1.はじめに 近年「HSP」という言葉がテレビや本など様々なメディアで取り上げられるようになり,対人関係における傷つきやすさや,新しい環境へ馴染むことの苦手さを説明する言葉としてクローズアップされている。「Highly Sensitive Person:以下HSP」とは生得的な特徴であるとされ, Aron & Aron(1997) は HSPについて“微細な刺激に敏感であるため刺激過敏になりやすい人”と定義している。本研究でもこの定義に基づいて研究を行う。これまでHSPに関する知識の希薄さや,HSPというパーソナリティを否定的に捉えることが多いということが問題視されており,HSPの対人関係場面の苦手さやストレスの感じやすさといったネガティブな部分に焦点が当てられてきた。Atras(1994)はHSPは刺激を感じる閾値が生まれつき低く,環境や物事に対して敏感に反応する人々のことであり,HSPはその敏感さによって,ストレッサーを苦痛と感じやすいため,抑うつ気分を抱きやすく,自尊心も低い人々であると特徴づけている。Aron & Aron(1997)はHSPについて,大きな音やまぶしい光,強いにおいなどといった刺激に対し敏感であることを指摘し,微細な刺激に対して敏感であり,刺激過敏になりやすいため,抑うつや不安が高いことを示唆している。このように今まではHSPのネガティブな部分に着目し,HSPとはどのようなパーソナリティであるのかを明らかにしようとする研究が多く行われてきた。これに対し平野(2012)は心理的敏感さにもポジティブな要素があり,その方法を探求する研究のあり方を提唱している。つまりHSPの心理的敏感さを捉える際に,“対人関係に不安を感じる”,“大きい音に敏感なため,抑うつになる”等の,ネガティブな部分に焦点を当ててパーソナリティを捉えるよりも,“対人関係で敏感なことによって周囲のサポートに気づくことができた”等に焦点当て,実際にどのような方法が心理的敏感さを緩衝することができるかを探求することに焦点を当てることを重要視すべきであるということである。
2.HSPの基礎概念である感覚処理感受性 ある人にとっては過度な刺激が,別の人にとっては弱すぎたり強すぎたりすることがある。このように感覚には個人差があり,HSPの基礎概念として感覚処理感受性 (Sensory Processing Sensitivity:以下SPS)がある。Aron & Aron(1997)は,SPSとは感覚情報を処理する過程における生得的な個人差ととらえ,船橋(2013) は,SPSの高さとは,「些細な刺激にも気づき,その刺激に反応し,その刺激に慣れが生じても刺激に対してまたすぐに反応し,感覚の閾値の変動がほとんどないこと」と定義している。つまり,刺激が生じることで多くは慣れや予測が生まれるのに対し,その慣れよりも刺激の敏感さが勝ることでまた刺激に反応してしまうのだと考えられる。SPSは感覚閾値の低さである「低感覚閾(low sensory threshold)」,精神生活の豊かさである「易興奮性(ease of excitation)」,精神生活の豊かさである「美的感受性(aesthetic sensitivity)」の3つの下位概念から構成される(高橋,2016)。高橋(2016)はこのような感覚処理感受性の下位概念は異なる心理的な機能を持つことを示しており,感覚処理感受性を総得点から捉えるだけでなく,3つの下位概念のバランスから個々人のHSPを考えていく必要があると言えるだろう。また平野(2021) は,SPSの高さについて,環境とのマッチングの悪さによって不適応を起こす者と,それを理解して許容することができない環境が原因にあることを示している。SPSの高い人は自らの生きづらさを認められないことがあり,その生きづらさが努力不足によるものではないと認識する必要性がある。その他の人はSPSの高い人と共に生きる上で,“その人らしさ”“変わらない特性であるから仕方がない”と当人を許容することが重要である。
これまでの研究において,SPSの高さは,社会的内向性,抑うつや不安の高さ,自己効力感,疎外感,否定的情動,ストレスの高さとの関連が報告され(Evers, Baxley, & Schabracq, 2008) ,否定的な感情やパーソナリティとの関連が示唆されている。高橋・熊野(2019) は大学生を対象とした調査により,HSPと特性不安や心身症状と正の相関,精神的健康と弱い負の相関があることを報告している。以上からHSPの特徴として,周囲に起こっている微妙なことを感じ長所とも言える部分があるものの,その特徴は同時に神経が景色や物音などの環境に左右されることで疲れやすく,短所にも成りうると考えられる。諸感覚の敏感さと,情動伝染や共感性の高さ等の人に対する敏感さの2側面があると言える(串崎,2020)。
