令和3年度卒業論文 学習の習慣化におけるアプリケーションの効果

三重大学 教育学部 学校教員養成課程 学校教育コース 教育心理学専攻 永易朝香 ←卒論・修論一覧のページへもどる
最終更新日 : 2022/03/18
【要 旨】 【問題と目的】 1.はじめに 2.習慣化 2-1.習慣化 2-2.学習習慣に関する先行研究 2-3.日本版HEMA尺度 2-4.学習観に関する先行研究 2-5.認知主義的・非認知主義的学習観 2-6.習慣化を促すアプリケーション 2-7.習慣化アプリケーションの先行研究 研究1 【目的】 【方法】 【結果】 1. アプリケーション 1-1.使用したアプリケーションの名称 1-2.アプリケーションの使用歴 1-3.使用時期 1-4.使用経緯 1-5.アプリケーションの機能とその効果 1-6.使用期間 1-7.使用目的 2. 継続度評価,習慣化評価 【考察】 研究2 【目的】 【仮説】 【方法】 【結果】 1. 継続度,習慣化評価の検討 2. 使用の有無における学習観の違い 2-1. 群分けを改めた使用の有無による平均点の比較(上位概念) 2-2. 群分けを改めた使用の有無による平均点の比較(下位尺度8項目) 3. 使用の有無における日本版HEMA尺度得点の違い 4. 使用の有無における日本版HEMA尺度のクラスタ群による違い 4-1. クラスタ分析(Ward法)と一要因分散分析による検討 4-2.各クラスタと使用の有無のクロス集計 5. 使用経緯における日本版HEMA尺度のクラスタ群との関連 【考察】 【総合考察】 【今後の課題と展望】 【引用文献】

【要 旨】

本研究では,習慣化をサポートするアプローチとして習慣化を促すアプリケーションを提案し,使用の実態を明らかにすることを目的とした。また,その実態をもとに,使用の有無と使用者の意識の関連について検討することも目的とした。まず,使用者自身が効果をどのように感じているかを検討するために,継続度評価,習慣化評価をもとに検討を行った。次に,学習習慣にかかわる要因として動機づけと学習観をとりあげ,使用者と未使用者でどのように異なっているかを明らかにした。最後に探索的に, 使用の経緯の違いで動機づけが異なるかについて検討を行った。調査対象は大学生・大院生とし,インターネットを利用した調査法を用いた。使用状況については「毎日使っていた」「場合に応じて定期的に使っていた」「使ったがすぐやめた」を想定し,回答後に質問を分岐させ,学習観尺度と幸せへの動機づけ尺度への回答を求めた。どのように効果があったかについては自由記述における項目を設けた。その結果,毎日使っていた群と場合に応じて使っていた群が使ったがすぐやめた群に比べて,アプリケーションの効果を感じていたことが明らかとなった。使用の有無と学習観については,アプリケーションを使った群が有効的に使わなかった群よりも,方略志向と失敗活用志向を重視するということが明らかとなった。使用の有無と幸せへの動機づけについては,使った群が使わなかった群よりも,自分自身の存在を最大限に生かすことを目指した動機づけや,学習自体を楽しいものと捉える動機づけを行うことが明らかとなった。最後に使用の経緯と幸せへの動機づけについては,経緯受動群の方が経緯能動群に比べて自己の心地よさを求めた動機づけを行うことが明らかとなった。

【問題と目的】

1.はじめに

小学校教育の段階で学習習慣をつけることは,その後の生涯にわたる学習に影響する重要な課題であるとされ,学習習慣の確立は中学生,高校生にとっても重要な課題であるといえよう。文部科学省のホームページの小学校学習指導要領(平成29年告示)解説では,第3章教育課程の編成及び実施で確かな学力について,「(中略)学習の基盤をつくる活動を充実するとともに,家庭との連携を図りながら,児童の学習習慣が確立するよう配慮すること」と述べている。しかし,学習の習慣化は容易ではない。井上(2018)のeラーニングにおける学習の定着と課題の達成度を調査する研究では,3つのコースの実施を行い,コースの登録者のアクセスが時間経過でどのように変化していくかを調べた。学習の場所が限定されにくく取り組みやすいという特徴があるeラーニングによる学習であっても,1か月学習を継続できない学生は約3割にのぼっている。残り2つのコースについても学習内容こそ変化したものの,継続率は低調な結果であった。学習を継続することは簡単ではないということがうかがえる。

2.習慣化

2-1.習慣化
辞書で“習慣”を引くと,「いつもそうする事がその人の決まりになっていること」と定義されている。では,学習の習慣化の定義とはなんであろうか。毎日長い時間机に向かっていた者がいたとして,その内容が正しく頭に入っていなかったとなったときに,果たしてその状態を“学習が習慣化した”といってしまってもよいのだろうか。学習の習慣化は生涯における重要な課題だとされるように,習慣化それ自体は目的ではなく手段だといえよう。本研究では習慣の定義にならい,当人が学習を行うことが当たり前の状態になっていることが,学習の習慣化の到達点であると捉え,検討を進めていく。

