分析対象について
同時にビデオテープを見た被験者のグループの中で一人でも実験中に声を出して笑った被験者がいるグループについては、同調行動によって評定に影響があった可能性があるため、分析対象から除外した。結果として、分析対象となった被験者は社会人30名(男性11名、女性19名)、大学生30名(男性10名、女性20名)、中学生21名(男性12名、女性9名)の計81名(男性33名、女性48名)であった。
パーソナリティ評定尺度について
先行研究に従い、「活動性」(α=. 71)、「社会的望ましさ」(α=.76)、「個人的親しみやすさ」(α=.85)の3因子に下位分類し、それぞれの因子についての項目得点の平均値を活動性得点、社会的望ましさ得点、個人的親しみやすさ得点とした。それぞれの得点についてユーモアの種類(3水準)×世代(3水準)の2要因分散分析を行い、交互作用がみられたものについては、世代別にユーモアの種類(3水準)についての1要因分散分析と、ユーモアの種類別に世代(3水準)の1要因分散分析を行った。なお、多重比較を行う場合は、全てTukeyのHSD法を用いた。
1)活動性得点
2要因分散分析の結果、ユーモアの種類の主効果(F(1.83,143.07)=13.98, p<.01)、世代の主効果(F(2,78)=13.40, p<.01)、ユーモアの種類×世代の交互作用(F(3.67,143.07)=2.65, p<.05)が有意であった。世代の多重比較を行ったところ、大学生と社会人、大学生と中学生で有意差がみられた(ともにp<.05)。
次に、世代別にユーモアの種類(3水準)の1要因分散分析を行ったところ大学生において有意であったので(F (1.53,44.34)=8.44, p<.01)、多重比較を行った。遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激(p<.01)、攻撃的ユーモア刺激と統制刺激(p<.05)で有意差がみられた。つまり、大学生において遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激が統制刺激よりも活動性得点が高かった。
また、ユーモアの種類別に世代(3水準)の1要因分散分析を行ったところ、遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激が有意であった(遊戯F(2,78)=15.94, p<.<1;攻撃F(2,78)=7.74, p<.01)。多重比較を行ったところ、遊戯的ユーモア刺激においては大学生と社会人(p<.01)、大学生と中学生(p<.01)、攻撃的ユーモア刺激においても大学生と社会人(p<.05)、大学生と中学生(p<.01)で有意差がみられた。
つまり大学生は、ユーモア刺激を表出した場合、そのユーモア刺激の種類がどのようなものであろうと、表出しない場合に比べてSPの活動性を高く評価しており、その得点は他の2世代よりも高い。浅田(2000)はユーモア表出と対人場面での積極性の正の関係について明らかにしているが、浅田(2000)の扱った対人場面での積極性とは、本研究においては活動性に含まれると考えられる。大学生の結果は浅田(2000)の研究と一致しており、仮説1を部分的に支持している。しかし、社会人と中学生の結果はユーモアの種類による得点差は有意ではなく、浅田(2000)の研究と一致していない。
また、ユーモアの種類と世代の交互作用がみられたということは、すなわち表出したユーモアの種類による得点の違いが世代によって異なることを表しており、この結果は仮説2を支持している。
2)社会的望ましさ得点
2要因分散分析の結果、ユーモアの種類の主効果(F(1.81,141.13)=48.58, p<.01)、世代の主効果(F(2,78)=5.82, p<.01)、ユーモアの種類×世代の交互作用(F(3.62,141.13)=48.58, p<.01)が有意であった。世代の多重比較を行ったところ、社会人と大学生、中学生と大学生に有意差がみられた(ともにp<.05)。
次に、世代別にユーモアの種類(3水準)の1要因分散分析を行ったところ社会人、大学生、中学生それぞれにおいて有意であったので(社会人F(2,58)=6.52, p<.01;大学生F(1.65,47.95)=73.22, p<.01;中学生F(2,40)=5.46, p<.01)、多重比較を行った。社会人においては統制刺激と攻撃的ユーモア刺激(p<.01)に有意差がみられ、遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意傾向がみられた(p<.10)。大学生においては統制刺激と遊戯的ユーモア刺激、遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激、統制刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられた(全てp<.01)。中学生においては統制刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられ(p<.01)、統制刺激と遊戯的ユーモア刺激に有意傾向がみられた(p<.10)。つまり、社会人においては統制刺激が攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高く、遊戯的ユーモア刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高い傾向があった。大学生においては統制刺激、遊戯的ユーモア刺激、攻撃的ユーモア刺激の順に得点が高かった。中学生においては統制刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高く、遊戯的ユーモア刺激よりも得点が高い傾向がみられた。
また、ユーモアの種類別に世代(3水準)の1要因分散分析を行ったところ、攻撃的ユーモアにおいてのみ有意であった(F(2, 78)=11.65, p<.01)。多重比較を行ったところ、社会人と大学生、中学生と大学生に有意差がみられた(ともにp<.01)。つまり、攻撃的ユーモア得点において、社会人と中学生は大学生よりも得点が高かった。
