V.結果と考察





それぞれの尺度に対して因子分析(主因子法、varimax回転)を行ったところ、女性の質問紙内の尺度に対しては、以下のような因子が抽出された。その因子に高い負荷を示した項目得点の合計を尺度得点とし、内的整合性を確認するために信頼性係数を求めたものが、α係数である。
・化粧態度:
「化粧無関心」因子(α=.87)
「対人的効用」因子(α=.82)
「自己満足感」因子(α=.76)
・非言語的スキル:
「ノンバーバル非表出と統制」因子(α=.79)
「ノンバーバル感受性」因子(α=.73)
・社会的スキル:
「親密関係維持」因子(α=.84)
「関係開始」因子(α=.73)
また男性においては、
・ファッション態度:
「ファッション無関心」因子(α=.92)
「対人的効用」因子(α=.87)
「自己満足感」因子(α=.73)
・非言語的スキル:
「ノンバーバル非表出」因子(α=.75)
「ノンバーバル感受性」因子(α=.70)
・社会的スキル:
「親密関係維持」因子(α=.82)
「関係開始」因子(α=.77)
「自己開示」因子(α=.74)


化粧無関心について(女性)
「化粧無関心」と非言語的スキルの「nv(ノンバーバル、非言語的)非表出と統制」「nv感受性」、社会的スキルの「親密関係維持」「関係開始」との間に一定方向の関係性があるかどうかを調べるために相関係数を求めたところ、化粧に無関心なものは他者の非言語的な表出行動に敏感であり、親密関係の維持、関係の開始において優れているとはいえなかった。つまり、仮説@は支持されなかった。
ファッション無関心について(男性)
「ファッション無関心」と非言語的スキルの「nv非表出と統制」「nv感受性」、社会的スキルの「親密関係維持」「関係開始」との間に一定方向の関係性があるかどうかを調べるために相関係数を求めた。 他者の非言語的表出行動に敏感なものは、親密関係を維持することや、新しい関係を開始することにおいて優れているという結果は見られたのだが、ファッション無関心なものは、非言語的表出行動は少なかった。しかし、だからといって他者の非言語的表出行動に敏感なのではなく、親密関係の維持、関係を開始することにおいて優れているとはいえなかった。つまり仮説@は部分的に支持された。

他者を意識した化粧について(女性)
「対人的効用」を動機に持った化粧と非言語的スキル、社会的スキルとの関係性を調べるために相関係数を求めた。その結果、対人的効用を動機に持った化粧は、他者の非言語的表出に敏感であり、親密関係の維持や関係の開始に優れているとはいえなかった。仮説Aは支持されなかった。
他者を意識したファッションについて(男性)
「対人的効用」を動機に持ったファッションと非言語的スキル、社会的スキルとの関係性を調べるために相関係数を求めた。対人的効用を動機に持ったファッションは他者の非言語的表出行動に対して敏感であり、親密関係の維持、関係の開始に優れていた。つまり仮説Aは支持された。そこで、非言語的スキルが対人的効用にどのように影響しているのかを調べるために重回帰分析を行った。その結果ノンバーバル感受性が対人的効用に影響していた。また、社会的スキルが対人的効用にどのように影響しているかを調べるために社会的スキルを説明変数とした重回帰分析を行った。その結果、対人的効用を動機に持ったファッションには親密関係の維持と関係の開始ともに影響しており、特に関係開始が影響していた。
 これらのことから、他者の非言語的表行動に敏感であることや、親密な関係を維持すること、新しい関係を始める能力は、他者を意識したファッションにつながっているといえる。

自己満足感を得るための化粧について(女性)
 社会的スキルの尺度から、「自己主張」関する因子が抽出されなかった。つまり、仮説Bは検討できなかった。そこで、自己満足感と社会的スキル、非言語的スキルとの関係性について調べるために相関係数を求めた。このことから、自己満足感を動機に持った化粧は、関係を開始することにおいて優れているといえた。このことは、質問紙の項目内用から考えると,自己満足感を得るためには自分に自信がなければならず、また、関係を開始する能力に優れていることにおいても自分自身に自信を持っていなければならないことから、このような相関関係が見られたといえる。そこで社会的スキルが自己満足感を得るための化粧態度にどのように影響しているのかを調べるために、重回帰分析を行った。 その結果、関係開始が自己満足感に影響していた。このことは、見知らぬ人に話しかけられる、親しくなりたいと思った人に良い印象を与えられる、という自己に対する自信は化粧をすることで自己に対する自信を持ち、またそれに対する満足感にもつながっていることを示唆していると考えられる。
自己満足感を得るためのファッションについて(男性) 社会的スキルの尺度から「自己主張」関する因子が抽出されなかったため、仮説Bは検討できなかった。しかし、男性の社会的スキルからは真の自己を相手に伝える「自己開示」を表す因子が抽出された。そこで、自己満足感と社会的スキルとの関係性を調べるために相関係数を求めた。その結果、自己満足感を得るためのファッションは、親密関係の維持、関係開始に優れており、自己開示をすることにおいても優れていた。このことは、他者との関係を開始するためには自分に自信を持っていること、親密関係にあるものからの評価が満足感につながっていること、自己の思い描くイメージをそのまま他者に表出し伝えることが自己満足感につながることと関係しているからであるといえる。また、社会的スキルが自己満足感を得るためのファッションにどのように影響しているのかを調べるために、重回帰分析を行った。その結果、関係開始が自己満足感に影響していた。これは、女性同様に見知らぬ人や親しくなりたいと思った他者との関係を持つことは、自己に対して自信を持っていなければならず、このような自信が外見を飾るファッションに対して得られる満足感につながっていることが示唆されたと考える。
 以上の結果より、本研究ではたとえ自己満足感を得るための顔や外見に手を施す行為であっても、その背景にあるものは、常に他者との関わり合いの中で生活している我々には無意識のうちに他者からの影響を受けているということがわかった。



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