2-2.学習習慣に関する先行研究
教師が意識することの一つに児童が勉強の習慣をつくることがある。学校で出される宿題の役割には,学習内容の定着の他に家庭学習の習慣をつけることも含まれているだろう。しかし実際には,ただ膨大な量の宿題を出してしまうということも少なくない。ベネッセの教育総合研究所による第5回学習基本調査(2015)によれば,2006年と2015年との比較では小・中・高校生ともに学習時間が増えているが,その増加のほとんどが宿題の時間であるという。過大な課題により,児童生徒が課題の内容理解よりも課題を終わらせることに専念したり,勉強に対して受け身になってしまうことも考えられる。ただ量をこなすだけでは,長期的な学習は見込めないだろう。南(2021)は,こうした習慣づけには,条件づけや動機づけを意識した指導が必要となるとしている。それでは,学習習慣の形成に深く関わっている要因とは,どのようなものが考えられるだろうか。

2-3.日本版HEMA尺度
遠藤・中谷(2017)は, 熟達目標が内発的調整方略を促し,それが学習習慣を促すとした。また遂行接近目標が外発的調整方略を促し,これが学習習慣を抑制するということも示している。本研究においても,学習者が学習に対してどのような意識でいるかということに着目する。 たとえば,学習に対して「将来自分の役に立つかもしれない」という考え方を持っている人は,学習を行っている間にその必要性を実感できていなくとも,長く学習に取り組むことができるだろう。つまり学習習慣の形成においては,その場その場で学習への意欲を沸き立たせる動機づけ調整方略だけでなく,「とりあえず続けてみる」という姿勢が必要になると考えられる。逆に,「自分は今さえよければよい」という考え方を持っている人は,先を見据えることなく今行うべき学習を止めてしまう,ということも予想できるだろう。 浅野・五十嵐・塚本(2014)は,自分自身の存在を最大限に生かすことを目指した動機づけを“幸福追求”として尺度の検討を行った。また,自己の心地よさを求めた動機づけとして“喜び追求”と“くつろぎ追求”をあげている。南(2019)は,これらの動機づけ得点の高低によって “向上志向群”,“現状満足群”,“全追求群”に分けられるとした。“向上志向群”は幸福追求得点が高く、くつろぎ追求得点が低いことから,将来のために今頑張れる人たちのことである。“現状満足群”は,くつろぎ追求得点が高く幸福追求得点が低いことから,将来よりも今の感情を優先する人たちのことである。全ての追求得点が高い場合には“全追求群”となる。本来は人生において幸せへの動機づけをとらえる尺度であるが,本研究では学習への動機づけ尺度として用いて検討を行うこととする。

2-4.学習観に関する先行研究
学習に対する考え方や価値観は“学習観”と呼ばれている。この学習観をより正確に測定するために,さまざまな尺度が検討されてきた。しかし,学習習慣と学習観に関する研究はあまり多くなく,そこで本研究においては,学習習慣と学習観の関連に着目することとする。

2-5.認知主義的・非認知主義的学習観
市川(1995)では学習観は,“失敗に対する柔軟性”,“思考過程の重視”,“方略志向”,“意味理解志向”の4尺度であった。市川(1998)ではこれらの下位尺度を一次元と捉えていたが,植木(2002)により必ずしも一次元的ではないことや,新たな信念が存在することが明らかとなった。これまで提案されてきた尺度に,新たな信念とその上位概念を検討したのが植阪・瀬尾・市川(2006)の“認知主義的学習観”と“非認知主義的学習観”である。ここでは学習観は,効果的な学習の仕方に関する信念が,“失敗活用志向”,“思考過程重視志向”,“意味理解志向”,“方略志向”,“結果重視志向”,“丸暗記志向”,“環境設定志向”,“物量志向”の8つの下位尺度から構成される概念としている。また,これらの上位概念である認知主義的学習観と非認知主義的学習観に関して,認知主義的学習観が適応的な学習行動と,非認知主義的学習観が非適応的な学習と関連する可能性を示している。
ここであげられている“非認知”は昨今注目されている“非認知能力”とは異なる概念であることに留意したい。ここでは単に,「認知主義的ではない」という意味で“非認知”という言葉を使い定義づけている。 また,市川(1998)や植阪他(2006)はたんに学習観として検討を進めており,アプリケーションを使用するかどうかは議論の対象となっていない。本研究では,アプリケーションの使用の有無において認知主義的学習観の全てが関わるわけではないことも念頭に置いて検討を進めていく。

2-6.習慣化を促すアプリケーション
習慣化を促すアプリケーションを利用する場合には,さまざまな機能を使いながら学習を行っていく。したがって,アプリケーションの使用により,学習に取り組む際に重要視する事柄が異なってくるのではないだろうか。たとえば,“記録”によって可視化された学習量に重要性を見出したり,“他のユーザーとのつながり”によって自分以外の人の存在に重要性を感じたりする,といったことが予想される。 本研究では,そんな習慣化につながるアプローチとして,アプリケーションによるサポートを考えることとした。濱田(2019)は,大学生を対象に習慣化をサポートするアプリケーションの基礎的調査を行っている。しかし濱田(2019)の研究では,習慣化を促すアプリケーションの調査のみに留まっており,その効果を明らかにするような研究は行われていない。習慣化を促すアプリケーションを使用して学習を行うことで,学習者自身がどのように効果を実感しているのかを検討することには重要な意義があると考えられる。また,実際に学習の継続にどのような効果があるのかということには,習慣化のサポートとしての有用性だけでなく,ICT環境が整備されつつある教育現場において,今後の学習の取り組み方にも影響をあたえることだろう。

