.調査対象者
大学生182名の回答があった(男性:61名,女性:117名,回答しない:4名)。すべての回答に不備がなかったため,そのすべての回答を有効とした。調査対象者の平均年齢は19.8歳,標準偏差は1.59であった。
3.調査時期
2021年11月上旬〜下旬
4.質問紙の構成
フェイスシートにおいて,本研究の調査に協力することの同意を求め,本研究に関する説明事項を調査対象者に読んでもらい,それに同意する場合のみ回答に進んでもらった。さらに年齢,性別,学年を尋ねた。質問紙は,仮想的有能感尺度,2項目自尊感情尺度,教師認知尺度,生徒の教師に対する信頼感尺度,学業的援助要請尺度から作成した。また,教師認知尺度,生徒の教師に対する信頼感尺度,学業的援助要請尺度では,特定の教師を想定して答えてもらうため,「以下の質問は,高校時代を振り返り,自分の話をよく聞いてくれた先生を思い浮かべて回答してください。」と教示した。さらに,教示を見逃すことがないよう,すべての質問項目の冒頭に「その先生は」など先生の前に指示語をつけた。
4−1. 仮想的有能感尺度
回答者の仮想的有能感を測定するため,他者軽視傾向に基づき作成された速水他(2004)の仮想的有能感尺度を使用し,自分自身がどの程度当てはまると思うかを尋ねた。尺度は「自分の周りには気のきかない人が多い」「ほかの人の仕事を見ていると,手際が悪いと感じる」「話し合いの場で,無意味な発言をする人が多い」「知識や教養がないのに偉そうにしている人が多い」「他の人に対して,なぜこんな簡単なことがわからないのだろうと感じる」「自分の代わりに大切な役目をまかせられるような有能な人は,私の周りに少ない」「他の人を見ていて『ダメな人だ』と思うことが多い」「私の意見が聞き入れてもらえなかった時,相手の理解力が足りないと感じる」「今の日本を動かしている人の多くは,たいした人間ではない」「世の中には,努力しなくても偉くなる人が一定数いる」「世の中には,常識のない人が多すぎる」の11項目で構成されている。なお,「世の中には,努力しなくても偉くなる人が一定数いる」の項目は,「世の中には,努力しなくても偉くなる人が少なくない」という項目の「少なくない」という表現がわかりづらく回答者が混乱すると判断したため「一定数いる」と表現を変えて使用した。これらの項目を「以下の項目を読んで、あなたに最も当てはまるものを一つ選んでください。」という教示のもと,「よく思う」「ときどき思う」「どちらともいえない」「あまり思わない」「全く思わない」の5件法で回答を求めた。
4−2. 2項目自尊感情尺度
回答者の自尊感情を測定するため,箕浦・成田(2013)の2項目自尊感情尺度を使用し,自分自身がどの程度当てはまると思うかを尋ねた。尺度は「自分にはいろいろな良い素質があると思う」「自分のことを好ましく感じる」の2項目で構成されている。これらの項目を「以下の項目を読んで、あなたに最も当てはまるものを一つ選んでください。」という教示のもと,「よく思う」「ときどき思う」「どちらともいえない」「あまり思わない」「全く思わない」の5件法で回答を求めた。
4−3. 教師認知尺度
教師を回答者がどのように認知しているかを測定するため,三島・宇野(2004)の教師認知尺度を使用し,回答者が教師に対して感じたことにどの程度当てはまると思うかを尋ねた。その際,特定の教師を想定して答えてもらうため,「以下の質問は,高校時代を振り返り,自分の話をよく聞いてくれた先生を思い浮かべて回答してください。」と教示し回答を求めた。5つの下位尺度のうち,教師の外見をとらえた「たくましさ」と「自分の話をよく聞いてくれた先生」には当てはまらないであろう「罰」の2つの下位尺度を除いた「受容・親近」「自信・客観」「怖さ」の3つの下位尺度から,回答者の負担を考慮し,高校生向けではない項目や似た質問項目を減らし, 14項目を使用した。