結果と考察

1,「職業継続意志」について
 職業継続意志に関する項目について、各項目間の相関とその内的整合性を検討し、「職業継続意志」を再定義した。ここでは、性別によって回答する項目が異なる部分があるため、分析は男女別に行った。

 結果、男子の場合、「結婚後」「妻の妊娠期間中」「子どもの養育期間中」を通して、ずっと仕事を続けていく意志があること(r=.373,r=.371,r=.992,いずれもp<.001)が示された。このことから、男子においては、結婚や妻の妊娠といった環境の変化は、仕事を辞める要因にはなりにくく、むしろ、継続を促進するのではないかと考えられる。

 一方、女子の場合、「妊娠期間中」も仕事を続ける意志のある者は、「子どもの養育期間中」も仕事を続ける意志が強いこと(r=.900,p<.001)が示された。本調査では、産前・産後休暇(いわゆる産休)や育児休暇は、仕事の中断に含めないことにしている。そこには、産休・育休を利用することによって、その後も元の職場に復帰し、仕事を続けていきたいという意志が込められていると考えるからである。よって、妊娠期間中も働くつもりがあるという女性は、産休・育休をうまく利用しながら、仕事を続けていこうとする女性であるといえるのではなかろうか。


2,「職業継続意志」における男女差について
 「職業継続意志」における男女差を検討するため、t検定を行った。その結果、男女間に有意な差がみられた(t=7.26,df=109.98,p<.001)。このことから、女子に比べて、男子の方が「職業継続意志」が強いことが伺える。


3,「仕事に対する価値観」における男女の違いについて
 その因子構造の違いから、男女の「仕事に対する価値観」の違いを探ることを試みた。そのため、「仕事に対する価値観」について、男女別に因子分析を行った。それぞれの抽出因子の数については、先行研究(森永,1993)の結果にならい、男子においては5因子、女子においては4因子を抽出した。

 結果、目立った違いとしては、男子では「主体性」因子となっていた「仕事で認められるようになること。」の項目が、女子においては「キャリア志向」因子と強く関連していること、また、女子において「社会貢献」因子として高い負荷のみられた「他人から尊敬される仕事であること。」「他人の役に立つこと。」の項目が、男子では「知的刺激」因子となっていたことが挙げられた。ただし、男子における「労働条件」因子と女子における「労働条件」因子は、ほぼ同じ項目から成っているといえた。また、男女ともに、「労働条件」に高い価値をおいてみていることに違いはないが、男子においては「知的刺激」がこれを上回り、女子においては「キャリア志向」がこれに次ぐ価値の高さを示していた。


4,「仕事に対する価値観」と「職業継続意志」の関連について
 「仕事に対する価値観」と「職業継続意志」の関連をみるため、「仕事に対する価値観」の各因子と「職業継続意志」との相関を求めた。また、「仕事に対する価値観」の各因子を独立変数、「職業継続意志」を従属変数として、重回帰分析を行った。なお、「職業継続意志」や「仕事に対する価値観」の各因子構造が男女によって異なるため、分析は男女別に行った。

 結果、男子における「仕事に対する価値観」については、「知的刺激」が「職業継続意志」に対して最も影響を及ぼしていること(β=.831,p<.01)がわかった。男子の場合、仕事に何が求められるのか、仕事を通して自分に何が与えられるのか、という視点、つまりは、変化に富んだ仕事内容と知的側面、他者からの尊敬、と同時に、昇進が可能であることが重視されるようである。

 一方、女子における「仕事に対する価値観」として、「キャリア志向」「主体性」に高い価値を見出している者は、「職業継続意志」が強いこと(r=.397,r=.421,いずれもp<.001)が示された。また、「主体性」が「職業継続意志」に対して最も影響を及ぼしている(β=.315,p<.10)と思われた。このことから、「主体性」を強く持った女子というのが、いわゆるキャリア・ウーマンになる可能性を秘めているということが考えられる。


5,「社会的欲求」と「職業継続意志」の関連について
 「社会的欲求」の各因子と「職業継続意志」との関連をみるため、「社会的欲求」の各尺度と「職業継続意志」との相関を求めた。また、「社会的欲求」の各尺度を独立変数、「職業継続意志」を従属変数として、重回帰分析を行った。なお、分析は男女別に行った。

 結果、男子において「賞賛獲得欲求」の強い者は「職業継続意志」が弱いこと(r=−.352,p<.05)が示された。また、「賞賛獲得欲求」と「拒否回避欲求」が、「職業継続意志」に対して最も影響を及ぼしていること(β=−.441,β=.369,いずれもp<.05)がわかった。

 一方、女子において「競争的達成動機」の強い物は「職業継続意志」も強いこと(r=.268,p<.05)が示された。また、「競争的達成動機」が、「職業継続意志」に対して最も影響を及ぼしていること(β=.302,p<.05)もわかった。


6,全体的考察
 一体何が「職業継続意志」に影響を及ぼすのか。この問いに対する答えとして、特に、女子においては、「キャリア・ウーマン」か「専業主婦」かの選択をする際に、各人の持つ「競争的達成動機」の高さが影響するのではないかということが考えられる。つまり、他者問いの競争の中で優れた結果を出していきたいという欲求の強い者が、キャリア・ウーマンになるのであり、それ故に、職業継続意志も強くなると考えられるのである。

方法

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