結果


回答に不備がみられたものを除外し,43名(男子15名,女子28名)を分析の対象とした。 1.各下位尺度の記述統計量 各下位尺度の記述統計量をTable1に示す 2.尺度構成の検討 2-1.Highly Sensitive Person Scale日本語版尺度(HSPS-J19) ブリーフセラピーを用いたプログラムの実施前に個人のパーソナリティを測定するために,Aron & Aron(1997)によって作成されたHSPSを高橋(2016)が日本語に翻訳したHighly Sensitive Person Scale 日本語版尺度(HSPS-J19)を用いた。因子構造は高橋(2016)のものに倣い“低感覚閾”,“易興奮性”,“美的感受性”の3因子構造とした。まずHSPS尺度の平均値・標準偏差を算出した。全19項目をブリーフセラピーを用いたプログラムの実施前で用いた。Cronbachのα係数を算出した結果,α=.853と十分な値がみられた。

2-1の結果

2-2.一般性セルフ・エフィカシー尺度 ブリーフセラピーを用いたプログラムの実施前と実施後の自己効力感が向上しているかを測るために,日常生活の様々な状況における個人の一般性セルフ・エフィカシーの強さを測定する坂野・東條(1986)の一般性セルフ・エフィカシー尺度を用いた。因子構造は坂野・東條(1986)のものに倣い“行動の積極性”,“失敗に対する不安”,“能力の社会的位置づけ”の3因子構造とした。全15項目を,ブリーフセラピーを用いたプログラムの実施前後の計2回で用いた。まず自己効力感尺度の平均値・標準偏差を実施前と実施後で算出した。Cronbachのα係数を算出した結果,実施前がα=0.78で実施後がα=0.83と十分な値がみられた。

2-3.うつ尺度CES-D簡易版尺度 CES-D(The Center for Epidemiologic Studies for Depression Scale)の因子構造をもとに,蒲原・岡田・志渡(2009)によって作成されたうつ尺度CES-D簡易版を用いた。因子構造は蒲原・岡田・志渡(2009)のものに倣い“抑うつ感”,“不安症状”,“孤立感”,“満足感”の4因子構造とした。全20項目を,ブリーフセラピーを用いたプログラムの実施前後の計2回で用いた。まずCES-D簡易版尺度の平均値・標準偏差を実施前と実施後で算出した。Cronbachのα係数を算出した結果,実施前がα=0.89で実施後がα=0.90と十分な値がみられた。

3.各下位尺度間の相関関係 各下位尺度間の相関を算出した(Table2)。 プログラム実施前の行動の積極性は,実施前の失敗に対する不安,実施前の抑うつ,実施前の不安症状,実施前の孤立感,実施後の行動の積極性,実施後の失敗に対する不安,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の孤立感,実施後の満足感,低感覚閾,易興奮性との間に正の相関が見られ,実施前の満足感,美的感受性との間に負の相関がみられた(r=.82;p<.001, r=.58;p<.001, r=.49;p<.001, r=.44;p<.01, r=.65;p<.001, r=.64;p<.001, r=.47;p<.01, r=.39;p<.01, r=.33;p<.05, r=.37;p<.05, r=.35;p<.05, r=.56;p<.001, r=-.57;p<.001, r=-.36;p<.05)。

プログラム実施前の失敗に対する不安は,実施前の抑うつ,実施前の不安症状,実施前の孤立感,実施後の行動の積極性,実施後の失敗に対する不安,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の孤立感,低感覚閾,易興奮性との間に正の相関が見られ,実施前の満足感との間に負の相関が見られた(r=.63;p<.001, r=.58;p<.001, r=.58;p<.001, r=.49;p<.01, r=.62;p<.001, r=.49;p<.001, r=.45;p<.01, r=.45;p<.01, r=.50;p<.01, r=.68;p<.001, r=-.34;p<.05)。

プログラムの実施前の能力の社会的位置づけは,実施前の満足感,実施後の能力の社会的位置づけ,実施後の満足感,美的感受性との間に正の相関が見られた(r=.34;p<.05, r=.78;p<.001, r=.44;p<.01, r=-.31;p<.05)。