「受容・親近」では「その先生はうれしいとき一緒に喜んでくれる」「その先生は生徒が話しかけやすい感じがする」などの項目が含まれ,教師の受容,共感的な対応,そして親近感の湧く特性,教師の明るい特性が表されている。「自信・客観」では「悪いことをしたとき、その先生はどの子に対しても同じように叱る」「もしクラスでいじめがあったら、その先生は見逃さずに必ず叱る」などの項目が含まれ,教師が客観的な視点をもって生徒に対応している姿が表されている。「怖さ」では,「その先生は迫力のある怒り方をする」などの項目が含まれ,教師が怒ったときの怖さの認知が表されている。これらの項目を「以下の項目を読んで、あなたが感じたことに最も当てはまるものを一つ選んでください。」という教示のもと,「よく当てはまる」「少し当てはまる」「あまり当てはまらない」「全然当てはまらない」の4件法で回答を求めた。
4−4. 生徒の教師に対する信頼感尺度
教師を回答者がどの程度信頼しているかを測定するため,中井・庄司(2008)の生徒の教師に対する信頼尺度を使用し,回答者が教師に対して感じたことにどの程度当てはまると思うかを尋ねた。特定の教師を想定して答えてもらうため,「以下の質問は,今思い浮かべた先生と同じ先生を思い浮かべて回答してください。」と教示し回答を求めた。尺度は30項目で作成され,「安心感」「不信」「役割遂行評価」の3つの下位尺度で構成されている。「安心感」では,「先生にならいつでも相談ができると感じる」「先生はいつも私のことを気にかけてくれていると感じる」など教師がいることによる安心感や教師との関係性に対する安心感に関する項目が含まれる。「不信」では,「先生は一部の人を、ひいきしていると思う」など教師に対する不信に関する項目が含まれる。「役割遂行評価」では,「先生には教育者としての威厳があると思う」「先生には正義感が感じられる」など生徒が教職という職業についている教師に対して期待している,教師としての資質や役割に関わる項目が含まれる。なお,「たとえ間違っているときでも,先生は自分の間違いを認めないと思う」の項目は,「自分の」という表現が教師を指すのか回答者自身を指すのかがわかりづらく回答者が混乱すると判断した。そのため,「自分の」と表現を削除するとともに,「たとえ」の後ろに「先生が」という主語を挿入し「たとえ先生が間違っているときでも,その先生は間違いを認めないと思う」という項目で使用した。これらの項目を「以下の項目を読んで、あなたが感じたことに最も当てはまるものを一つ選んでください。」という教示のもと,「非常にそう思う」「少しそう思う」「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」の4件法で回答を求めた。
4−4. 学業的援助要請尺度
教師に対してどのような学業的援助要請を行うかを測定するため,野ア(2003b)の学業的援助要請尺度を使用し,自分自身がどの程度当てはまると思うかを尋ねた。特定の教師を想定して答えてもらうため,「以下の質問は,今思い浮かべた先生と同じ先生を思い浮かべて回答してください。」と教示し回答を求めた。尺度は11項目で作成され,「適応的要請」「依存的要請」「要請回避」の3つの下位尺度で構成されている。「適応的要請」は直接的な答えよりもヒントを求める,要請までの時間が長いといった特徴をもち,「自分で考えて,どうしてもわからなかったときだけ,先生に質問します」などの項目が含まれる。「依存的要請」はヒントよりも直接的な答えを求める,要請までの時間が短いといった特徴をもち,「わからない問題にであったときにはすぐに先生に答えを聞きます」などの項目が含まれる。「要請回避」は意図的に要請を避けるといった特徴をもち,「授業の内容がわからないときでも,先生に質問しません」などの項目が含まれる。これらの項目を「以下の項目を読んで、あなたに最も当てはまるものを一つ選んでください。」という教示のもと,「とても当てはまる」「少し当てはまる」「どちらでもない」「あまり当てはまらない」「ぜんぜん当てはまらない」の5件法で回答を求めた。