本稿のまとめと今後の課題


 本研究の目的は、大学生が異性の他者と築く不均衡な依存関係において、甘えられたい意識がどのように影響しているのかを明らかにすることであった。また、大学生における依存関係の様相についても検討を行った。調査対象者には、恋人、あるいは家族以外で最も親しい異性の他者を1名想起してもらい、相手に対する依存性、相手との間で交わされるサポート授受のバランス、相手との関係の満足度、調査対象者の親子関係について回答してもらった。

 その結果、甘えられたい意識が関係満足度に与える影響は、異性との関係性が恋人同士であるか、友人同士であるかによって異なることが明らかにされた。恋愛関係においては、甘えられたい意識が弱いほど関係満足度が高くなるが、友人関係においては、甘えられたい意識が高いほど関係満足度が高くなることが確認された。仮説では、関係満足度は当人らの関係性ではなく、サポート授受のバランスによって異なることを予測していたが、サポート授受のバランスから関係満足度に与える影響はみられなかった。このことについては、サポートの互恵性の測定方法が適切であったかどうか検証が必要と考える。本研究では、個別的互恵性の視点から、特定の関係におけるサポート授受について測定した。しかし、全体的互恵性の視点から、別の他者との関係性において帳尻を合わせている可能性は十分にあるだろう。また、サポート授受の測定については、結局は個人の自己報告に依存してしまうという側面もみられ(奥田,1994)、この点は大きな課題と考えている。サポート授受のバランスについて関連した課題として、もう一点挙げると、研究対象としていた不均衡な依存関係のサンプル数が想定よりも少ないものとなった。互恵性得点の最頻値は「0」であり、サポートの提供量と受容量が一致した安定した関係性が多く見受けられた。加えて、極端に互恵性得点=0 から大きく外れた者は、一定数存在したものの、十分な数とは言えず、また関係満足度に関する法則性も見出せなかった。そのため、例えば、サポート授受のバランスが極端に不安定なカップルに対しては面接を行い、個性記述的に研究するといった質的研究からのアプローチが求められるだろう。

 また、恋愛関係においては、友人関係よりも甘えられたい意識を強く感じており、過剰な依存傾向にあることが示唆された。加えて、男性の方が、女性よりも甘えられたい意識を強く感じており、相手に対する依存性も高かった。本研究では、恋愛関係と友人関係との差異に着目したが、恋愛関係と友達以上恋人未満、片思いの関係といった、より微細な関係性の差異については更なる検討が必要と考える。さらに、今回は恋愛関係として異性同士のみを扱ったが、愛情は異性に対するものだけではない(金政・大坊,2003)。同性同士の恋愛関係というのも存在するために、研究対象の拡大を視野に入れるべきであろう。加えて、今回は交際期間や出会ってからの年月についての検討はしていないが、これらの期間の長短によって、相手に呈する依存性や関係満足度に差が出る可能性がある。この点についても今後更なる検討が必要である。

 また、親との信頼関係が構築されていないほど、異性の相手に対して依存することに抵抗を示しており、不安定な恋愛関係を築く要因として、親との信頼関係が 1つの指標になりうることが示唆された。ところで、本研究においては、質問紙にて「親」と表記しており、特にその親子関係の組み合わせは指定せず回答を求めた。しかし、親子関係においても、より微細な関係性の差異、すなわち父・母、息子・娘の組み合わせは何であるかは今後考慮すべきであろう。

 以上のように、本研究において、要因は何であるかという課題は残ったものの、甘えられたい意識が関係満足度に与える影響は、異性との関係性によって異なることを見出した点は大きな収穫であったと考えている。加えて、解明できた点は必ずしも多くはないが、従来あまり論じられてこなかった受動的な「甘え」およびサポートの送り手に着目したことからも、若干なりとも寄与できたと思われる。