W 方法
1)被験者
2003年度後期に三重大学教育学部で行われていた6つの講義それぞれに出席していた三重大学教育学部生及びその他の三重大学生。このうち、6つの講義に重複して出席していた被験者の2回目以降のデータを分析から除外した。また、質問紙に記入もれがあったものや笑顔の表出を的確にとらえていないもの、VTRに出演していた人物と面識のあった被験者のデータについても除外した。年齢については実験者と同年代の18〜25才を対象とし、それ以外のデータは除外した。最終的に分析対象となった被験者数は232名(男性103名、女性129名)となった。
2)刺激材料
ある女性が自己紹介をしている場面を8mmビデオカメラでそれぞれ次の笑顔表出3条件で2人分(人物A、人物B)撮影した。刺激人物を2人にしたのは、個人差の有無の検討を行うためであった。
@
始終無表情
A
最初の数秒間は笑顔を表出し、その後は最後まで無表情
B
最初は無表情で、最後の数秒間のみ笑顔を表出
表情の違いによる印象の差を調べることが目的であるため、VTRはカラーで肩から上が明確に映っており、表情が鮮明に分かるものを作成した。VTRに出演する2人の女性は、両者とも被験者と同年代の大学4年生(22才)である。笑顔と無表情の差がはっきりわかるように少しオーバーに演じてもらったが、あまり不自然にならないように笑顔から無表情に変わる箇所、またその逆の箇所は徐々に変化していくように心がけた。なお、自己紹介全体を通してVTRが不自然なものかどうかを確かめるために、印象評定尺度中に<自然な−不自然な>という項目を付け加えた。視線や姿勢、声の調子等笑顔の表出時期以外の要因は、3つの笑顔表出条件の間で可能な限り同じように演じてもらった。
自己紹介のセリフは人物Aと人物Bでは異なるものであるが、その内容は自分の名前、所属する学部、出身地、趣味、好きな食べ物と嫌いな食べ物、飼っている動物といったもので、刺激人物の主観的な意見や考えの入らないものであった。これは、セリフ内容の効果によって人物の印象に差が出ることを避けるためである。また、自己紹介全体の時間は3パターン×2人分=6つのVTRすべて30秒程度とし、笑顔を表出する条件の場合、笑顔表出の時間はすべて5秒強程度であった。
3)条件
被験者は、刺激人物と笑顔表出条件によって、人物Aの統制群{人物Aの@と@}または人物Aの初期笑顔表出群{人物Aの@とA}または人物Aの終期笑顔表出群{人物Aの@とB}または人物Bの統制群{人物Bの@と@}または人物Bの初期笑顔表出群{人物Bの@とA}または人物Bの終期笑顔表出群{人物Bの@とB}の6群に分けられた。各群の被験者はカッコ内のVTRを同順で見た。最終的に分析の対象となった被験者数は、人物Aの統制群26名(男13名、女13名)、人物Aの初期笑顔表出群20名(男7名、女13名)、人物Aの終期笑顔表出群48名(男21名、女27名)、人物Bの統制群46名(男20名、女26名)、人物Bの初期笑顔表出群47名(男22名、女25名)、人物Bの終期笑顔表出群45名(男20名、女25名)であった。
4)測定
質問紙を用いた。質問紙の構成は以下のとおりである。
(a) 『特性形容詞尺度』
林(1978)によって作成されたもので、20項目の対極形容詞対を7段階で評定させるものである。刺激人物の印象を測定するものとして用いた。
(b) 『対人魅力尺度』
藤森(1980)によって作成されたもので、「〜さんと一緒に遊びたい」「〜さんと一緒に仕事をしたい」などの全26項目からなる。このうち、本実験の目的に適した20項目を抜き出して7段階で評定させ、刺激人物に対する好意やその後の接近を測定するものとして用いた。
(c) 『認知的熟慮性―衝動性尺度』
滝聞・坂元(1991)によって作成されたもので、認知的熟慮性、衝動性の高さを測定するものである。「何でもよく考えてみないと気がすまないほうだ。」などの10項目からなり、「あてはまらない」〜「あてはまる」の4段階で評定させる。被験者自身の認知的熟慮性、衝動性の高さを測定するために用いた。
1つ目のVTRについては(a)の尺度のみ、2つ目のVTRについては(a)の尺度に<自然な―不自然な>を付け加えた21項目および(b)の尺度に回答させた。
この他に学部、学年、年齢、性別、VTR出演者との面識の有無、2つ目のVTRについての笑顔表出の有無とその時期、また、被験者が重複していないかどうかを確かめるために、以前にもこの調査に協力したことがあるかどうか、及び電話番号の下4桁を尋ねる項目を加えた。
5)実験手続き
T 講義時間中における実験
@被験者の割り当て
6つの講義の受講生を講義ごとに上の6群の条件に割り当てた。
A実験の流れ
上記の各講義のはじめに、教官から受講生(被験者)に実験者について紹介していただき、卒業論文についての調査に協力することについての受講生(被験者)の承認を得た。その後質問紙を配布し、フェイスシートに記入する(学部、学年、年齢、性別、携帯電話番号の下4桁)よう伝えた。大体全ての学生がフェイスシートの記入を終えたことを確認し、調査の内容と質問紙の答え方について次のように説明した。
「私は卒業論文で他者についての印象に関する研究を行っており、皆さんに調査の協力をお願いしました。これから、ある人物が友人をつくる目的で自己紹介をした場面を撮影した2つのVTRを見ていただきます。その際、あたかも実際に自分が話しかけられているような気持ちになってVTRを見てください。その後、私の指示に従って、見ていただいた人物についての簡単な質問にお答えください。尚、質問は1つのVTRを見るごとに行います。」
説明後、被験者に1つ目のVTRを見せ、VTRについて質問尺度(a)に答えさせた。全員が質問紙への記入を終えたことを確認し、2つ目のVTRを見せた。VTR終了後、2つ目のVTRのみについて質問尺度(a)に<自然な―不自然な>を加えたものと質問尺度(b)に答えるように指示し、最後に被験者自身に関する質問尺度(c)にも答えるように伝えた。記入が終わったら記入漏れがないかどうか確認をさせ、全員が終えるのを待って質問紙を集め、調査結果はインターネットで公開することを伝えて調査を終えた。
U 講義時間以外における実験
@
被験者の割り当て
被験者は三重大学生であり、実験者の知人や、その紹介者から集められた。被験者は、刺激人物Bの3群にランダムに割り当てられた。これは、講義時間中における実験中の様子として刺激人物Aの終期笑顔表出条件のVTRを見た被験者群のみから笑い声が出され、刺激人物AのVTR条件の要因の統制という点で問題があり、分析データとして用いることに疑問があったことと、講義時間中に刺激人物Bの各笑顔表出条件に協力された被験者の中で、最終的に分析対象となったものが比較的少数であったことが理由である。
A 実験の流れ
被験者を数名ずつ三重大学教育学部附属実践総合センター内視聴覚教室に招き、モニターを見やすい座席に着席させた。その後は、教官からの実験者の紹介を除き、講義時間中における実験と同様であった。