結果 


パーソナリティ評定尺度の因子構造

初対面場面と刺激人物を組み合わせた36通りの質問紙において使用した18対のパーソナリティ評定尺度をすべて合わせて因子分析を行った。
 全18項目について、廣岡(1990)に従い、主因子法・バリマックス回転による因子分析を行った。因子数は先行研究から3因子を採用した。
第1因子は、「11,にぎやかな−静かな」、「9,内向的な−外向的な」などの項目に高い因子負荷が見られ、「力本性」因子と命名した。第2因子は、「2,感じのよい−感じのわるい」「14,つめたい−あたたかい」などの項目に高い因子負荷が見られ、「個人的親しみやすさ」因子と命名した。第3因子は、「7,責任感のない−責任感のある」、「8,しっかりした−たよりない」などの項目に高い因子負荷が見られ、「社会的望ましさ」因子と命名した。
 この3因子で全分散の約69%が説明されており、廣岡(1990)の因子分析結果と類似していることから、非常に信頼性の高い因子構造であることが示された。

初対面場面と刺激人物が対人認知に及ぼす影響

上述のパーソナリティ評定尺度の因子分析によって得られた3つの因子に対して6人の刺激人物が持つ因子得点を算出した。各因子における初対面場面(6)×刺激人物(6)の2要因分散分析を行った。
その結果、「力本性」、「個人的親しみやすさ」、「社会的望ましさ」全ての因子において刺激人物の主効果が有意となっており、この研究で設定した刺激人物の記述は認知者が刺激人物のパーソナリティ評定を行う際の大きな規定因となったと考えることができる。
また、「個人的親しみやすさ」、「社会的望ましさ」の因子において、初対面場面と刺激人物の交互作用が有意であった。これは、廣岡(1990)と部分的に一致する結果である。つまり、初対面場面において、被認知者の要因が対人認知の構造に非常に大きな影響をもたらしてはいるものの、どのような場面で出会ったのかということも対人認知の構造に大きな要因をもたらしていることが考えられる。

仮説1について

同じ刺激人物であっても、背景となる初対面場面が異なれば、その人物の同じパーソナリティ特性であっても、注目される程度が異なることを検討するために、各刺激人物においてそれぞれの初対面場面を独立変数に、パーソナリティ評定尺度の因子分析結果から得られた各因子の因子得点を従属変数として1要因の分散分析を行った。
その結果、「力本性」の因子ではどの刺激人物においても差はみられなかった。「個人的親しみやすさ」の因子では、人物U(F(5.242)=2.63, p<.05)、人物V(F(5.242)=2.32, p<.05)、人物W(F(5.242)=2.20, p<.05)、人物X(F(5.242)=2.25, p<.05)の刺激人物において初対面場面による有意な差がみられた。
また、「社会的望ましさ」の因子では、人物U(F(5.242)=3.80, p<.01)、人物Y(F(5.242)=2.36, p<.05)においては初対面場面による有意な差が見られた。このことから、部分的ではあるが、同じ人物であっても、背景となる初対面場面が違えば、対人認知が異なるということが示唆され、仮説1を部分的に指示するものと考えられる。

仮説2について

仮説2を検証するために、各人物について仮説1と同様の分析を行った。その結果、刺激人物Uについて、「個人的親しみやすさ」因子(F(5.242)=2.63, p<.05)と「社会的望ましさ」因子(F(5.242)=3.80, p<.01)において有意な差が見られた。
そこで、どの初対面場面の間で差があるのかどうかを検討するために、それぞれの因子においてTukey法による多重比較を行った。その結果、「個人的親しみやすさ」因子において初対面場面Bの「単発アルバイト」場面と初対面場面Cの「サークル」場面の間に有意な差が見られた(Fig.1)。初対面場面Bの「単発アルバイト」場面と初対面場面Cの「サークル」場面では、初対面場面Bの「単発アルバイト」場面の方が「個人的親しみやすさ」因子を高く評定していることが示された。これは、仮説2とは全く逆の結果を示すものである。さらに、初対面場面Cの「サークル」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面の間においても有意な差が見られた(Fig.1)。初対面場面Cの「サークル」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面では、初対面場面Eの「長期アルバイト」場面の方が「個人的親しみやすさ」因子を高く評定していることが示された。
 また、「社会的望ましさ」因子においては、初対面場面Cの「サークル」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面の間に有意な差が見られた(Fig.2)。初対面場面Cの「サークル」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面では、初対面場面Cの「サークル」場面の方が「社会的望ましさ」因子を高く評定していることが示された。これは、刺激人物Uに対して、大学生の対人関係場面の中で同じ重要度の高い場面であっても、サークル場面の方が長期アルバイト場面よりも社会的に望ましいと感じていることを示している。また、初対面場面Dの「道ばた」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面の間にも有意な差が見られた(Fig.2)。初対面場面Dの「道ばた」場面と初対面場面Eの「長期アルバイト」場面では、初対面場面Dの「道ばた」場面の方が「社会的望ましさ」因子を高く評定していることが示された。これは、「個人的親しみやすさ」因子と同様に、仮説2とは全く逆の結果を示すものである。




性差について

本研究において仮説には含まれてはいないが、性の要因に関しても分析を行った。
初対面場面と刺激人物がパーソナリティ認知構造に及ぼす影響を検討するために、「力本性」、「社会的望ましさ」、「個人的親しみやすさ」全ての因子における初対面場面(6)×刺激人物(6)×性(2)の3要因分散分析を行った。また、各刺激人物において、パーソナリティ評定尺度の因子分析結果から得られた3つの因子における、初対面場面(6)×性(2)の2要因分散分析を行った。しかし、どちらの分析においても性の要因は有意な結果はみられなかった。


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