2-7.習慣化アプリケーションの先行研究
濱田(2019)の基礎的調査では“習慣化”をキーワードにアプリケーションの検索を行った結果,習慣化をサポートする機能は“記録”が最も多いことがわかった。次いで“リマインダー”,“励まし”,“他のユーザーとのつながり”という結果であった。アプリケーションが対象とする行動には,利用者のダイエットや筋トレ,勉強などの任意の行動を対象としたものが最も多かったとした。また濱田(2019)は,習慣化をサポートする機能の中で,“記録”はスケジュールの記入や確認の有無を記録することで,習慣化の形成の様子を視覚的に確認できると述べている。また,“他のユーザーとのつながり”は行動の動機づけや社会的促進につながるとした。しかし,他者の存在は学習者によい効果のみを与えるわけではない。金谷・永井(2016)は,課題遂行を観察する他者が存在する場合には,認知課題のパフォーマンスが悪くなるとした。アプリケーションを介した場合にも,他者の存在が学習行動を抑制する可能性は十分に考えられる。本研究では,実際にアプリケーションを使用した者にその経験を聞き,経験をもとに当人にとってどのような効果があったかをたずねることとする。

研究1

【目的】

濱田は習慣化について調べているが,探索的であり,また中高生を対象としたものではない。本研究では,中学生の勉強を支える習慣化アプリケーションに関してその実態を把握することを目的とする。

【方法】

1.調査対象

M県内の大学の心理学の講義を受講している学生を対象に実態調査を行った。大学生210名から回答を頂き,内訳では男性82名,女性126名,回答しない2名であった。すべての回答を有効回答とした。

2.調査時期

2021年7月中旬~下旬

3.手続き

インターネットを利用した調査法を用いた。調査ではGoogleフォームを用いて回答を求めた。得られた結果をもとに考察を行った。

4.質問紙の構成

質問紙は以下の項目で構成した。

4-1.フェイスシート

学籍番号,学年,性別についてたずねた。

4-2.アプリケーションの使用歴

習慣化をサポートするアプリケーションの定義を説明し,その使用の有無をたずねた。あると回答した者には使用したアプリケーションの名称,使用時期,使用経緯,アプリケーションの機能とその効果,使用期間,使用目的をたずねた。

4-3.継続度評価

アプリケーション使用以前に比べて学習が継続したと思うかを,「1.むしろかなり減少した」から「5.かなり継続した」の5段階評価でたずねた。

4-4.習慣化評価

アプリケーション使用以前に比べてどの程度習慣化に役立ったと感じたかを,「1.全く役に立たなかった」から「5.とても役に立った」の5段階評価でたずねた。

【結果】

実際に習慣化を促すアプリケーション(以下,「習慣化アプリケーション」と呼ぶ)を使用したことがある大学生がどの程度いるのかを調べるために,事前調査を行った。回答者の学年は大学1年生が最も多く,全体の約94%(197名)を占めた。続いて大学2年生が11名,大学3年生と大学4年生がそれぞれ1名という学年比であった。

1. アプリケーション

1-1.使用したアプリケーションの名称
 
アプリケーションを使用したことが「ある」と回答した者の中で,最も使用された習慣化アプリケーションは「Studyplus(スタディプラス)」であった。
1-2.アプリケーションの使用歴
被験者全体210名のうち約半数の45.7%がアプリケーション使用歴があることがわかった。
1-3.使用時期
小学生から大学生(現在)の期間において,アプリケーションが最も使われた時期は高校生で,使用者全体の96.9%が高校生の時に使用したと回答した。
1-4.使用経緯
約半数の使用者が「自分から」と回答した。次点で「友達に誘われて」(41.7%)が多く,「先生から勧められて」や「学校指定」などの回答も見られた。
1-5.アプリケーションの機能とその効果
内蔵されている機能で最も多かったのは“記録”であり,回答にあがったほとんどのアプリケーションに記録機能が備わっていた。次いで“他のユーザーとのつながり(グループ機能・SNS機能を含む)”(78.1%),“通知”(72.9%)であった。またその中で被験者が最も効果的だと感じた機能も“記録”であった。次いで“他のユーザーとのつながり(グループ機能・SNS機能を含む)”(10.4%),“励ましのコメント”(6.3%)であった。
1-6.使用期間
「場合に応じて定期的に使っていた」と回答した者が最も多かった。次点で「毎日使っていた」(37.5%),「使ったがすぐやめた」(14.6%)の順であった。
1-7.使用目的
「毎日使っていた」と回答した者は,その全員が「受験勉強」を目的としていたと回答した。「場合に応じて定期的に使っていた」者も,その87%が「受験勉強」と回答した。他にも,「定期テストの勉強」や「学校の宿題」など,幅広く習慣化アプリケーションを活用していたことがわかった。  また,「使ったがすぐやめた」と回答した者も,その全員が「受験勉強」を目的としていたと回答したが,他の勉強にも活用していたと回答した者は少数であった。

2. 継続度評価,習慣化評価

また,習慣化アプリケーションの使用により少なくとも以前より学習が継続したと感じていた者は,使用者全体の80.2%であった。さらに習慣化に役立ったと感じたかについて,少なくとも役立ったと感じていた者は使用者全体の76%であった。

