総合考察


 本研究では,恋人関係にある二者に対し非構造化インタビューを実施し,恋愛関係構築の過程について,LINE等の非対面型コミュニケーションと絵文字使用に着目し,検討することを目的とした。そして,新密度とコミュニケーション量との関係を根拠とし,関係初期から親密さ上昇時には絵文字を付加する頻度が高くなるが,ある程度親密な関係になると絵文字を付加する頻度が低くなると予想した。
 本研究では,予想を一部支持する結果となり,3組中2組において,関係初期には絵文字付加量が多く,その後徐々に減少していた。しかし「関係初期から親密さが上昇するにつれ絵文字付加量も増加していく」という予想とは異なり,連絡をとり始めた当初から,恋人関係になり気持ちが高揚している期間において,一定して絵文字付加量が最大となっていた。この要因として,関係初期こそ絵文字を使用するべきであるという考えがあることが挙げられる。恋愛対象となる人物に対しては,好かれたい,良い印象を持たれたいという思いを抱くため,文末に何もついていない淡白なメッセージよりも,絵文字を付加したメッセージの方がアプローチには適しているという意識があると思われる。また,メッセージに込めた意図を明確に伝えることができることもその要因の一つであった。その後,徐々に絵文字付加量が減少していったのは,関係が安定してくるにつれ,当初ほど相手の気を引くためにエネルギーを使う必要がなくなったから,また,絵文字を付加しなくてもメッセージの意図が十分伝わっているだろう,と互いに推測が働くからだと考えられる。この点に関しては,予想と一致する結果であったといえる。 
 そのような結果がみられなかった1組のカップルにおいては,他2組と異なり,友人同士から関係がスタートしていることが関連していると予測されるが,それ以外にもあらゆる要因が存在する可能性が大きいと思われる。
 併せて,LINEトークにおける連絡頻度も,3組中2組において交際後徐々に減少していた。これも,時間の経過とともに,関係性が安定してくると,新奇さや衝動的緊張が低減することが要因として考えられる。そのような中でも,LINEトークでの連絡,特に日常的な報告を欠かさないのは,LINEが「互いの状況を確認する」ためのツールになっているからだろう。また,継続的に連絡を交わすことで,自分たちの関係を良好なものにしたいという意思があることを表明するためだと考えられる。
 さらに3組全てのカップルにおいて,交際後徐々に,あるいは何らかの出来事をきっかけに,自己開示が促進され内面的な開示が多くなっていた。どんな自分でも受け入れてくれるという安心感や,この人であればさらけ出せるという信頼感の高まりが,自己開示を促したと考えられる。それによって,お互いをより深く知り,考え方や価値観を共有するようになる一方,相手に対する意見や不満も言いやすくなり,喧嘩や衝突,関係破局の危機を経験しており,その都度二人で話し合い問題を解決し,関係を維持してきたことが分かった。ぶつかり合ったりすれ違ったりしたその時は,お互いに好ましくない状況だとしても,その経験は,のちの二人の関係をさらに強固なものにするのではないだろうか。
 本研究ではインタビュー調査を行ったが,これは実際の恋人同士の二人のやりとりの具体性を深く追求するためであった。一般的な質問紙調査の方法でもある程度の方向性を見出すことはできたのであろうが,今回敢えてインタビュー調査を行ったわけである。それにより,それぞれのカップルにおける二人の関係性は,狙い通り鮮明かつ詳細に見えたと思われるし,何よりも実際のLINEトークのやりとりや,その裏にある率直な気持ちや心情までをも収集することができた。それぞれのカップルの現時点までの記述はやはりナラティブ(物語)であり,彼らはインタビュー終了後,「こうやって振り返る機会はなかったので貴重な経験だった。」「これまで深く意識したことのないことについて考えて言葉にすることで発見もあった。」「自分たちの過去を話すことで記憶が整理された気がする。」と話していた。このことから,文脈のある具体的なデータを得るという目的を果たすのみならず,「語る」という行為自体がもつ心理臨床的な機能の発揮もみることができたと考えられ,語り,そしてナラティブ研究の可能性が示唆されたといえる。


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