問 題 と 目 的


 近年、児童虐待及び不適切な養育態度の増加が問題になっている。虐待相談件数は10年で約20倍に増え、さらに増加の傾向にあると言われている。虐待や不適切な養育態度は早期発見や対応が難しく、現在法的な効力を背景に持つ援助が検討されている。このような社会状況の中、虐待の予防や不適切な養育態度への対応を検討することが急務となっており、虐待や不適切な養育態度の実態把握、虐待や不適切な養育態度が子どもたちにどのような影響を与えているのか、また、子どもたちにはどのようなサポートが必要なのか、親にはどのようなサポートが必要であるのかといった研究の必要性が急激に高まっている。

 そこで、本研究では虐待や不適切な養育態度を示す親の特徴を明らかにし、子育てを行う親に対してどのようなサポートを行えばよいのかを検討することを目的とする。

 その判断基準によって虐待や不適切な養育態度を示すと判断された親の特徴は海外で様々な研究がなされており、コミュニケーションスキルの欠如などの人間関係の問題、感情のコントロールができないなどの情緒の問題、認知的問題、行動上の問題、自尊心の低さ、共感能力のなさ、自己受容の困難さ、子どもの行動に対して指図・批判・規制を行うなどの共通した特徴が報告されている。また、怒りや憎悪、ストレスなどの否定的感情は親の養育能力を低下させ、子どもの行動に対する寛容度を下げることになり、虐待に至るとされている(Christensen et al, 1994 ; Dore, Doris,& Wright, 1995 ; Milner et al, 1995 ; Hillson & Kupier,1994; Milner,1998)。その他、虐待や不適切な養育態度を受けた子どもは認知障害・行動上の障害・社会情緒的問題など様々な問題を引き起こす可能性が高いことが示されている(Fantuzzo,1990 ;Haskett,1990; Hoffman-Poltkin & Twentyman,1984)。

 このような虐待や不適切な養育態度の研究を通して、不適切な養育態度や虐待を起こさないためには、2つの要因が重要であると考えられる。一つは「親が子どもに肯定的かつ積極的に働きかけ、愛着を形成することである、」であり、もう一つは「親自身が自分の欲求などをコントロールできるようになり、子どもの欲求に対しても指示的にならず、寛容的な態度をとるという親自身の情緒的安定や対人的スキルの発達、自己受容など」である。

 このような子育てに関する肯定的な感情や技能について、小嶋(1988)は「養護性(nuturance)」という用語を用いて親として子どもに肯定的活積極的に働きかける姿勢を考察しており、小嶋(1988)が作成した尺度をもとに中西・粟津(1996)が作成した養護性尺度は親が子どもに対して持つ肯定的活積極的に働きかける姿勢を測定している。柏木・若松(1994)は「親となること」による人格発達の視点から、「親の発達尺度」を作成し、感情のコントロールや、寛容的な態度が取れるなどの柔軟な思考、自己の強さなどを測定し、考察している。このことから、「養護性」と「親の発達」という2つの概念を用いて虐待や不適切な養育態度を示す親の特徴を説明することができると考えられる。

 虐待や不適切な養育態度を示す親と示さない親との比較研究から、示す親は示す親と比べて不満や悩み、ストレスなどの状態にいることを自分で理解し、改善しようとする傾向にあることが報告されている。このことから、不満や悩み、ストレスなどの状態に陥ったとしても、自分の今の状態を理解し、改善しようとすることが重要であると考えられる。

 このような概念は心理療法の概念であり、Combs,A.W. & Snygg, D. (1949) 、国分(1979)、梶田(1981)、板津(1986・1989)の研究から自己受容性として報告されている。

 そこで、虐待や不適切な養育態度の特徴を参考に、虐待や不適切な養育行動を起こさない子育てを行うために必要であると考えられる「親としての資質」や「養育意識・態度」と自己受容性に焦点を当てた研究を行う。また、子育てに取り組む親にどのようなサポートを行えばよいのかを検討することを目的とする。先行研究から、不適切な養育態度を示さない親は自己受容性が高いと考えられることから、自己受容性が高い人ほど養護性が高いであろうという仮説を立て、検証を行う。また、自己受容性と養護性の関係性を明らかにし、自己受容性は養護性にどのような影響を与えているのかを検討する。そして、その結果から、子育てに取り組む親に、どのようなサポートを行うことが有用なのかを検討する。







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