【考察】

研究1では,習慣化アプリケーションがどの程度浸透しているものであるかの実態調査を行った。実際に使用されている習慣化アプリケーションに“記録”機能が多いことは,濱田(2019)の基礎的調査の結果の通りであった。加えて使用者の7割強が,数ある機能の中で最も効果があるとしていることから,学習の継続において“記録”は有効な手段の一つだといえるだろう。ただし,自由記述においては“記録”は有用だとする一方,「記録目的になってしまう」「スマートフォンを見てしまう」「途中で記録が面倒になる」といった回答も散見された。このことから,“記録”はあくまで習慣化のさわりとして有効であると捉えることができるだろう。また,“他のユーザーとのつながり”における自由記述についても,「他の人が頑張っているのを見てやらなきゃと思った」「友達と張り合って勉強時間が増えた」との回答がある一方で,「友達と勉強時間を比べて自分が少なかったときにやる気がなくなってしまった」と回答した者もいた。“他のユーザーとのつながり”は学習者が自分以外の学習記録を見ることができるだけでなく,同時に学習者自身の学習記録も他者から見えるという状況をつくる。このことが学習の継続の妨げになる可能性があることには,十分に注意しなければならないだろう。本研究においては被験者数がそれほど多くないとはいえ,習慣化アプリケーションの使用者は全体の半数近くいることがわかった。しかしまだ検討の余地がある部分も多い。学習が継続したか,習慣化に役立ったかについても8割近くがその効果を実感していることがわかるが,毎日使っていた群,場合に応じて使っていた群,使ったがすぐやめた群がそれぞれどのように感じていたかということはわかっていない。また,「使ったがすぐやめた」という人は使用者と一括りにしているが,この群をどのように捉えるかは結果に大きな影響を与えるだろう。研究2では使用者の内訳と群の特徴をさらに詳しく見ていく。

研究2

【目的】

研究1でわかったことをもとに,アプリケーションの使用歴の有無やその期間の違いが学習観,幸せへの動機づけとどのように関係するかを明らかにすることを目的とする。

【仮説】

仮説1:学習の習慣化を促すアプリケーションの使用は学習の継続,習慣化につながる。
仮説2:アプリケーションの使用の有無で学習観が異なり,使用したことがある者の方が認知主義的学習観の得点が高い。
仮説3:アプリケーションを使用したことがある者は幸福追求得点が高い。また,アプリケーションを使ったことのない者はくつろぎ追求得点が高い。
仮説4:向上志向群にはアプリケーションを使用したことがある人の割合が多く,現状満足群にはアプリケーションを使用したことがない人の割合が多い。
仮説5:使用経緯について,自分からアプリケーションを使った者は幸福追求得点が高い。それ以外の者はくつろぎ追求得点が高い。

【方法】

1. 調査対象

大学生を対象にWeb調査を行った。M県のM大学,K大学の学生,計96名の方から回答を頂き,内訳は男性32名,女性64名であった。そのうち,重複回答をした方3名の回答は最新の回答のみを有効とし,計93名の回答を有効回答とした。

2. 調査時期

2021年11月上旬~12月中旬

3. 手続き

インターネットを利用した調査法を用いた。調査ではGoogleフォームを用いて回答を求めた。得られた結果をもとに考察を行った。

4. 質問紙の構成

質問項目は以下の尺度及び項目で構成した。

4-1.フェイスシート

倫理説明項目への同意,学籍番号,学年,性別をたずねた。

4-2.アプリケーションの使用歴

習慣化をサポートするアプリケーションの定義を説明し,その使用の有無をたずねた。あると回答した者には大まかな使用時期と期間について「毎日使っていた」,「場合に応じて使っていた」,「使ったがすぐやめた」の3つの選択肢からもっともあてはまるものをたずね,その後の質問紙項目を分岐した。

4-3.使用時の状況(毎日使っていたと回答した場合)

継続期間,使用したアプリケーションの名称,使用時期,使用目的,使用経緯,アプリケーションの機能とその効果についてたずねた。

4-4.使用時の状況(場合に応じて定期的に使っていたと回答した場合)

継続期間を個々の期間,全体の期間に分けてたずねた。次に,使用したアプリケーションの名称,使用時期,使用目的,使用経緯,アプリケーションの機能とその効果についてたずねた。

4-5.使用時の状況(使ったがすぐやめたと回答した場合)

継続期間について「すぐ」とは具体的にどのくらいの期間であるかを,記述式にして回答を求めた。次に再使用の有無,使用したアプリケーションの名称,使用時期,使用目的,使用経緯,アプリケーションの機能とその効果についてたずねた。

4-6.継続度評価

アプリケーション使用以前に比べて学習が継続したと思うかを,「1.むしろかなり減少した」から「5.かなり継続した」の5段階評価でたずねた。

4-7.習慣化評価

アプリケーション使用以前に比べてどの程度習慣化に役立ったと感じたかを,「1.全く役に立たなかった」から「5.とても役に立った」の5段階評価でたずねた。

4-8.認知主義的・非認知主義的学習観尺度

植阪・瀬尾・市川(2006)の認知主義的・非認知主義的学習観尺度をもとに,ベネッセ教育総合研究所が作成した質問項目を使用した。植阪ら(2006)で環境設定志向,物量志向となっていた部分が他者依存志向,練習量志向となっている。尺度は16項目からなり,“失敗活用志向”,“思考過程重視志向”,“意味理解志向”,“方略志向”,“結果重視志向”,“丸暗記志向”,“環境設定志向”,“物量志向”の8つの下位尺度,その上位概念である“認知主義的学習観”,“非認知主義的学習観”の2つの尺度で構成されている。「1.大切ではない」から「5.とても大切である」の5件法で測定した。

