1.尺度の因子分析
学習動機づけ尺度(Table1)の因子構造を確認するために、確認的因子分析を行った。学習動機づけ尺度においては、「青春」4項目、「無気力」3項目、「外的報酬」2項目、「自己証明」4項目、「知的向上心」3項目、「追従」3項目、「実社会への準備」3項目の因子構造を想定して確認的因子分析を行った。その結果、適合度指標はCFI.=907、RMSEA=.063、SRMR=.072となり、適合度が得られたため、このモデルで研究を進めることとした。人生満足度尺度(Table2)に関しては、先行研究において因子分析がされていなかったため、本研究についても行わなかった。
2.各尺度の下位尺度ごとの記述統計量と信頼性
各尺度の下位尺度ごとの平均値と標準偏差、Cronbachのα係数を求めた(Table3,4)。 学習動機づけ尺度に関しては、第1因子「青春」でα=.779、第2因子「無気力」でα=.629、第3因子「外的報酬」でα=.566、第4因子「自己証明」でα=.773、第5因子「知的向上心」でα=.828、第6因子「追従」でα=.837、第7因子「実社会への準備」でα=.704となった。「外的報酬」のみα=.566と十分でない値となったが、本研究において重要な要素であるため、このまま研究を進める。その他のα係数はおおむね十分な値を示した。 人生満足度尺度に関しては、α=.872と十分な値が見られた。
3.各下位尺度間の相関関係の算出
学習動機づけ尺度の各下位尺度、人生満足度尺度の相関係数を算出した(Table5)。 学習動機づけ尺度について、「外的報酬」と「無気力」の間に有意な正の関連が見られた(r=.260;p<.01)。「自己証明」と「青春」、「外的報酬」の間に有意な正の関連が見られた(順にr=.379;p<.001、r=.381;p<.001)。「知的向上心」と「無気力」の間に負の関連が(r=-.250;p<.01)、「自己証明」との間に正の関連が見られた(r=.324;p<.001)。「追従」と「無気力」、「外的報酬」、「自己証明」の間に有意な正の関連が見られた(順にr=.280;p<.01、r=397;p<.001、r=.186;p<.05)。「実社会への準備」と「青春」、「外的報酬」、「自己証明」、「知的向上心」の間に有意な正の関連が見られた(順にr=.264;p<.01、r=.297;p<.01、r=.303;p<.001、r=.228;p<.05)。 人生満足度尺度について、「満足」と「青春」、「自己証明」、「実社会への準備」の間に有意の正の関連が(順にr=.398;p<.001、r=.224;p<.05、r=.252;p<.01)、「無気力」との間に有意な負の関連が見られた(r=-.195;p<.05)。
4.学習動機づけ尺度を独立変数とした重回帰分析結果
各動機づけと大学での生活・満足度との関連を見るために、学習動機づけ尺度の各下位尺度「青春」「無気力」「外的報酬」「自己証明」「知的向上心」「追従」「実社会への準備」をそれぞれ独立変数に、「大学での成績」「授業外での勉強時間」「アルバイト時間」「部活動・サークル時間」をそれぞれ従属変数にして重回帰分析を行った(Table6~9)。その結果、「追従」と「大学での成績」の間に有意な負の関連が見られた(β=-.272;p<.01)。また、「知的向上心」と「勉強時間」の間に有意な正の関連が(β=.225;p<.05)、「追従」と「勉強時間」の間に有意な負の関連が見られた(β=-.275;p<.01)。また、「外的報酬」と「アルバイト時間」の間に有意な正の関連が(β=.356;p<.01)、「自己証明」と「アルバイト時間」の間に有意な負の関連が見られた(β=-.331;p<.01)。また、「青春」と「部活動・サークル時間」の間に有意な正の関連が見られた(β=.190;p<.05)。また、「青春」と「満足度」の間に有意な正の関連が(β=.324;p<.001)、「無気力」と「満足度」の間に有意な負の関連が見られた(β=-.226;p<.05)。
5.やりがいを持って取り組んでいることの有無による動機づけ・満足度の平均値の差の検討
やりがいを持って取り組んでいることの有無により下位尺度得点に有意な差が認められるかどうか検討するため、Welchのt検定を行った(Table10)。その結果、「無気力」と「知的好奇心」に有意差が見られた。「無気力」においては、やりがいを持って取り組んでいることがない群の平均値(M=1.918、SD=0.682)がやりがいを持って取り組んでいることがある群の平均値(M=1.544、SD=0.749)よりも有意に高いことが示された(t(114.801)=2.823、p<.01)。「知的好奇心」においては、やりがいを持って取り組んでいることがない群の平均値(M=3.480、SD=1.039)がやりがいを持って取り組んでいることがある群の平均値(M=4.217、SD=0.697)よりも有意に低いことが示された(t(97.214)=-4.484、p<.001)。
6.やりがいを持って取り組んでいる内容と始めたきっかけについての自由記述
6-1.やりがいを持って取り組んでいる出来事の内容と始めたきっかけの分類分け
「やりがいを持って取り組んでいることはありますか」に対し「ある」と回答したのは、調査対象のうち60名であった。60名の回答を内容別に分類分けした結果、大きく7つのグループにまとめられた(Table11)。また、やりがいを持って取り組んでいることを始めたきっかけについては大きく10個のグループにまとめられた(Table12)。
6-2.やりがいをもって取り組んでいることの内容・きっかけと各下位尺度間の関連
学習動機づけ尺度と人生満足度尺度の各下位尺度を従属変数、やりがいを持って取り組んでいる内容と、始めたきっかけを独立変数とする1要因分散分析を行った(Table13~16)。内容を独立変数とした結果、「青春」(F(5,52)=5.227;p<.001)と「追従」(F(5,52)=3.340;p<.05)において有意な差が見られた。多重比較を行った結果、「青春」では、「趣味」が「学業」と比べ有意に得点が高く、「勉強」が「学業」と比べ有意に得点が高かった。「追従」では、「趣味」が「学業」に比べ有意に得点が高かった。始めたきっかけを独立変数とした結果、「追従」(F(6,49)=2.431;p<.05)と「実社会への準備」(F(6,49)=3.630;p<.01)において有意な差が見られた。多重比較を行った結果、「追従」では、「将来」が「好き」と比べて有意に得点が高かった。「実社会への準備」では、「興味」が「好き」と比べて有意に得点が高く、「将来」が「好き」と比べて有意に得点が高く、「義務」が「好き」と比べて有意に得点が高く、「好き」が「継続」と比べて有意に得点が低かった。