結果と考察
4.養護教諭の共通意識
各校の養護教諭の発言を示し、共通していると考えられる発言をつなぎ、学校の体制と養護教諭の考えに共通するものをみた。
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『情報交換』
a校養護教諭・A
「時間がないので十分ではないが情報交換はしている。」
b校養護教諭・C
「教育相談部会という会議が週に一回あり、そこでSCも交えて情報交換をしている。」
「立ち話でも、一週間の子どもたちの様子はこまめに話している。」
c校養護教諭・E
「一週間の出来事は、必ず時間をとって話すようにしている。」
「学校全体では、二週間に一度会議を開き、情報交換、意見交換をしている。」
d校養護教諭・G
「時間が合わないので、顔を見たときに。」
「SCの来る日に生指会議があるが、予定が入ったりして出てもらえない。」
『学校・教員』
a校養護教諭・A
「担任や学年の先生に、どうやって私の思いを伝えたらいいのか。」
「担任とうまく連絡が取れなかったときが一番大変。」
「他教師との共通理解ができていないと大変。」
b校養護教諭・C
SCが来る前は、狭い考えになっていた。教師だけでは行き詰る。」
「様々な部会があり、情報交換しやすいように、体制ができている。」
c校養護教諭・E
「担任やクラスの受け入れ態勢ができている。他の中学に比べると、この学校の子は受け入れてくれる場がある。」
「SCが来る前は、子どもを専門機関へ行かせるときの家庭への働きかけが大変だった。」
d校養護教諭・G
「子どものことで話をするのは、学年の先生や担任の先生。」
『SC』
a校養護教諭・A
「SCを下に見る人もいる。」
「どう活用していいかわからない。」
「うまく活用されていない。」
「SCを理解できていない。」
b校養護教諭・C
「SCを含めた学校体制に課題がある。」
「助言をいただける。相談できる。」
「自分ひとりで抱え込まなくなった。精神的に楽。」
「考えの幅が広がる。」
c校養護教諭・E
「SCが来て助かる。気持ち的に楽。」
「専門的に学校の中で見てもらえる。」
「専門科受診を勧めやすい。」
「助言してもらえる。」
d校養護教諭・G
「SCは週に一日しか来ず、相談室が身近になりにくい。」
「専門的な部分で相談できる。」
「学校に来る日数もすくないので、私たち[教員]のような人間関係はできない。」
『自己評価』
a校養護教諭・A
「私の力不足。」
d校養護教諭・G
「子どもについて、どうすればよいか悩む。後悔もする。」
「私の力不足。」
「自信がない。」
b校養護教諭Cとc校養護教諭Eの発言、またa校養護教諭Aとd校養護教諭Gの発言には共通するものが多くみられる。このことから協力体制校の養護教諭の間には共通の意識があり、また独立体制校の養護教諭の間にも共通の意識があることわかった。
情報交換に関して、独立体制校のa校養護教諭・Aとd校養護教諭・Gが「時間がない。」と発言しているのに対して、協力体制のb校養護教諭・Cとc校養護教諭・Eは「必ず時間をとる。」という発言をしており、独立体制校の養護教諭よりも情報交換の必要性を意識し、積極的に情報交換に努めていることがわかる。これより、連携の体制を規定する要因に、情報交換があると考えられる。
学校・教員についてみると、独立体制校の養護教諭は他教員との連携や関係を重視する発言が多い。一方、協力体制校の養護教諭は、学校の中の問題に教員のみで対応したときの課題をあげていることから、SC配置後の問題への対応に、手ごたえを感じていると考えられる。また、共に学校の体制に関心を持っていることから、協力体制校の養護教諭はより広い視野で学校全体を見ていると推測できる。
SCについては、独立体制校2校の養護教諭は、「SCがうまく活用されていない。(А)」、「SCを含めた学校体制に課題がある。(G)」と発言しており、SCの機能をうまく活用できていない。一方、協力体制校2校の養護教諭は、SCが来たことによる利点をあげていることから、SCの機能を活かした活動ができている。また、SCが来たことによって「家庭への働きかけがしやすい。」「相談できる。」と発言していることから、SCの養護教諭援助に対して満足している(伊藤,2000)といえる。
養護教諭・Gが独立体制でありながら「専門的な部分で相談できる。」という発言をしているのは、SCに教師援助は期待していないが、SCの専門性は認めて活用しているためだと推測できる。
独立体制校の養護教諭にSC配置による自身の変化について尋ねた際、「変わりはない。(A)」「教員がカウンセラーを利用することがあまりないため、変わりはない。(D)」と発言していることから、SCの活用は子どもや保護者に限ったものであるという意識があり、教師援助に対する期待度・満足度は低いといえる。
独立体制校と判断した2校の養護教諭は、共に自分の仕事の困難を明確に発言している。日常の相談業務に困難を感じている養護教諭は、SCによる教師援助の効果についても肯定的な見方はもちにくいため(伊藤,2000)、SCの活用は子どもや保護者に限ったものであるという意識がつよくなり、独立体制になってしまうと考えられる。
5.スクールカウンセラーの共通意識
各校のSCの発言を示し、共通していると考えられる発言をつなぎ、学校の体制とSCの考えに共通するものをみた。
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『情報交換』
a校SC・B
「来るたびに話はしている。」
b校SC・D
「その時その時を捕まえて。」
「教育相談委員会で学校全体の情報を得る。」
c校SC・F
「職員室で話したり、必ず会議には出て情報交換を。」
d校SC・H
「顔を見たときに。」
