6) 被験者の性について
印象評定、好意度評定のそれぞれの因子について笑顔表出(3)×被験者の性(2)×認知的熟慮性−衝動性(2)の3要因分散分析を行なった。
@印象評定(特性形容詞対尺度)
@)活動性
被験者の性の主効果が有意であり(F(1,126)=8.00, p<0.05)、同性<異性で有意な差が見られた。さらに笑顔表出条件ごとに被験者の性の単純効果の検定を行ったところ、初期笑顔表出条件と終期笑顔表出条件において両条件ともに同性<異性の有意差(初期笑顔表出条件:F(1,45)=6.74, p<0.05、終期笑顔表出条件:F(1,43)=5.07, p<0.05)が見られた。被験者の性ごとに笑顔表出の単純効果の検定を行ったところ、同性、異性ともに有意差が認められた(それぞれF(2,73)=17.93, p<0.05、F(2,59)=23.99, p<0.05)。その後それぞれについてTukey HSDの多重比較を行ったところ、両条件ともに統制群<初期笑顔表出群、統制群<終期笑顔表出群の間に有意な効果(それぞれp<0.05)が見られた。(Fig.2参照)これらのことから、全体的に刺激人物と同性の被験者よりも異性の被験者の方が刺激人物に対してよりポジティブな印象を抱いていたが、特に初期笑顔表出条件と終期笑顔表出条件においてその差が有意であることが示された。また、両性ともに笑顔表出のない場合よりもある場合の方が刺激人物に対してポジティブな印象を抱くことも示された。
A)個人的好ましさ
被験者の性に関しては、分散分析では有意な効果は得られなかったが、同性条件についてTamhaneの多重比較を行ったところ、統制群<終期笑顔表出群の有意な効果(p<0.05)が見られた。異性条件についてTukey HSDの多重比較を行ったところ、統制群≦終期笑顔表出群の有意傾向(p<0.10)が見られた(Fig.5参照)。
A好意度評定(対人魅力尺度)
@)協同・交遊
笑顔表出×被験者の性の交互作用が有意(統制群と初期笑顔表出群において)であった(F(2,126)=3.80, p<0.05)。そこで、笑顔表出条件ごとに被験者の性の単純効果の検定を行ったところ、初期笑顔表出条件で同性<異性間に有意差が見られた(F(1,45)=8.22, p<0.05)。また、被験者の性ごとに笑顔表出の単純効果の検定を行ったところ、異性条件で有意な効果が認められた(F(2,59)=6.84, p<0.05)。異性条件においてTukey HSDの多重比較を行った結果、統制群<初期笑顔表出群、統制群<終期笑顔表出群の間に有意な効果(p<0.05)が見られた(Fig.8参照)。これらのことから、刺激人物に対して異性の被験者の場合は笑顔表出のない場合よりもある場合の方が好意度はより高くなることが示されたが、同性の被験者の場合は笑顔表出による有意な効果が全く見られなかった。また、初期笑顔表出条件においては同性よりも異性の被験者の方が好意度はより高くなることがわかった。
A)親密・承認
被験者の性ごとに笑顔表出の単純効果の検定を行ったところ、両条件ともに有意差が見られた(同性:F(2,73)=8.00, p<0.05、異性:F(2,59)=5.54, p<0.05)。等分散性の検定の結果から、同性条件についてはTukey HSDの多重比較を、異性条件についてはTamhaneの多重比較を行った結果、両条件ともに統制群<終期笑顔表出群の間に有意な効果(p<0.05)が見られた。さらに、笑顔表出条件ごとに被験者の性の単純効果の検定を行ったところ、有意な差は認められなかった。(Fig.11参照)これらのことから、刺激人物に対して同性、異性の被験者ともに笑顔表出のない場合よりも終期に笑顔を表出した場合の方が好意度が高くなることが示された。
結論A
対人認知次元により笑顔の表出時期が限定されるが、女性が友人をつくることを目的として初対面の他者に自己紹介をするとき、相手の性にかかわらず笑顔を表出しない場合よりも笑顔を表出した場合の方がポジティブな印象をもたれた。
一方、好意については、親密・承認次元での好意度の評定においては相手の性にかかわらず終期に笑顔を表出した場合のみ笑顔を表出しない場合よりも好意度が高くなった。協同・交遊次元での好意度の評定においては、刺激人物と異性である場合には笑顔を表出しない場合よりも笑顔を表出した場合の方が好意度が高くなったが、同性である場合には笑顔表出の有無によって好意度に有意な差は見られなかった。
また、活動性、個人的好ましさの両次元とも、相手の性のちがいによって印象形成における初頭効果と新近効果の現れ方に有意な差が見られなかった。好意形成について、協同・交遊次元については、同性条件よりも異性条件の方が好意形成における初頭効果が強く現れやすいことが示されたが、親密・承認次元については、刺激人物と同性であるか異性であるかによって好意形成における初頭効果と新近効果の現れ方に有意な差が見られなかった。