本研究の問題と今後の課題


 「ユニークな人でありたい」「あの人はユニークな人物だ」という表現を聞いた時,誰しもが思い浮かべるような人物像があるとは言い難い。つまり,人によりユニークネスとはどういう意味を持っていて,それぞれのイメージも持っていると言えよう。単に周りとは何かが違って,目立つような存在を思い浮かべる者もいれば,周囲に影響されずに自分で考えた信念に基づいて生きている様子が見られたり,強いこだわりを持った趣味が見られたりする人物を思い浮かべる者もいる。そして,中にはこれらのような特徴を併せ持っている人も当然いる。そのため,ユニークネスを追求する者に関する研究を今後進め,そのような者の特徴を検討していく上では違った性質を持った者の違いを考慮することでより詳しいことが明らかにできると考える。

 現代では,以前よりも教育現場や職場,友人同士での場面等でも「個性」を活かすことが重視されてきていると言えよう。また,多様性を尊重する意識も高まってきており,「周りと違う」ということへのマイナスな考えも減ってきているのではないだろうか。本研究ではユニークネスを追求する若者が以前と比べて多くなったか,また具体的な特徴の違い等の比較はしていないが,上記のことからユニークネスを求める者も増加する可能性もある。

 一方で,ユニークネスを求めることは,時には周囲とはあえて同調をしないことや周囲・他者よりも自分を優先するような場面も出てくるかもしれない。他にも,「周りとのポジティブな差異を追求する」ということは,そのような考えが強すぎれば自分は周囲と比べて優れていなければならないという考えにも繋がる可能性もある。このように,ユニークネスを追求するということは単に個性を活かすこと以外にもあまり適応的とは言えない特徴を生み出す,もしくはそのような特徴から来るユニークネスもあると考えられる。本研究でユニークネスの類型化を行い,自己・他者受容や個人志向性・社会志向性に差異が無いかを検討することにより,実際により適応的で成熟したユニークネス欲求とそうでないものが存在するのかを明らかにすることが意義の1つであった。

 そこで,本研究では山岡(1993)によるユニークネス尺度を類型化と時代による変化という主に2つの視点から再検討することがまず目的であった。そして,類型の間ではどのような傾向の違いが見られるかを明らかにするため,他者との関わり方や自己の好ましくない部分への反応について考え,自己・他者受容及び個人志向性・社会志向性PN得点の差を検討した。

 大学生を対象に,調査協力者それぞれのユニークネス欲求得点,自己・他者受容得点,個人志向性・社会志向性PN得点を図る尺度を質問紙に利用した。さらに,特定の「こだわり」がないかを記述式の質問項目という形で回答を求めた。得られた有効回答数は101名分であった。

 4群に指定したクラスター分析を行うと,大方仮説で考えた類型化と一致している結果となった。周りと同じであることを避けて「普通」と思われたくないよう側面と,ユニークネスをどれだけ主張する傾向があるかの2指標で見て,それぞれの特徴を持つ4類型として見ることができた。以上より,ユニークネス欲求が高い者であっても性質によって群分けをし,より細かく考えることができると明らかになった。

ただし,いずれの類型間でも今回差を検討した自己・他者受容及び個人志向性・社会志向性PNの得点に関して有意差が見られなかった。山岡(1993)の研究では,回答者を得点に基づいた「高群」と「低群」に分ける方法としてそれぞれ上位25.6%と下位26.9%に限っていた。一方で,本研究では回答数の問題により平均値よりも高い点数を全て高群にしていたため,同じ類型となった者でも特徴の差が現れやすく,結果として類型間では差が見られにくくなった可能性がある。より規模の大きいサンプルに基づいて山岡(1993)と同様な方法で分析対象を絞ることが課題の一つと言えよう。

一方で,実際にユニークネスを主張しがちでかつ類似性を回避する傾向がある「個別性主張型」と,あまりそういった傾向はなく,自分のみや同じこだわりを共有する者同士でユニークネスを重視するが積極的に表出し周囲との類似性は気にしない「こだわり型」の間では,実際に他者受容や個人志向性の違いは見られない可能性も考えられる。電通マクロミルインサイトが実施した調査によると,現代の若者は周りへの自己主張よりも同調性や周りとの調和を重視する傾向にある可能性が示唆された。本研究で扱った「ユニークネスの主張」や「類似性回避」は,周囲よりも自己を優先する場面も想定していたが,上記のようなことが若者の特徴として言えるのならば,他者も受けいれ,自分を全面に出さない場面や手段を選んでいるとも考えられる。今後は,特定の回答者の具体的なユニークネス主張の場面や,他者との関わり方に関する理解を深めるため,インタビュー調査やユニークネスの種類(信念・価値観,趣味,属性等)に関してより詳しく検討していくことが課題であろう。

結果的に,本研究ではユニークネス欲求に違った特徴の者がいることは明らかになったものの,使用した尺度得点では自己受容・他者受容,個人志向性・社会志向PNにおいて有意差は見られなかったことが主な課題点である。前述のように,ユニークネスの主張や類似性の回避は他者と介入しすぎない手段を選んでいるものが多い可能性が示唆されたとも言える。しかし,使用する尺度等手続の問題により結果が変わったことも考えられる。本研究では先行研究に基づいて使用尺度を決定したが,今後は類型化からも改めて明らかになった各群の特徴も踏まえながら使用する尺度を検討し直すことも課題であろう。

前述のように, 社会として「周りと違うこと」を良いことと捉え,人々の個性や「ユニークネス」を尊重する意識は高まってきていると言える。しかし,個人が自身のユニークネスとしたい部分と同時に,やはり自尊心を上げるようなものではなく「悪い意味」で周りと違うと感じる部分等とどう向き合うかも問題となってくる。また,それぞれのユニークネスを主張するにあたっては周囲との違いや他者のユニークネスとの関わり方も個人により異なるだろう。以上2つの視点は,多様性社会において個人が自尊心を高めるような周囲との差異も,必ずしもそうでない差異も受けいれた上で自己をユニークな個人と考え,かつ周囲のユニークネスや自己と違う部分を受けいれることで他者も尊重できるユニークネス主張を考える上で重要であると考える。

今後の多様性社会を考えるにあたっては,ただ「周りと同じではない」ことを目指したり,逆に周囲からの評価には無関心になったり周囲の主張も押し切ってユニークネスを主張するよう促すことには問題があるように考える。本研究では具体的に適応的であったり成熟していたりすると言えるユニークネスの姿を明らかにすることはできなかったが,ユニークネスにも複数の種類があることが分かった。今後はさらに,個性が重視されている時代であるからこそ教育分野等において好ましいユニークネスのあり方を徐々に明らかにされていくことが期待できる。