3.レジリエンス これまでHSPのポジティブな部分に焦点を当て,HSPの心理的敏感さを後天的に補うことができるかということに焦点を当てた研究がいくつかなされている。平野(2012) はレジリエンスという力に注目し,レジリエンスが心理的適応の向上に効果的な要因であることを明らかにしている。レジリエンスとは,困難で脅威的な状況にもかかわらず,うまく適応する能力・過程・結果であると定義され(Masten, Best, & Garmezy,1990) ,誰もが獲得し身に付けることができる。困難な状況には対人関係の問題や環境の変化など,年代や発達段階,環境や状況によって多様な場合が考えられるだろう。一方で上野・平野(2020) は,同じ困難な出来事を経験しても,表出する心理的反応には個人差があることを示唆している。困難な状況に置かれて不適応を起こしてしまう人もいれば,その状況からすぐに回復し,適応する人もいるということである。
平野(2010)は,多様なレジリエンス要因の中から,持って生まれた気質と関連の強い「資質的レジリエンス」と発達的に身につけやすい「獲得的レジリエンス」に分けて捉える二次元的レジリエンス要因尺度を開発した。前者は先天的に保持しやすい要因(楽観性や社交性)であり,後天的に身に付けられないことを意味するわけではなく,あくまでも気質によって規定されやすいと考えられる(平野,2010)。後者は発達性変容の高い性格(獲得的な側面)と関連が強く,後天的に身につけやすい要因である。具体的には獲得的レジリエンスとして「問題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」が挙げられる。 これまで発達段階を通じて生涯変化し得るとされるレジリエンスを高めるための介入プログラムの開発や効果の検証が行われてきた。主に自己内省に着目したプログラムで構成されており,レジリエンスは過去の出来事に対する自己内省を行うことで,新たな資質への気づきや対処方略の発掘,増幅がある(平野,2017 )。過去に体験したことを客観的に振り返り,不適切な解釈を修正して正しい解釈ができるよう,自身を見つめ直す作業をプログラムに組み込むことが重要であると考えられる。
4. ブリーフセラピー 4-1.学校現場で用いられるブリーフセラピー また学校現場で広く用いられているというカウンセリング方法にブリーフセラピーがある。ブリーフセラピーとは,できるだけ少ないセッションで行うカウンセリングであり,特別な時間制限をあらかじめ設定するか否かにかかわらずできるだけ素早く変化を引き起こすように意図するあらゆう心理的な介入と定義されている(Eckert,1993) 。できるだけ短期間で行われるカウンセリング方法であり,自分のうまくいっていることや強みに気づかせるという点が特徴である(黒沢,2012)。 ブリーフとは,“短期の”,“簡潔な”を意味しており,このカウンセリングが短期間で行わるものであり,基本的な特徴が簡潔であるということを意味している。しかし,本質的な特徴としては簡潔なものではなく,肯定的な変化を効率的・効果的に生み出すための意図的で計画的な働きかけによる結果としての簡潔さというところに他のカウンセリング方法とは異なる特徴を持っていると考えることができる。クライエントの抱える問題の背景や原因に注目するよりも,望ましい方向に解決を見出すことを強調し,うまくいっている部分に焦点を当てることで到達可能な具体的目標の達成に向けて進んでいくことに重きをおいていると考えられる。
宮田(1999) は,ブリーフセラピーを症状志向モデル(クライエントの問題に焦点をあてる),問題志向モデル,解決志向モデルの3つに分類している。本研究では,ブリーフセラピーの解決志向モデルに焦点を当ててプログラムの開発と検討を行う。個人で行うことができ,簡易的に取り組むことができる介入を通して,個人が持っていたもとのポジティブな資質への気づきを促すことができると考えられる。 ブリーフセラピーでは,今現在どのような症状が出現しているのか,背景や原因は何かを追求することを重要視するのではなく,“何が誤っていて,どのようにそれを治療するのかを探るのではなく,それをどのように活用するのかを探ろうとする”ことに重きを置いている(Berg, & Miller, 1992)。つまり,現在の問題や困難な状況の背景や原因を過去の内容から追及するよりも,どのようなことが解決につながるのか,解決に活用できる要素は何かということを,クライエントのパーソナリティや遂行可能な行動の中で問題解決につながる内容に焦点を当てて導くということであると考えられる。具体的なアプローチ法としては,解決や未来に焦点を当てるような方法であり,自分の長所や特性の価値に気づいてさらに広げたり,達成可能な目標に向けて行動したりするということを行う(黒沢,2012 )。また黒沢(2012)は上手くいっていることや自分の良さに気づくことができるということ,自分を理解できるという点において,学校教育の現場で活用されることが多いことを述べている。