4-9.日本版HEMA尺度

浅野・五十嵐・塚本(2014)が検討した日本版HEMA尺度を使用した。尺度は“くつろぎ追求”,“幸福追求”,“喜び追求”の3因子11項目で構成されている。人生において以下に示す意思をどのくらい持っているかについて「1.全くあてはまらない」から「7.非常にあてはまる」の7件法で測定した。

【結果】

1. 継続度,習慣化評価の検討

被験者自身がアプリケーションの効果をどの程度感じているかを調べるために,使用の頻度による一要因分散分析を行った。継続度評価の事後検定の結果,下のような結果が得られ,毎日使っていた群と場合に応じて使っていた群が,使ったがすぐやめた群に比べて有意に高いことが示された(F(2,41)=5.892, p<.05)。また,使用の頻度による習慣化評価の事後検定の結果も同様に,毎日使っていた群と場合に応じて使っていた群が,使ったがすぐやめた群に比べて有意に高いことが示された(F(2,41)=21.640, p<.001)。継続度評価と習慣化評価のどちらにおいても,毎日使っていた群と場合に応じて使っていた群との間に有意な差は見られなかった。

2. 使用の有無における学習観の違い

2-1. 群分けを改めた使用の有無による平均点の比較(上位概念)
使ったがすぐやめた群はアプリケーションを有効的に使わなかったとみなし,使わなかった群と合わせて「有効的に使わなかった群」とした。この群分けにおいて使用の有無におけるt検定(Welchの方法)を行い,下のような結果が得られた。使った群と有効的に使わなかった群による認知主義的学習観における有意な差は得られなかった。また,非認知主義的学習観における有意な差も得られなかった。

2-2. 群分けを改めた使用の有無による平均点の比較(下位尺度8項目)

2-1と同じ群分けをとった。使用の有無によるt検定(Welchの方法)を行い,下のような結果が得られた。方略志向について,使った群が有効的に使わなかった群に比べて有意に高いことが示された。また,失敗活用志向についても使った群が有効的に使わなかった群に比べて有意に高いことが示された。

3. 使用の有無における日本版HEMA尺度得点の違い

アプリケーションの使用の有無で日本版HEMA尺度における幸福追求得点とくつろぎ追求得点に差がないかを検討するためにt検定(Welchの方法)を行い,下のような結果が得られた。幸福追求得点において使った群の方が使わなかった群に比べて有意に高いことが示された。また,喜び追求得点においても使った群の方が使わなかった群に比べて有意に高いことが示された。

4. 使用の有無における日本版HEMA尺度のクラスタ群による違い

4-1. クラスタ分析(Ward法)と一要因分散分析による検討

被験者を分類するために,使用の有無によるクラスタ分析を行った。クラスタ数は3とした。得られた結果は南(2019)の先行研究に基づき命名を行った。第一クラスタは幸福追求得点と喜び追求得点に比べてくつろぎ追求得点が低いことから“向上志向群”と命名した。第二クラスタはくつろぎ追求得点と喜び追求得点に比べて幸福追求得点が低いことから“現状満足群”と命名した。第三クラスタは全ての追求得点が高いことから“全追求群”と命名し,下に示した。 分類したクラスタごとの日本版HEMA尺度得点が,それぞれ有意な得点差であるかを検討するために,をもとに一要因分散分析を行った。事後検定の結果,下のような結果が得られた。くつろぎ追求得点においては全追求群が向上志向群,現状満足群に比べて有意に高いことが示された(F(2,90)=41.184, p<.001)。また,向上志向群が現状満足群に比べて有意に高いことも示された(p<.05)。次に,幸福追求得点においては全追求群と向上志向群が現状満足群に比べて有意に高いことが示された(F(2,90)=39.074,p<.001)。また,全追求群が向上志向群に比べて有意に高いことも示された(p<.05)。最後に,喜び追求得点については全追求群が向上志向群,現状満足群に比べて有意に高く,向上志向群が現状満足群に比べて有意に高いことが示された(F(2,90)=79.811, p<.001)。

4-2.各クラスタと使用の有無のクロス集計

4-1で分類した各クラスタにおいて使用の有無に違いがないかを検討するためにクロス集計を行い,下のような結果となった。向上志向群と全追求群に比べて,現状満足群の全体に占める使わなかった群の割合が高いことが示された。このことが有意な差であるかを検討するためにカイ二乗検定を行ったが,各クラスタの使用の有無による有意な差は見られなかった(χ2=2.569, df=2, p=.277)。

5. 使用経緯における日本版HEMA尺度のクラスタ群との関連

アプリケーションの使用経緯と日本版HEMA尺度のクラスタとの関連を見るためにt検定(Welchの方法)を行い,下のような結果が得られた。喜び追求得点については,経緯受動群が経緯能動群に比べて有意に高いことが示された。くつろぎ追求得点と幸福追求得点については経緯能動群と経緯受動群との間に有意な差は見られなかった。