攻撃的ユーモア刺激はいずれの世代においても統制刺激、あるいは統制刺激と遊戯的ユーモア刺激よりも得点が低くなっている。この結果については上野(1992)の研究と一致しており、仮説1を部分的に支持している。また、大学生において遊戯的ユーモア刺激が統制刺激よりも低かったことについては、上野(2003)が挙げている遊戯的ユーモアの特徴の中のふざけの要素と関連していると考えられる。ふざけている人物は社会的に望まれていないと考えられ、ふざけの特徴を持つ遊戯的ユーモアを表出した場合には社会的望ましさ得点は低くなったのではないだろうか。
また、活動性得点と同様、ユーモアの種類と世代の交互作用がみられたということは、仮説2を支持する結果である。
3)個人的親しみやすさ得点
2要因分散分析の結果、ユーモアの種類の主効果(F(1.63,127.39)=38.01, p<.01)、ユーモアの種類×世代の交互作用(F(3.27,127.39)=4.06, p<.01)が有意であり、世代の主効果(F(1,78)=2.96, p<.10)で有意傾向がみられた。世代の多重比較を行ったところ、中学生と大学生で有意傾向がみられた(p<.10)。
世代別にユーモアの種類(3水準)の1要因分散分析を行ったところ社会人、大学生、中学生それぞれにおいて有意であったので(社会人F(2,58)=5.47, p<.01;大学生F(1.47,42.53)=38.09, p<.01;中学生F(1.44,28.71)=7.85, p<.01)、多重比較を行った。社会人においては遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられ(p<.01)、統制刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意傾向がみられた(p<.10)。大学生においては遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激、統制刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられた(p<.01)。中学生においては統制刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられ(p<.01)、遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意傾向がみられた(p<.10)。つまり、社会人においては遊戯的ユーモア刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高かった。大学生においては統制刺激と遊戯的ユーモア刺激が攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高かった。中学生においては統制刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高く、遊戯的ユーモア刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高い傾向がみられた。
また、ユーモアの種類別に世代(3水準)の1要因分散分析を行ったところ、攻撃的ユーモア刺激において有意であった(F(2,78)=5.50, p<.01)。多重比較を行った結果、社会人と大学生、中学生と大学生に有意差がみられた(ともにp<.05)。つまり、攻撃的ユーモア得点において、社会人と中学生は大学生よりも得点が高かった。
攻撃的ユーモア刺激はいずれの世代においても統制刺激、あるいは遊戯的ユーモア刺激、あるいは両刺激よりも低くなっている。これは社会的望ましさ得点に類似した結果であるが、やはり上野(1992)の研究と一致しており、仮説1を部分的に支持している。
また、上の2得点と同様、ユーモアの種類と世代の交互作用がみられた。この結果は仮説2を支持している。
情緒的魅力尺度について
10項目(α=.93)の平均値を情緒的魅力得点とし、ユーモアの種類(3水準)×世代(3水準)の2要因分散分析を行ったところ、ユーモアの種類の主効果(F(1.76,137.04)=18.65, p<.01)、ユーモア×世代の交互作用(F(3.51,137.04)=2.73, p<.05)が有意であった。
世代別にユーモアの種類(3水準)の1要因分散分析を行ったところ、社会人と大学生において有意であった(社会人F(1.61,46.74)=7.10, p<.01;大学生F(1.63,47.41)=22.59, p<.01)。TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ、社会人においては遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられ(p<.01)、統制刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意傾向がみられた(p<.10)。大学生においては統制刺激と攻撃的ユーモア刺激、遊戯的ユーモア刺激と攻撃的ユーモア刺激に有意差がみられた(ともにp<.01)。つまり、社会人においては遊戯的ユーモア刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高く、統制刺激は攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高い傾向がみられた。大学生においては統制刺激と遊戯的ユーモア刺激がそれぞれ攻撃的ユーモア刺激よりも得点が高かった。
また、ユーモアの種類別に世代(3水準)の1要因分散分析を行ったところ、遊戯的ユーモアにおいて有意傾向がみられたのみであった(F(2, 78)=2.70, p<.10)。
個人的親しみやすさ得点と同様に、攻撃的ユーモア刺激はいずれの世代においても統制刺激、または遊戯的ユーモア刺激よりも低くなっている。これは攻撃的ユーモアは送り手に対する好意を低減させるというGutman&Priesut(1969)の研究と一致しており、仮説1を部分的に支持している。
また、パーソナリティ評定尺度の3得点と同様に、仮説2を支持する交互作用がみられた。
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