4-2.HSPのためのブリーフセラピー HSPにおいて,自尊感情が低いことやストレスを感じやすいという特性があるということから,ブリーフセラピーを用いることで自分の良さや価値に気づいたり,過去に目を向けるのではなく未来を良くしようという思考を働かせたりすることができ,解決志向的な考え方を知ることができるのではないだろうか。「未来の解決」という点から尋ねる質問における注意点として,伊藤(2012) は,うつ状態の強い人はそうでない人と比較し,ネガティブな単語や文章よりもポジティブな単語や文章を思い出すことが苦手であることを示している。このことからHSPという特性のネガティブな部分に着目すると,抑うつ傾向にあることや自尊感情が低いという観点から,HSPに対して「未来の解決」という視点から質問しないことを検討すべきであると考えられる。未来の解決というと重みを感じる場合が考えられるため,既に解決したことを考えさせる項目を含めると効果があるのではないだろうか。しかし,HSPに対してブリーフセラピーを行い,その効果を検討した研究は未だ無い状況である。
De Jong & Berg(2012)は既に解決した問題について,“どうやってそれをしたのか”“どんな役に立ったのか”ということを尋ねるコーピング・クエスチョンを用いることで,クライエントが誰かとの間に作ったつながりや,クライエントの重要な経験を振り返ることができると結論づけている。つまり,HSPという繊細なパーソナリティの人々に対してブリーフセラピーを行うには,未来の解決を目指すよりも,既に自分の力で解決できた事柄について振り返り,自身の問題解決能力に気づくというアプローチ法が適していると考えられる。 本研究では,ブリーフセラピーの中でも既にある解決に焦点を当てた内容を組み込んだプログラムを構成し,HSPに対して効果があるかを検討する。 ブリーフセラピーの解決志向モデルに着目すると,クライエントの内的資源に目を向ける必要性が考えられる(原田,2007 )。さらに原田(2007)は,クライエント自身が問題解決につながる内的資源を備えている存在であることを認め,クライエント自身にも自身が持っているはずの解決を進めるための内的資源を自覚させることを重要視している。つまり,“欠点”,“弱点”という観点から,“強み”,“可能性”というところに視点を置くことがブリーフセラピーの基礎となっていると考えられる。またブリーフセラピーの基本となる構造として森・黒沢(2002) では,次の5つのステップが想定されている。
① クライエント―セラピスト関係の査定 ② ゴールに向けての話し合い ③ 解決に向けての有効な質問 ④ 介入 ⑤ ゴール・メインテナンス(解決の維持・発展) また,栗原(2001) は同様に以下の5つのステップを考案しており, ① 安心感・安全の獲得 ② ゴール設定(嬉しいイメージを広げる) ③ モニタリング ④ 対処方法の検討 ⑤ 対処方法の選択 つまり,ブリーフセラピーがクライエントとセラピストの関わりの中で構成される形態であると言える。しかし,本研究ではSNSを通じてプログラムを行うため,参加者と話し合ったり,質問を加えたりすることが困難である。そのため,以上の内容を参考に,HSPのためのブリーフセラピー・プログラムを開発し,検討する。
4-3.スケーリング・クエスチョン スケーリング・クエスチョンとは,ある出来事について感じた度合いの強さをクライエントに数値として表現させる方法であり,伊藤(2014 )は,スケーリング・クエスチョンとは,具体的な行動とそのやり方の明確化と位置づけている。また小関(1998) は,ブリーフセラピーの質問は,過去に起こった成功体験である「既にある解決」を尋ねる質問と,クライエントが将来起こってほしいと考える解決像である「未来の解決」を尋ねる質問という2つの領域に分けることができると結論づけている。そして,スケーリング・クエスチョンについて,小関(1998)は「既にある解決」と「未来の解決」の両方を尋ねることができる質問となることを述べている。つまり,過去に起きた成功体験や既に行ってきた解決方法を思い出す方法が適しているHSPに対して用いる項目として活用できると考えられる。そのため,本研究で開発するプログラムの内容として活用する。