【考察】

1. 継続度評価,習慣化評価の検討について

研究1ではアプリケーションの使用者全体に評価を聞いていたため,それぞれの群がどのような評価を行っているかが不明であった。研究2では継続度評価・習慣化評価について,毎日使っていた群と場合に応じて使っていた群が,使ったがすぐやめた群よりも有意に高いことが示された。群間で差があることは示されたが,継続度評価とは本人がどれだけ継続したと感じているか,習慣化評価とは本人がどれだけ習慣化したと感じているかを表すために,これらのことはある意味当然の結果であるといえるだろう。 ただ,毎日使っていた層と場合に応じて使っていた層の間に有意な差が見られなかったことについて,この二つがほぼ同義の意味合いを持っていたことが原因の一つとして考えられるのではないか。場合に応じて使っていた層に対しては,個別に質問項目で「個々の期間」と「全体の合計期間」をたずねている。高校生の時に場合に応じて使っていたと回答した者の中には,個々の期間は中間テストや期末テストに利用する2週間であったとしても全体を通しては3年間続けたという者も見られた。この被験者と,3年間毎日アプリケーションを使って学習を続けた被験者との違いを説明することは難しい。さらに,この結果を習慣化はしなかったとみなすこともまた難しいだろう。このことから,本人にとって習慣化したかどうかというのは,たんに毎日続いたかどうかだけで判断するものではないと考えられる。

2. 使用の有無における学習観の違いについて

下位尺度8項目のうち,方略志向と失敗活用志向にのみ有意差が見られた。この志向はどちらも上位概念の認知主義的学習観に分類できるものである。このことは,習慣化を促すアプリケーション(以下,「習慣化アプリケーション」と呼ぶ)を使ったことのある人の方が,学習に対して自分に合った勉強方法を見つけようとしたり,間違ってもそこからよりよく分かろうとする考え方を持っていると考えることができ,仮説は一部支持されたといえるだろう。 同じく上位概念の認知主義的学習観に分類することのできる意味理解志向,思考過程重視志向に有意差が見られなかったことは,アプリケーションの使用による効果と直接の関係がないためと考えられる。また,非認知主義的学習観においては下位尺度にも有意差が見られていないことから,アプリケーションの効果による違いを捉える尺度の再検討が必要であろう。また,考えられる原因の一つに,調査対象が大学生・大学院生であったことがあげられる。ベネッセ教育総合研究所による小中学生の学びに関する実態調査(2014)では,「学校段階があがるにつれて,勉強は長い時間をかければいいのではなく,勉強方法を工夫することも大切であると認識するようになる」と述べられている。学習観は学校段階により変化し,学校段階があがることに伴って量だけでなく質も重要視する,つまりは非認知主義的学習観のみならず認知主義的学習観も持つようになると考えられる。その点,高校受験や大学受験をパスしてきており,その経験をもとに回答を行う大学生・大学院生を対象とした調査では,ほとんどの被験者の中ですでに本人にとって最も有用な学習観が確立していた可能性があるだろう。

3. 使用の有無におけるクラスタ得点による違いについて

使用の有無におけるクラスタ得点による違いについては先に示した。使った群が使わなかった群よりも,自分自身の存在を最大限に生かすことを目指した動機づけや,学習自体を楽しいものと捉える動機づけを行うことが明らかとなった。仮説は一部支持されたといえるだろう。このことは,使った群は学習を行う際に,今がよければよいという考え方ではなく,今は多少苦しい思いをしたとしても少し先を見据えて,自分自身の存在を最大限に生かせるような動機づけのもと学習を行っていると考えることができるだろう。また,喜び追求得点についても有意差が示された。喜び追求とは,その時の自己の心地よさを求めた動機づけを示す快楽追求のうち,“楽しい”や“陽気な”などのポジティブ感情として位置づけている。したがって,使った群は使わなかった群に比べて,学習を行うこと自体を楽しいものとして捉えていると考えることができるのではないだろうか。 しかし仮説は一部支持されたと前述したように,アプリケーションを使わなかった群のくつろぎ追求得点が高いという仮説は支持されなかった。このことについては,学習観において使った群と有効的に使わなかった群で大きな差が見られなかったことと同じような考え方ができるのではないだろうか。アプリケーションを利用して学習を行わずとも,大学に進学するところまで学習を続けてこられている被験者が,幸せへの動機づけについて自身の将来の幸福よりもくつろぎややすらぎを優先しているとは考えづらい。使わなかった群のくつろぎ追求得点が高くなるという結果が得られなかったのは,このためだといえるだろう。

4. 使用の有無におけるクラスタ群による違いについて

全追求群,向上志向群,現状満足群のどの群の間においても使用の有無の人数比に有意な差はなく,仮説4は支持されなかった。ただし,クロス集計表から単純に数字だけを見るのであれば,全追求群と向上志向群については使った群と使わなかった群がほとんど同数であるのに対して,現状満足群は,その人数こそ少ないものの,全体に占める使わなかった群の割合は高かった。このことからは,その時の自己の心地よさを優先するという考え方を持つ者は,習慣化アプリケーションを使用しない傾向にあると考えることができるだろう。 現状満足群の人数の少なさは,被験者が既にある程度の学習量が見込まれた大学生・大学院生のみであったということが関係していると考えられる。したがって今後の検討では,学習観や幸せへの動機づけの観点からも,異なる学校段階による比較検討が必要となってくるだろう。

