結果と考察


3.各校の分析
 それぞれのインタビュー記録から、各校における現在の体制に至るまでのプロセスを図に表した。また、実際の連携の様子から、それぞれの学校のSCを含めた校内体制を協力体制独立体制のどちらかに分類した。
 協力体制とは、教師とSCの関係が良好であると判断でき、情報交換を行いながら協力して問題解決に努めていると感じられる状態にあるものとした。
 独立体制とは、教師とSCの関係が良好でないと判断し、独立した活動をしていると感じられる状態にあるものとした。
 その結果、b校とc校が協力体制、a校とd校が独立体制であった。


 ●a校の分析
“うまく活用されているとは言えない。” (養・A)
  「どう話をして言っていいのか、どう相談を持ちかけていいのか、どうアドバイスを受け入れたらいいのかっていうのが、職員の中でもできていない人がいるし、カウンセラーというものを下に見ている人もいれば、理解できていない人もいるので、今の状態では、正直うまく活用されてるとは言えないんです。円滑に回っているとは言えないので、カウンセラーの先生にも嫌なこととかやりたいこととか、いっぱい不満が溜まってると思うんです。でも、それは一年目やししょうがないですよ。3年後ぐらいには定着するかなって思うんですけど。」

“やりにくい。” (SC・B)
  「[先生に]伝わらないんですよ、心理とかのことが。悪気があるわけじゃないんやけど、わからないんですよね。」
  「やりにくいとかそういうのはすごい感じてたし、多分向こうも。先生たちって早い話、教えるのとか好きじゃないですか。だから私が普通の新米の教師で入ったんならいろいろ教えてくれたんやろうけど、一応専門職で入っているじゃないですか。だから、向こうもこっちに対して、言うに言えやんみたいな感じで。」

“他教員に対する思い。” (養・A)
  「私の思いが学年に跳ね返されることもあるんです。どうやって私の思いを伝えたらいいんかなっていうのが、私の力不足もあって、わからない。」
  「やっぱり、プロとしてのほこりをもってやってみえる方がいっぱいいるので、それは十分こっちもわからなくちゃいけない、学ばなくちゃいけない部分もあるし、もっと先のことを見越して話をしてみえることもあるので、私はどうしても、目の前の子どもに対応してしまうから、子どもとの関わり方の距離が違うなって思ったこともあるので。」
  「担任との共通理解がうまくいっていないと、えらいことになってしまうので、同じこと思ってますかねとか、何度も確認する。」


 養護教諭は前任校でSCと共に働いた経験はあったが、昨年までは講師として勤務していた為、実質SC配置校に勤務するのは始めてのため連携の経験はなく、また、学校の体制にも不慣れであった。SCは大学院を卒業して2年目、SCとしては一年目であり、「何から始めたらよいのか。」という戸惑いながらの始まりであった。
 養護教諭Aとの面接の中で、「先生との共通理解ができていないとえらいことになってしまう。」「他の先生にどうやって私の思いを伝えたらいいんかなって思う。」(養・A)といった、他教師との関係を重視する意見や課題を多く発言していたことから、養護教諭は、自分が学校の体制の中に入っていくことを課題として活動していたと推測できる。一方SCも、学校勤務1年目であり、自分がどの位置で活動していくかが定まらなかったのと、学校の中にただ一人の専門職という立場だった為に何をすべきかを悩み、経験が少ないために自分の活動に正しいと言う確信が持てず、うまく身動きが取れていなった。そのために、お互い自分のことで精一杯になり、双方の歩み寄りがうまくいかなかったため、両者の情報交換は十分には行われず、関係づくりもできていなかった。
 「SCをうまく活用できていない。(養・A)」「やりにくいとすごく感じる。(SC・B)」という発言から読み取れるように、互いに理解しあえていないため、内面的には対立の関係にある。これはSCが学校に定着していない現状からみると、養護教諭とSCの間に限られたことではなく、すべての教員とSCの間に言える。つまり、情報交換は行ってはいるが、連携はうまくいっているとは言えず、独立した体制で活動している。