4-4.コーピング・クエスチョン コーピング・クエスチョンとは,不安や苦痛を経験するような状況に対してクライエントが立ち向かった時やその方法を尋ねる質問である。De Jong & Berg(2012) は,クライエントのコーピングの勢いを増すためには,“人との間に作ったつながり”,“クライエントにとって重要な経験”に気づき,丁寧に対応する必要があると述べている。HSP はもとから自尊心が低いということが考えられるため,過去に起きた苦痛や不安をどのように解決したかを振り返ることは,自尊感情を高めることに有効なのではないだろうか。そのためHSPに効果のあるプログラムにするために,本研究ではコーピング・クエスチョンを用いて,不安や苦痛からどのように立ち直ったかを振り返る項目をつくる。
5.自己効力感と抑うつ 5-1.従来のHSP研究 様々な研究の中で,その生きにくさを説明する言葉としてHSPという言葉は用いられている。しかし,HSPの基礎概念である感覚処理感受性は本来的には生きにくさを前提とした概念ではなく,価値とは無関係な特性として研究されている。しかし,一方で感覚処理感受性に関する研究において,この特性が不適応を起こすという結果を示しているものが多い。上野他(2020) は,大規模調査データを用いてHSPと人生満足度および自尊感情の関係を検討し,感受性の高い群が中程度の群に比べて満足度と自尊感情が低いことを示している。そして,因子レベルでの分析を通して,易興奮性は不安に,低感覚閾は抑うつに,それぞれ強く関連しやすいことが示唆されている。このように,従来のHSP研究ではHSPのネガティブな部分に着目し,その人のパーソナリティの“弱さ”とされる部分を取り上げて考察しているものが多いと考える。しかし,そのような“弱い”性格のもつ肯定的な部分にも目を向けた研究もいくつか行われている。
Mueller et al(2020) は,神経症傾向の高い人は,自らのポジティブ感情がパートナーのポジティブ感情とより密接に結びついているということを述べ,関係性に関わる肯定的な影響が示されている。またNg(2016)は,神経症傾向の高い人々は,ポジティブ心理学的介入によって向上した幸福感得点が1週間後に低下してしまったものの,行動選択においてはポジティブさ(より楽しい行動を選択しようとすること)が維持されていることを報告している。これらの研究から,心配や不安の高さが自身の評価を低くする傾向に繋がるが,それによって結果的にポジティブな現実を得やすい側面があると考えられる。また,ポジティブ心理学的介入によって幸福感得点が上がったという結果や,行動選択においてポジティブさが維持されていることから,神経症傾向のある人に対する心理学的介入は一定の効果があると考えられる。本研究ではHSPという繊細さのある人に介入を行うため,以上のような先行研究を参考に,プログラム内容を考えていく。
5-2.自己効力感 Bandura(1997) によって提唱された社会的学習理論では,“ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるか”という個人の確信を“self-efficacy”と呼んでいる。つまり,self-efficacyとはある行動をする前に個人が感じる「自己遂行可能感」のことであり,自分自身がやりたいと思っていることの実現可能性に関する知識,あるいは自分にはこのようなことがここまでできるのだという考えのことであると位置づけている(バンデューラ,重久訳,1985) 。またBandura(1997) は,self-efficacyが自然に生じるものではなく, ① 自分で実際にやってみること―遂行行動の達成 ② 他者の行為を観察すること―代理的経験 ③ 自己教示や他者からの説得的な暗示―言語的説得 ④ 生理的な反応の変化を体験してみること―情動的喚起
といった情報を通じて,個人が自ら作り出していくものであると報告している。このようなself-efficacyを個人がどの程度身に付けているかを認知することは,自分の情動を抑制する要因となる一方で,自らの可能性や良さに気づき,自分がどの程度うまくできるかという自己認知につながるのではないだろうか。前田ら(1985)は,視線恐怖症患者の症状改善とself-efficacyとの間に密接な関係があることを見出しており,不安反応の制御,主張反応や社会的スキルの獲得等,様々な臨床場面においてself-efficacyが行動変容を予測する要因として有効であることが示されている。また,成功・失敗に対する認識と行動の関係性を示す理論として帰属理論がある(樋口・鎌原・大塚,1983) 。帰属理論とは,成功や失敗の原因をどのような要因に帰属させるかによって,認知へ及ぼす影響の違いを示すことが特徴とされている。樋口ら(1983)は成功の原因を能力や努力に帰属させることによって自己効力感が増加することを示しており,自己効力感の高さは「自ら進んで,工夫して物事を行い,粘り強く,最後まで責任をもってやる」といった自律的行動に影響を与えることを明らかにしている。またBandura(1977) は自己効力感の増減が媒介となり,行動の遂行度に影響を与えることが指摘している。つまり,自己効力感の高さは自律的行動に影響を与え,自己効力感の増減によって物事を遂行することに関して違いが見られるということである。