5. 使用経緯と日本版HEMA尺度得点との関連について

使用経緯と日本版HEMA尺度得点との関連については,経緯受動群の方が経緯能動群に比べて自己の心地よさを求めた動機づけを行うことが示された。しかし有意差は見られたものの,仮説とは正反対の結果となったことに注目したい。自分から進んで使用するならともかく,学校などで習慣化アプリケーションを使用することが義務づけられていたり,誰かから習慣化アプリケーションを使うことを勧められたことで使用を決めたような被験者が,学習自体にポジティブな感情を抱くようなことは考えられるのだろうか。とすれば,逆に,受動的にはじめた人間でも,習慣化アプリケーションを使った学習を行うことで,記録をつけて可視化したり,友人と競い合うことで,学習自体に楽しさを見出せる可能性があるととらえることができるだろう。また,自分から習慣化アプリケーションを使用して日々の結果を記録し,計画を立てて学習を行う被験者の多くは,学習が自分にとって必要な事項であり,ある意味当然の行いであると考えているのかもしれない。さらに検討が必要である。

【総合考察】

本研究は,習慣化をサポートするアプリケーション(以下,「習慣化アプリケーション」と呼ぶ)について,使用歴の有無やその時期・期間,使用目的,学習の継続に対して有効であったかなどについてたずね,その効果を明らかにすることを目的とした研究である。また,アプリケーションの使用歴の有無やその期間の違いが学習観,幸せへの動機づけとどのように関係するかを明らかにすることも目的とする。 習慣化アプリケーションの使用の実態としては,研究1,研究2のどちらにおいても被験者全体の約半数に満たない程度であった(研究1:45.7%,研究2:45.8%)。
習慣化アプリケーションの中でも“記録”,“他のユーザーとのつながり”は学習の習慣化において有用であるとする一方で,“他のユーザーとのつながり”は課題の抑制をもたらす可能性もある。本研究では,アプリケーション使用者にその経験を聞くことで実際の効果を明らかにした。継続度評価,習慣化評価ではともに「毎日使っていた群」と「場合に応じて使っていた群」が,「使ったがすぐやめた群」に比べて得点が有意に高いことが示された。このことはある意味当然の結果であるが,「毎日使っていた群」と「場合に応じて使っていた群」の間に差が見られなかったことに関しては,本人にとって習慣化したかどうかというのは,たんに毎日続いたかどうかだけで判断するものではないためと考えられる。
また,学習習慣の形成に深く関わっている要因について遠藤・中谷(2017)は, 熟達目標・動機づけ調整方略と学習習慣の関連を検討した。本研究においては,学習の習慣化には“とりあえず続けてみる”という姿勢が必要になると考え,浅野他(2014)の日本版HEMA尺度を採択した。また,さまざまな機能を使いながら学習を行うことより,学習に取り組む際に重要視する事柄が異なると考え,植阪他(2006)の認知主義的・非認知主義的学習観を採択し検討を行った。 学習観に関しては,上位概念における有意な差は見られなかった。下位尺度においては方略志向と失敗活用志向のみ,アプリケーションを使った群(以下,「使った群」と呼ぶ)の方が,アプリケーションを有効的に使わなかった群(以下,「有効的に使わなかった群」と呼ぶ)に比べて有意に高いことが示された。仮説2は一部支持されたといえる。このことは,習慣化を促すアプリケーショ人の方が,自分に合った勉強方法を見つけようとしたり,間違ってもそこからよりよく分かろうとする考え方を持っていると考えることができよう。意味理解志向,思考過程重視志向に有意な差が見られなかったことは,アプリケーションの使用による効果と直接の関係がないためと考えられることができるが,アプリケーションの効果をはかる尺度の再検討が必要だろう。
日本版HEMA尺度得点に関しては,幸福追求得点において,使った群の方がアプリケーションを使わなかった群(以下,「使わなかった群」と呼ぶ)に比べて有意に高いことが示された。このことから,使った群は自分自身の存在を最大限に生かせるような動機づけのもと学習を行っていると考えることができるだろう。また,喜び追求得点においても使った群の方が使わなかった群に比べて有意に高いことが示された。このことについては,使った群は使わなかった群に比べて,学習を行うこと自体を楽しいものとして捉えていると考えられるだろう。仮説3は一部支持されたと言えるが,使わなかった群のくつろぎ追求得点が高くなるという結果が得られなかった。このことは,被験者が大学生・大学院生であったことに起因すると考えられる。
さらに使用の有無における違いが見られないかの検討では,日本版HEMA尺度の各クラスタと使用の有無による有意な差は見られず,仮説4は指示されなかった。ただしクロス集計表から人数比を見る限りは,現状満足群の全体に占める使わなかった群の割合は高かった。このことからは,その時の自己の心地よさを優先するという考え方を持つ者は,習慣化アプリケーションを使用しない傾向にあると考えることができよう。 現状満足群の人数の少なさについては,被験者が既にある程度の学習量が見込まれた大学生・大学院生のみであったということも無関係ではないと考えられる。したがって今後の検討では,学習観や幸せへの動機づけの観点からも,異なる学校段階による比較が必要となるだろう。  使用の有無の他に探索的な検討として,習慣化アプリケーションの使用経緯と日本版HEMA尺度のクラスタとの関連を調べた。喜び追求得点についてのみ,経緯受動群が経緯能動群に比べて有意に高いことが示された。くつろぎ追求得点と幸福追求得点については経緯能動群と経緯受動群との間に有意な差は見られず,仮説5とは正反対の結果となった。このことから,受動的にはじめた人間でも,習慣化アプリケーションを使用により学習自体に楽しさを見出せる可能性があるととらえることができるだろう。

