結果と考察


6.総合考察
 協力体制である学校と独立体制である学校では、体制がつくられていくプロセスに違いがみられた。また、協力体制校と独立体制校のそれぞれの養護教諭、SCの共通意識を明らかにするうち、教師とSCが信頼関係をつくり連携を促進する要因として、@情報交換による共通理解。A養護教諭のコーディネーターとしての働き。BSCの歩み寄りの姿勢。以上3点が重要な意味をもつのではないかということが示唆された。

@情報交換による共通理解。
 SCと教師の情報交換はどの学校でも行われていることであるが、共通理解ができているかという点でみれば、協力体制校であるb校とc校ではできており、独立体制校であるa校とd校ではできていなかった。共通理解のためには、ただ時間があればよいというものではないようである。情報交換では、子どもについて得た情報をお互いが交換している。しかし、その場で情報の交換だけにとどまるか、それとも得た情報を使って子ども理解のために話し合うかが、共通理解への分かれ目である。共通理解をするためには、SC、養護教諭、担任、学年の教師、校長、教頭といった子どもをとりまく大人が子の問題について状況を把握し、“解決するにはどうしたらよいか。”ということを話し合い、“子どもに何が必要か”をともに理解していることが必要である。共通理解を深めようとする人数が多くなるほど、反対意見や意見の相違がでてくるため、ひとつの考えを共有する事が困難になるが、共通理解をしている人数が多いほど多方面からのサポートが可能となり、子どもの援助をより進められる。また、共通理解を進めた者同士は“同じ意識を持って動いている”という感覚からお互いを信頼し、よりより関係づくりの糧となっていくだろう。


A養護教諭のコーディネーターとしての働き。
 SCが学校の中でどのような働きをして、その機能を存分に活かした活動ができるかは、両者がいかに役割分担し、協力体制をもつかが重要なポイント(鵜養,1995)となる。
 養護教諭がコーディネーターとしての役割を担い、子どもや教師や保護者にSCを紹介するという形ができてくると、相談の経路ができる。カウンセリング活動が役割の一つであるとされているSCは、相談の経路ができることにより活動の場を得る。相談者とかかわりをもったSCは、相談者の更なる情報を得るために、また得た情報を教師に提供すために情報交換が活発におこなわれる。このように、相談の経路できることで情報交換が活性化され、その中で共通理解が深まり、信頼関係を築いていくという協力体制への一連の流れが見えてくる。もしも養護教諭がコーディネーターとしての働きを全くせず、SCが一人で相談の経路づくりをするとなれば、大変である。毎日学校に来ているわけではないSCにとって、学校に来ている短い時間の中で自分の働きを理解してもらい、相談をうけ、信用を得ていくのは困難なことであり、かなりの時間が必要になるだろう。
 また、経験の浅いSCにとっては、学校の中に入っていくことの大変さと自身の活動をつくっていく大変さで苦労すると考えられる。そこで、役割上もっともSCと近い存在である養護教諭が相談の経路を示していくことによって、新人のSCはより早く学校の中にはいっていけるようになると推測できる。
 こう考えると、養護教諭がコーディネーターとしての働きをもつことは、SCを学校に定着させる最もの近道であるといえる。 しかし、今回の協力校とは別の学校で“子どもへのかかわり方”について話をうかがったとき、「子どもの問題は、やはり学校で解決したいじゃないですか。」と答えてくれた養護教諭がいた。自分がみている子どもが心の問題を抱えていたとき、いくら学校に心の専門家であるSCがいたとしても、“自分が何とかしてあげたい”と思うのはどの教師でも同じだろう。実際に学校の問題は主として教師が解決すべきだと考えている教師は多く(伊藤,1998)、養護教諭もまた然りなのである。こういった養護教諭はコーディネーターとしての働きを活発には行えていないことが多くSCとの連携もうまくいっていないことが多いのではないかと推測される。このように、教師の子どもへの思いゆえにSCとの連携が図れないことがあるのは難しい問題である。


BSCの歩み寄りの姿勢。
 SCが学校の中で教師たちと信頼関係をもち、協力して活動していくためには、SC自身あるいはカウンセリング活動について教師の理解を得る必要がある(最上,1995)。
 学校が初めてSCを迎える場合、それまでにSCを利用したことのある教師を除いた多くの教師たちは、SCの活用の仕方をほとんど理解していないだろう。また、面接協力者である一人のSCは、「臨床心理士だからというだけで、話すだけで心が読まれるとか見透かされるって感じがすると言われる。」と話してくれたが、実際、心理の専門職としてやってきたSCに、漠然とした脅威を感じる教師もいるのではないかと考えられる。しかしそうではないのだということをわかってもらい、教師との信頼感関係を築いていく為には、SCが自分の役割や活動について理解してもらえるように直接働きかけていくことが必要である。c校SCを例にみれば、自分自身やカウンセリングについて知ってもらうために新聞を出したり、教師との会話を増やしたりして歩みより、関わりをもとうとしていたという。
 以前にSCがいた学校の場合でも、歩みよりを怠ってはいけない。それまでにできている連携の体制に乗ることも学校の中に入っていくという意味では必要だが、自分の活動のスタイルについて理解をもとめていくことこそが、自分を学校に定着させ、教師との関係を作るために必要になってくる。
 また、歩み寄るという姿勢はSCのことを理解してもらおうとする為だけのものではなく、SCが教師や学校を理解しようとする為のものであることが望ましい。 全く歩み寄りをせず、無干渉を貫こうとすれば、相互理解が阻まれ、協力体制はおろか信頼関係も成り立つはずがなく独立した体制にならざるをえないため、SCに求められている役割の一つである教師援助は望めない。だからこそ、SCの歩み寄りができている学校ほど教師とSCが信頼関係を築き協力体制をつくっていきやすいと考えられる。


backnext