プログラム実施前の抑うつは,実施前の不安症状,実施前の孤立感,実施後の失敗に対する不安,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の孤立感,実施後の満足感,低感覚閾との間に正の相関が見られ,実施前の満足感,美的感受性に負の相関が見られた(r=.80;p<.001,r=.55;p<.001,r=.32;p<.05,r=.70;p<.001,r=.67;p<.001,r=.44;p<.01,r=.31;p<.05,r=.43;p<.01,r=-.53;p<.01,r=-.37;p<.01)。

プログラム実施前の不安症状は,実施前の孤立感,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の孤立感,低感覚閾との間に正の相関が見られ,実施前の満足感との間に負の相関が見られた(r=.59;p<.001,r=.76;p<.001,r=.80;p<.001,r=.51;p<.001,r=.36;p<.05,r=-.57;p<.001)。

プログラム実施前の孤立感は,実施後の失敗に対する不安,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の孤立感,低感覚閾,易興奮性との間に正の相関が見られた(r=.41;p<.01,r=.55;p<.001,r=.64;p<.001,r=.75;p<.001,r=.39;p<.05,r=.32;p<.05)。

プログラム実施前の満足感は実施後の能力の社会的位置づけとの間に正の相関が見られ,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の満足感との間に負の相関が見られた(r=.39;p<.01,r=-.45;p<.01,r=-.46;p<.01,r=-.62;p<.01)。

プログラム実施後の行動の積極性は,実施後の失敗に対する不安,実施後の満足感,易興奮性との間に正の相関が見られた(r=.88;p<.001,r=.40;p<.01,r=.44;p<.01)。

プログラム実施後の失敗に対する不安は,実施後の抑うつ,実施後の不安症状,実施後の孤立感,実施後の満足感,低感覚閾,易興奮性との間に正の相関が見られた(r=.40;p<.01,r=.34;p<.05,r=.34;p<.05,r=.37;p<.05,r=.39;p<.05,r=.53;p<.001)。

プログラム実施後の能力の社会的位置づけは,美的感受性との間に正の相関が見られ,美的感受性との間に負の相関が見られた(r=.36;p<.05, r=-.45;p<.01)。

プログラム実施後の抑うつは,実施後の不安症状,実施後の孤立感,実施後の満足感,低感覚閾,易興奮性との間に正の相関が見られた(r=.81;p<.001,r=.63;p<.001,r=.34;p<.05,r=.45;p<.01,r=.33;p<.05)。

プログラム実施後の不安症状は,実施後の孤立感,実施後の満足感,低感覚閾との間に正の相関が見られた(r=.76;p<.001,r=.32;p<.05,r=.38;p<.05)。

プログラム実施後の不安症状は,実施後の孤立感,実施後の満足感,低感覚閾との間に正の相関が見られた(r=.76;p<.001,r=.32;p<.05,r=.38;p<.05)。

低感覚閾は,易興奮性との間に正の相関が見られた(r=.79;p<.001)。

3の結果

4.時期・自由記述およびHSP得点の群分けよる自己効力感下位3尺度と抑うつ下位4尺度の得点の検討 4-1.HSP得点による群分け 回答者43名について,Aron(1997)を参考にHSP得点の上位下位20%をそれぞれ高群,低群に群分けを行った。それ以外の回答者をHSP中群とし,3群による群分けを用いて分析を行った。 4-2.HSP傾向および自己効力感と抑うつ HSP得点による群分けを使用した。自己効力感の各3尺度を従属変数とし,3(HSP得点:高群・中群・低群(被験者間))×2(時期:自己効力感実施前・自己効力感実施後(被験者内)),3(HSP得点:高群・中群・低群(被験者間))×2(時期:抑うつ実施前・抑うつ実施後(被験者内))の2要因分散分析を行った。(Table3)。その結果,抑うつ感,不安症状,満足感において時期の主効果 が見られた(F(1.40)=5.76;p<.05, F(1.40)=6.00;p<.05, F(1.40)=17.18;p<.001)。交互作用は見られなかった。