 ●b校の分析
“学校としていろんな子ども・家庭を抱えている”
(養・C)
  「いろんな子たちがいるんですよ。ご飯も与えてもらえない子もいるし、虐待というかネグレクトの子もいますし、市営住宅なんかもかなりあって、生活水準が低い子たちがいるので。」
  「教育研究所に通っている子がいるし、リストカットの子もいる。全くの不登校の子もいる。」
  「ここの学校は国際学級があるし、同和地区も抱えとるもんでいろんな部会があって、週に1時間ないし2時間必ず時間をとって、会議を開いて情報交換しています。」
(SC・D)
  「この学校は同和の地区や国際の子、市営住宅も多くて、生活水準の低い子たちがいる。また、家庭崩壊の危機にある生徒が全校で57人います。ということは一学年に20人いるの。そういう地区なんだと思います。」
“助かる” (養・C)
  「自分ひとりで抱え込まなくなった。抱え込む必要がなくなったもんで、相談できますよね。生徒がスクールカウンセラーのところに行けなくても、私がカウンセラーのところに行くことができる。スクールカウンセラーが来る前は、養護教諭と担任とって、狭い考えになってしまってたけど、[今はスクールカウンセラーに]振ったり、相談したりするもんで、自分としては精神的に楽になった。」

“養護の先生を信頼” (SC・D)
  「養護の先生を信頼しています。養護の先生に子どもの見立てとか、この子どもについてはこう思いますが家庭環境はどうでしょうかってことを聞きます。まず、養護の先生ですね。いつでも養護の先生にお話を聞いてもらうし、また、情報を得てる。」

“学校の課題「地域連携」”
(養・C)
  「小学校とか保育園とのつながりができたらいいなって思うんですよ。支援的に親のサポートせなうちとこの学校はなかなか変わらないだろうから。」
(SC・D)
  「地域連携、これをしていかないと、中学だけ、あるいはスクールカウンセラーとか養護の先生だけでは、解決できない。ものすごい大きな渦がまいてる地区だと思うんです。だから、福祉の力とか教育委員会いろんな中学校だけじゃなくって、小学校も保育所もそして住んでる地域もすべてがつながりあって、地域連携していかないと、不登校はなくならないと思う。この地区は特に。ここだけでは解決していかない。それは今までにも何度か先生方とお話したことがあって...」  


 b校の校区にはさまざま境遇の人々が生活しており、家庭環境が安定しない生徒が多い。不登校や非行の生徒も多く、学校はその状況を問題ととらえ、解決の方法を探していた。
 b校にとってSCの配置は初めてであり、養護教諭もまたSCと共にか働くのは初めてであった。しかし、現在の学校の状況から「何から始めるか。」は問題にならず、SCに生徒と話をしてもらうという形で実用されていった学校の様子がうかがえる。一方SCは、SCとしての勤務は1年目であったが、学校から子どもの相談を依頼されることで、スムーズに学校の中に入っていったことが推測できる。また、これまでに児童相談所に非常勤で勤めたり、市町村の相談員として働いた実績があったため、学校から依頼された相談に自信をもってとりくめていたと考えられる。
 SCが生徒と関わることにより、情報交換のために言葉を交わす回数が増え、それと共に関係が出来上がっていったと考えられる。また、SCが「不登校の子どもが学校にでてこられるようになった。」といった、問題の解決という成果によって信頼を得てきたことと、校長、教頭、学年の教師、養護教諭、SCなどが集まっての会議で情報交換も行うことで共通の意識を持って子どもに対処することができる体制になっていることも関係を促進する要因となっている。
 その結果、「相談できる。(養・C)」、「養護教諭を信頼している。(SC・D)」というそれぞれの発言からも読み取れるように、互いに情報を交換しつつ、時にはSCをスーパーヴァイザーとして利用しながら活動する、協力した体制ができていったと考えられる。


 ●c校の分析
最初、気持ち的には対立。”
(養・E)
 「学校の中に一人、違う職種でいると、やっぱりそのときには違和感があったし...」
(SC・F)
  「こちらの考えをわかってもらったり、何ができるんかとか、守備範囲がぜんぜん決まってなかったです。今まで全部先生がしとったものを、少しずつ分けてもらわなあかんかったし、分けていいのかどうかという信頼関係もできてなかったし、まず仕事を探したり、自分がどこまでできるかとか、どこまでやっていいかとか、そういうのも決まってないから、その辺がもう本当に、住み分けするのが大変で。しかも週に一日だから、ぜんぜんわからんね、何がおこっとんのかが。」
 「c中は、地域的にも、自分たちで解決してきとるっていうのがたぶん、あったとおもうんね。はじめそれがわからんくて、なんでこんなに排他的っていうかすごい疎外感を感じとったんさ。すごくお客様扱いで、ぜんぜん表面的な話しかしてもらえやんくて、ぜんぜん問題ないですっていう感じやったもんで、どうやって入っていったらいいんやろうって思ってた。」