【今後の課題と展望】

第一に,本研究で検討しているのは習慣化アプリケーションの使用者・未使用者において学習観・幸せへの動機づけがどのように異なっているかということである。つまり,既にアプリケーションを使用したことのある者に対してその経験をもとに検討を行っているため,前後関係を明らかにするものではないことには十分に注意したい。たとえば,アプリケーション使用前からもともと学習観が確立されていたり,既に学習が習慣化した状態だったということも考えられる。したがって,習慣化を促すアプリケーションの実証的な効果をより明らかにするためには,実際にアプリケーションを使用させて課題を行わせる方法をとるのがよいだろう。アプリケーションを使用する前と後で学習観がどのように変化したか,また,幸せへの動機づけについてはそのクラスタの人数比が有意に変化したかなどを検討し,真にその効果があるかどうかを確かめる必要がある。
次に,本研究の仮説1について,有意差が見られたとはいえ,「使ったがすぐやめた群」に関して「すぐ」の度合いが人によってかなり違っていることに触れておきたい。この群には,個別に質問項目で「すぐやめたとは具体的にどの程度か」をたずねている。結果としては「すぐ」を3日だととらえている被験者もいれば,3か月や半年と回答した被験者もいた。この違いが何によるものであるのか,また,この違いが習慣化を促すアプリケーションの効果にどのような影響を与えるかなどを検討してみても興味深いかもしれない。 また,本研究の仮説2で学習観に差が出なかったことについて,研究の対象が大学生・大学院生であることが要因の一つだと考えられることを本研究仮説2の考察部分で触れた。遠藤・中谷(2017)の先行研究でも,動機づけ調整方略と学習習慣の調査は中学生を対象としたものであった。学習習慣,学習観形成の途中段階にあると考えられる中学生や高校生などを対象として調査を進めていく必要があるだろう。
「主体的・対話的で深い学び」の実現が求められている教育現場では,今後より一層,児童生徒が自ら学ぶ姿勢を持つことが重要になると考えられる。児童生徒は,それぞれが掲げる目標を達成するために,今自分がどのような学習を行うべきかを自分で考えていかなければならない。勉強をしなければならないが,どこがわからないかがわからないといった状態になっている場合もあるだろう。自分の現状を正しく把握するためには,学校段階の早い時期からメタ認知能力を身につけておくことが大切である。また教師も,そういったことを理解した上で指導にあたることが必要となるだろう。今後研究を進めていくことで,学習者が自主的な学習を継続する上で,そのとっかかりとして,アプリケーションが有効な手段の一つとなることに期待する。また,近年では自宅でオンライン授業やオンデマンド教材による学習を行うことも多くなっている。そういった新しい学習の形が今後は主流となっていくことも考えられる。アプリケーションは学習の習慣化を促すだけでなく,内部の記録機能はポートフォリオ的な役割を果たすこともできるだろう。記録自体が目的になってしまわないように,学習した内容が一目でわかりやすい機能や仕組みがあれば,さらなる効果も期待できる。タブレット端末が一人一台支給され,ICT環境が整いつつある昨今の学校現場においても,アプリケーションを利用した学習に取り組むことで習慣化の手助けをはじめ,学習全体のサポートになることを期待する。

【引用文献】

浅野 良輔,五十嵐 祐,塚本 早織(2014).日本版HEMA尺度の作成と検討―幸せへの動機づけとは―,心理学研究,85,1,69-79
ベネッセ教育総合研究所(2014).小中学生の学びに関する実態調査速報版
遠藤 志乃,中谷 素之(2017).中学生における動機づけ調整方略と達成目標および学習習慣との関連,心理学研究,88,2,170-176
濱田里羽(2019).習慣化をサポートするアプリケーションの基礎的調査―時間管理の習慣化を支援するアプリケーションの開発をめざして― 日本教育心理学会第61回総会発表論文集,299
井上 俊也(2018).学習を可視化するeラーニングの実証的取り組みの報告―大妻マネジメントアカデミーにおける実践― 人間生活文化研究,97-105
市川 伸一(1995).学習動機の構造と学習観との関連 第37回総会発表論文集,177
金谷英俊・永井聖剛(2016)他者による観察が変化の見落とし課題に与える効果 日本認知心理学会第14回大会,55
南 学(2019).現代の若者の価値観と主観的幸福感の検討(2)―生活満足度と協調的幸福感を用いて―,三重大学教養教育院研究紀要,4,53-59
南 学(2021)学習の基礎的メカニズムと学習の深化,越 良子(編) 教師になる人のための学校教育心理学, ナカニシヤ出版
文部科学省(2017).【総則編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説,32
植木 理恵(2002).学習観の構造,教育心理学研究,50,3,301-310
植阪 友理,瀬尾 美紀子,市川 伸一(2006).認知主義的・非認知主義的学習観尺度の作成,日本心理学大会発表論文集,70
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