4-2の結果

4-3.自由記述の文字数による群分け 5日間のプログラムによる自由記述において,各参加者の文字数の平均を算出し,上位下位20%の参加者をそれぞれ文字数高群・低群とした。それ以外の参加者を中群とし,3群に群分けを行った。 4-4.自由記述の文字数および自己効力感と抑うつ 自由記述の文字数による群分けを使用した。自己効力感下位3尺度・抑うつ下位4尺度を従属変数とし,3(自由記述の文字数による群(高群・中群・低群) (被験者内))×2(時期:自己効力感実施前・自己効力感実施後(被験者内)),3(自由記述の文字数による群(高群・中群・低群) (被験者内))×2(時期:抑うつ実施前・抑うつ実施後(被験者内)),の2要因分散分析を行った(Table4)。その結果,失敗に対する不安の時期において主効果が見られ,抑うつ感,不安症状,孤立感,満足感においても時期の主効果が見られた(F(1.40)=10.90;p<.05, F(1.40)=4.76;p<.001, F(1.40)=6.79;p<.05, F(1.40)=19.44;p<.001, F(1.40)=0.00;p<.001)。

4-4の結果

5.ブリーフセラピーを用いたプログラムの概要 5-1.抑うつの低減 プログラム実施後,28名の参加者の抑うつが低減していた。抑うつが低減した参加者のなかで,低減率が高かった上位9名の自由記述についてまとめた (Table5)。抑うつが低減した参加者のうち,HSP高群は2名であり,自己効力感が低下したのは3名であった。 5-2.抑うつの増加 プログラム実施後,15名の参加者の抑うつが増加していた。抑うつが増加した参加者のなかで,増加率が高かった8名の自由記述についてまとめた(Table6)。抑うつが増加した参加者のうち,自己効力感が低下したのは2名であり,自己効力感が向上したのは2名であった。

5-3.自己効力感の向上 プログラム実施後,24名の参加者の自己効力感が向上していた。自己効力感が向上した参加者のなかで,上位 9名の自由記述についてまとめた(Table7)。 自己効力感が向上した参加者のなかで抑うつが低減したのは1名であった。 5-4.自己効力感の低下 プログラム実施後,19名の参加者の自己効力感が低下していた。自己効力感が低下した参加者のなかで,上位8名の自由記述についてまとめた(Table8)。 自己効力感が低下した参加者のなかで抑うつが増加したのは2名,低減したのは4名であった。

5-5.HSP得点による自由記述の比較 HSP得点において,高群と低群それぞれ9名の自由記述をまとめた(Table9, Table10)。

5-5の結果 5-5の結果 5-5の結果 5-5の結果 5-5の結果 5-5の結果

5-6.抑うつにおけるプログラムの効果 プログラムの実施前後で大きく抑うつ得点が低減した上位9名の自由記述の特徴を検討した。その結果,抑うつが増加した参加者と比較すると,抑うつが低減した参加者の方が嫌なことや困ったことについての記述における文字数が多いことが挙げられた。また,1日のうちにあった嫌なことや困ったことの具体的な記述として,対人場面や他人からの評価に関連した内容,自分自身の失敗に関する内容に分けられた。自分へのあたたかい言葉の自由記述では,自分をいたわる言葉,認める言葉(「お疲れ様!」「えらい」「がんばろう」「寝よう」)が多数見られた。また,嫌なことや困ったことに対してどのようにすれば自分はうまく乗り切れるのかという自分なりの方法や考え方が理解できているような記述が見られた(「お菓子を食べた」「その分楽しかったと割り切る」「自分は偉い!と思って乗り切った」「まぁいっかって考えた」)。 プログラムの実施前後で抑うつが増加した参加者の特徴を検討した。抑うつが増加した参加者は,嫌なことや困ったことを具体的に述べることが少なく,嫌なことや困ったことに関して,「課題」「卒論の修正」などといった比較的簡素な内容が多く見られた。抑うつが低減した参加者の文字数の平均を比較すると,約10文字の差が見られ,抑うつが低減した参加者の方が文字数が多いことが明らかとなった。

5-7.自己効力感におけるプログラムの効果 プログラムの実施前後で自己効力感が向上した参加者上位9名の自由記述を検討した。自己効力感が向上した参加者の特徴として,嫌なことや困ったことにおいて,自分自身の失敗や間違いを記述する参加者が少なかった。また,自分自身に対するあたたかい声掛けの記述では,楽しみなことや好きなことを思い出している記述が見られた(「木曜になったらサークル行けるね!」「ケーキ食べて元気だして」)。文字数については,自己効力感が向上・低下した参加者に大きなちがいは見られなかった。