“SCからの歩み寄り。” (SC・F)
 「ここで工夫をしたのは、新聞を作ったりして、自分がどういう人なんかとか書いて。...子どもが好きそうな心理テストとか、目を引きそうなものを載せて出したりして。そうすると、先生とも話が合うというか、ちょっとした子どもの反応を聞くとかしていくうちに、だんだん、話ができるようになっていったっていう感じかな。」

“SCが来て助かる。” (養・E)
 「すごく助かる。数として心に問題をもった子が増えたとかそういうのではないけど、重い子が結構たくさんいる。ちょっともう、病的なまでに激しくなっちゃう、いいかな、大丈夫かなって言うような子がね、何人かいるんですよ。このちっちゃい学校でも。前だったら、その子をどういうふうに受診させるかとか、専門的な機関に行かせるかとか、大変でした。学校外のところへ勧めるわけでしょ。受診してとか、相談してとかってお家に勧めるのすっごい大変だったん。だけど、こちらが抱えていて、どんどん悪くなっていくと困るし。その辺はすごく怖かったんやけど、カウンセラーさんが来てくださって、専門的に見てくださって、そうすると受診も勧めやすいし、その前の段階の子はこれはまだ学校で継続的に行ってもいいってそういうことができるでしょ。それがね、すごく気持ち的に楽。専門的な判断を仰げる。それから、助言してもらえるから、すごく助かる。」

“学校に入り込んできている。” (SC・F)
 「いい変化かどうかはわからんけど、子どもにとって必要なものって考えていくと、どうしても先生たちと同じような立場になっていくんやわ。前は本当に外部の人っていう感じやったけど、だいぶ入りこんどんなって思う。」
 「自分から見える周りの変化というのは、使ってもらえるようになった。使い方がわかってもらえるようになった。使い方がわかってもらえて、先生はここまで、カウンセラーはここまでって分けられるようになってきた。」

“3年。” (SC・F)
 「子どもに対しての先生たちの常識と自分の常識が全然違う。その価値観をあわせるのが、まず大変やった。なんでこんなに生徒に厳しくすんのやろうとか、なんで待ってあげれやんのかなとか、話を聞きながら思ってた。所有物のように先生の権力が強くて子どもの話しをもっとゆっくり聞いたればいいのにとか、そういうのをすごい思ったけど、3年おれば、先生はすごい子どものことを思ってるっていうのもわかるし、時間も割いてるし、心も割いてるから出る発言やっていうのがわかるけど、それが始めはわからんかったかな。やで、気持ち的には対立しとったかもわからんな。」    


 c校はSC配置3年目であり、連携体制は出来上がっている。現在は、「すごく助かる。専門的にみてもらえる。(養・E)」「住み分けができている。(SC・F)」という発言からわかるように、関係がつくられ役割分担もできており、協力した体制で互いが活動しているのがわかる。しかし、現在のこのような体制が出来上がるまでには、さまざまな葛藤や対立があったようである。
 SCが配置された当初、養護教諭を含めた他教師は専門職で学校にやってきたSCに対して違和感をもち、SCは何をする人なのかという理解がなかった。また、これまでは自分たちだけで問題を解決してきたということもあり、SCの受け入れ、活用に対して積極的ではなかった。一方SCは、SCになって1年目であり、自分が学校の中でどのように動くか模索しながらのスタートだった。教師との関係は不完全で価値観も違い、適応するのに苦労している。そのため1年目は、教師とSCの気持ちは対立していた。
 そんな中、SCが通信を発行したり、教師との会話を増やしながら歩み寄り、徐々に関係をつくっている。関係ができるにつれて、養護教諭はSCに子どもの相談を依頼するようになり、相談の経路ができていくとともに、子ども、教師、保護者とSCをつなぐ、コーディネーターとしての役割を担うようになった。形作られる体制の中でいくつものケースについて情報交換を行い、養護教諭とSCの間だけではなく学校全体として共通理解を深めていったものと考えられる。
 その結果、養護教諭を含めた教師たちはSCを理解して活用できるようになり、SCは自分の活動を定着させることができた。また、SCが自身の活動をセラピーに限定せず、保護者と学校の間に入ったり、外部機関への架け橋となるようなワーカー的な働きも行ったことによって活用してもらえる幅を広げたことも、SCを定着させる要因となったはずである。
 このようにして教師とSCの間に信頼関係が生まれ、現在の形になっていったと考えられる。