「会議をSCの来る日にひらいてもらっているが、予定が入ることも多く、出たり出られなかったり。」
『学校・教員』
a校SC・B
「心理のことが伝わらない。」
「カウンセラーのことをわかってもらえない。」
「やりにくいと感じていた。」
「専門職だから気を使われる。」
「みんなに受け入れられているわけではない。」
b校SC・D
「先生たちとの関係が、最初よりはつかめている。」
「養護の先生を信頼している。」
「いつでも養護の先生に話を聞いてもらうし、情報を得ている。」
「受け入れてくれない先生もいる。」
c校SC・F
「養護の先生がコーディネーターになってくれる。」
「学校や地域のことがわかってきている。」
「価値観をあわせるのが大変。」
「住み分けられるようになっている。」
d校SC・H
「SCを受け入れられない先生もいる。」
「何をしに来たか、理解してもらえてない人もいる。」
「養護の先生を信頼している。」
『SC』
a校SC・B
「同じ立場の人がいない。」
「何をすればよいかわからなかった。」
「経験を求められる。」
「学校にたまに来る人。」
b校SC・D
「SCはお邪魔している立場。」
「学校組織の中で自分がどう動けるか、どういう働きができるか考えていかないといけない。これがカウンセリングと違うところ。」
「SCは架け橋だ。」
c校SC・F
「自分のポジションをどこにおくか。」
「学校と子ども、学校と親、子どもと親の間に立つ。」
「実績が大切。」
「マネージメント、ワーカー的な働きが多い。セラピーだけではやっていけない。」
「週に1日だけやし、最初はお客様扱いで表面的な話しかしてもらえなかった。」
d校SC・H
「週に一回お邪魔している立場。」
「何を求められてて、ということはいつも考えている。」
総じて見て、4人の発言には共通するものが多かったが、協力体制校である2校のSCには共通する意識が表れた。
情報交換についてみると、どのSCも学校に来るたびに教師と情報交換するように努め
ており、情報交換を大切にしていることがわかる。SCが週に1日ないし2日しか学校に来られないため、自分がいない間に起こったことを把握しようと努めるのは当然のことだといえる。
学校・教員についてみると、教師たちとの関係について「SCのことをわかってもらえない。(B)」「うけ入れてくれない先生もいる。(D)」「SCへの理解がなく、価値観をあわせるのが大変だった。(F)」「理解してくれない先生もいる。(H)」と、4人ともがSCを理解してもらうことに困難を感じている発言をしており、学校の中に一人違った人種で入っていくことの難しさが現れている。しかし、協力体制校のSCは、「関係がつかめてきた。(D)」「使い方をわかってもらえてきた。住み分けができてきた。(F)」と発言しており、赴任当初は“教師にSCをどう理解してもらうか”について困難を感じていたが、現在ではお互いの役割が整理され、関係も良好になっていると感じており、2校のSCが教師との信頼関係を築いてきた証といえる。一方、独立体制校のSCも「先生と話す機会が増えた。(A)」「なれてはきている。(D)」と発言していることから、時間がたつにつれて学校の中のことを徐々に把握してきており、信頼関係づくりを進めていこうとしているところであることがわかる。
どのSCも養護教諭とは必ず情報交換をするということであり、特に協力体制校であるb校とc校のSCからは「養護教諭を信頼している。(D)」「養護教諭はコーディネーターである。(F)」という発言が聞かれ、養護教諭とSC自身の現在の位置関係やそれぞれの役割に満足していると理解できる。また、独立体制校のHからも同じような発言をきかれた。
SCの役割についてみてみると、協力体制校のSCは、「SCは架け橋だ。つないでいる。(D)」「学校と子ども、子どもと親、学校と親の間に立つ。(F)」と発言しており、子どもへのカウンセリング活動だけでなく、教師や親への援助も行っていることがわかる。
また、「カウンセリングとは違い、組織の中でどう動くかが重要。(D)」「SCはマネージメントやワーカー的な働きをする。セラピーだけではだめ。(F)」と発言していることから、幅広い働きを実際にしていることがわかる。これはいろんなケースの問題にあたるうちに、必要性に応じて柔軟に活動の幅が広がっていったものと考えられる。一方、d校SC・Hは独立体制にありながらも、「学校で何を求められているか考える。(H)」という発言をしていることから、SCは柔軟であるべきだと考えていると理解できる。
また、どのSCも、自分が学校外から来ているものであるという意識をもっているのは、学校に来る短い時間の中で、教師同士のような人間関係を築くことは困難だと感じているからである。また、学校にただ一人の心理の専門職であるという孤独感と、学校側の人間と全く同じ考えではいけないという考えによるものだと推測できる。
4人のSCはいずれもSCになってから日が浅いが、なかでも社会経験が少ないBとFはともに「経験が必要。(B)」「実績が必要。(F)」と発言しており、SCをやるうえで経験が必要であると感じている。これは、学校には学校特有の微妙な権威関係があり、他に対し相談をもちかけたり援助を受けることは恥ずかしいことだという場合に、少なくとも自分が上位と思う教師は、下位と思える学校構成者に相談をもちかけたりしないという傾向があるが、そういった状況を日々感じての発言だったと考えられる。SCがその状況を打ち破るには、心理の経験・知識をもつ専門家であることの信頼を、学校内での日ごろの活動の中で勝ち得る必要がある(光岡,1995)と感じているため、経験が必要だと感じていると推測できる。
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