ここで,本研究ではHSPを対象に調査を行うにあたり,HSPの特性が不安の高さや対人関係の繊細さにあることから,self-efficacyによって介入の効果を検討できるのではないかと考えられる。また不安の高さや自尊心が低いことにより,困難に対して直接関連しない領域による対処や,他者との親和的関係を求めることが明らかとなっており(e.g.,Crocker, Thompson, McGraw, & Ingerman,1987) ,これによって自己防衛を行う。HSP高群が,低群とは異なる自己防衛をとり,自由記述等に違いがみられると推測する。 本研究の目的はHSPに対して効果のある介入を検討することであり,その介入の効果を一般性セルフ・エフィカシー尺度(坂野・東條,1986 )を用いて測定する。また,坂野・東條(1986)によって作成された尺度は2件法であったが,本研究ではより細かなセルフ・エフィカシーの変容を測定することを目的に,7件法を用いて効果を測定する。
5-3.抑うつ 日本では平成10年以降自殺志望者が毎年3万人をこえる状況にある(警視庁HP)。仕事や職業生活に関する悩みや不安によるうつ症状等その原因は様々であり,メンタルヘルスに関する問題は生きていく上で大きな課題であると考えられる。ここで精神健康状態の評価方法としてCES-Dがあり,「抑うつ項目」「不安症状項目」「孤立感項目」「満足感項目」という下位因子から構成されている。本研究では,不安感が高い傾向にあるHSPに対して検討を行うことから,CES-Dを用いて介入の効果を検討する。HSPに対して介入を行った後に,抑うつ得点が低減されていることで,介入によるHSPの緩衝が期待できると考えられる。また介入の前後でCES-Dを用いた測定を行うにあたり,症状の頻度を過去1週間と設定する。
6.本研究の目的 HSPの人は,微細で刺激に敏感であり,刺激過敏になりやすいという(Aron & Aron,1997)。また対人関係におけるストレスや光・音に敏感であることや,刺激過敏になりやすいため抑うつ傾向が高まること,自尊感情が低いことが示されている(上野・高橋・小塩,2020)。一方で美術や音楽に感動しやすいことや,豊かな想像力を持つなどのポジティブな敏感さをもっている(土田・佐々木,2015)。このことから,HSPの特性について他者との関わりに関するコーピングの低さや他人の気分に左右されやすいといったネガティブな部分に焦点が当てられた研究が多く,HSPはポジティブな敏感さに着目しづらいという点から,生きづらさにつながっていると考えられる。平野(2021)は,HSPが環境からのネガティブな影響を受けやすい一方で,ポジティブな影響も受けやすいことを指摘しており,HSPは環境からのポジティブな影響を受けることで,社会情緒的適応が高まると考えられる。
心理的敏感さを後天的に緩衝できる効果がある要因を見つけ,もとの心理的敏感さは変えられなくとも,HSPの人に対してその要因や能力を獲得できるよう促すことにより,心理的敏感さによる生きづらさが緩和されるのではないだろうか。本研究では,HSPの環境に敏感である特徴を否定するのでなく,HSPの心理的敏感さを後天的に緩衝できる介入としてブリーフセラピーを用いたプログラムを作成し検討する。 ブリーフセラピーは,学校教育の現場で広く用いられている臨床方法であり,コーピング・クエスチョンやスケーリング・クエスチョンといった手法が挙げられる。これらは過去の成功体験に基づき,自身がもっている既存の解決を思い出させる手法である。HSPは上野・高橋・小塩(2020)が述べるようにもとから自尊感情が低いという特性があり,その特性にアプローチするには,過去に苦痛や不安をどのように解消したのかという自身のコーピング能力を受容することや,身の回りの人々が自分をサポートしてくれている環境を再確認することが有効なのではないだろうか。
そこで本研究では,HSPの特性から,有効であると考えられるブリーフセラピーを用いたプログラムを作成することを第一の目的とする。第二に,ブログラムの実施前後で自己効力感,抑うつ感を測定し,HSPに対するプログラムの効果を検討し,プログラムの実施によってHSPの生きづらさを緩衝することを目的とする。