 ●d校の分析
“身近になりにくい。” (養・G)
 「週に一回きてもらってるだけなので、相談室自体が身近な存在になりにくい現状がまだあるんですね。」

“学校の体制に課題がある。” (養・G)
 「学校って独特の場じゃないですか。そこへ入ってみえて、私らのような人間関係はできないじゃないですか。週に一回だけやしねえ。学校が居心地がいいかどうかはどうなんやろって思いますね。いろんな面で悩まれるやろうし、悩まれたときに相談しやすい人が学校にいてられるかどうかはわからないですよね。…それに、校内体制も少しずつできつつはあるんやけど、スクールカウンセラーを交えた校内体制には課題もいっぱいあるんでね。回数が増えるとまた違うんかなっていうのはありますね。」

“SCを受け入れられない先生も。” (SC・H)
 「SCを受け入れられない先生もいらっしゃいますよね。でも、それはそれで、その人のお考えだから、カウンセラーなんか頼りにしたくないって思っていらっしゃる方ももちろんみえるだろうし、何しにきたんやっていう目つきのかたもいらっしゃるから。」

“相談できる。” (養・G)
 「自分も相談できるっていう部分はありますよね。保健室で関わりながら、この子は専門的なところへ行くべきかなっていう子もいるんです。スクールカウンセラーの先生通して、外の専門機関に行っている子の対応は、やっぱり、専門的な意見聞きたいって言うのがあるんですよね。こんなんでええんやろか。こんな対応がええんやろか。この子にはどういう対応していくと改善されていくのか。医療的な部分が必要な子とかは、カウンセラーの先生に聞いたりできるんですよね。」

“先生をフォロー。” (SC・H)
 「SCは週に1回お邪魔している立場というかですので、あくまでも学校は先生方が表に立ってやられる場所だと思ってるんですね。先生をどう、フォローしていくかということを考えています。」    


 d校は3年前からSCが配置されており、最初の方が1年、次の方が2年、そして現在のSCが1年目ということであった。
 「専門的な意見が聞ける。(養・G)」という発言から、SCの専門性は理解しており、状況に応じて助言を求めながら活動していることがわかる。しかし、「SCは週に一回であり、身近になりにくい。」「教師のような人間関係は築きにくい。」(養・G)という養護教諭が発言をしていることと、「SCを受け入れてくれない教師もいる。(SC・H)」というSCの発言、また養護教諭、SCそれぞれの面接の中で、教師たちとSCの連携に関する発言が非常に少なかったことから、信頼関係はできておらず、連携した活動はできていないと考えられる。これは「SCを含めた校内体制に課題がある。」(養・G)という発言からも推測できる。そのため、互いの連携は距離を置いたものとなっており、独立した体制で活動しているものと考えられる。
 最初のSC配置から3年以上経っているにもかかわらず、SCを含めた連携がうまくいっていないのに疑問をもった。うまくいっていない理由としては、次のように考えられる。
 まず、現在のSCが1年目ということで、教師とSCの間に関係ができていないということが考えられる。次に、教師たちには以前来ていたSCとの、お互いが独立し必要なときにだけ連携するやり方が身についており、以前と同じようにSCと関わっているとも推測できる。ただしこれは、以前d校に来ていたSCについての情報がないため、あくまで推測でしかない。さらに、b校SCが学校の必要に駆られて必然と関係をつくっていったのとは対照的に、学校が全体として落ち着いており、SCを早急に必要としていない現実があったとも考えられる。
 養護教諭・Gとの面接の中で、教師は教師、SCはSCであり全く違う役割をもった立場で活動しているという意識を強く感じたが、実際にもお互いほとんど干渉せずに活動しているように感じた。
 また、SCは「会議が設定されている時間にも面接などの予定が入ることが多く、出られないことも多い。(H)」と発言しており、情報交換のための時間のなさを問題としていた。のSCは養護教諭を信頼しており、養護教諭はSCの専門性を認めていることから、協力した体制がみえてもよいように感じられるのに、実際には独立した体制で活動が行われているのは、情報交換が十分にできず共通理解が深められていないという課題があるためと考えられる。


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