1.自己開示の定義と機能
2.大学生の自己開示と同性の友人
3.開示者と被開示者
4.被開示者のパーソナリティ
5.開示者のパーソナリティ
6.開示者と被開示者のパーソナリティ
7.エゴグラム
8.自己開示動機
1.自己開示の定義と機能私たちは、お互いに自分に関する情報を伝え合うことで互いを理解しあい、親密な関係を築いていく。このように自分の情報を相手に伝えることを自己開示(self-disclosure)といい、Jourard(1971)は、自己開示を「個人的な情報を他者に知らせる行為」と定義している。
大坊(1984)は自己開示を、自己についての心理的、個人的な情報を他者に伝えること、すなわち自分の諸側面を他者に打ち明けることであり、一般に他者との結合を強める効果を持つものと述べている。つまり、自己開示は、開示する当人自身と開示される相手となる他者との密接な相互作用の産物であり (大坊,1984)、対人関係を築いていく上で重要な要因であると考えられる。
また、自己開示には、自己開示すること、及び自己開示をしたことが相手に受け入れられていると感じること自体が人間のストレスを直接的に低減させるカタルシス機能がある(丸山・今川,2001)。つまり、自分の内面を他者に打ち明ける自己開示は、他者とのより親密な関係を築いていくだけではなく、個人のストレス低減の機能もあり、わたしたちが社会生活を送っていく上で欠かせない行為であると言える。
2.大学生の自己開示と同性の友人大学生の日常生活における身近な相手に対する自己開示の実態を検討した榎本(1987)は、相手による自己開示度の違いに関して、父親、母親、最も親しい同性の友人、最も親しい異性の友人という4者のうち、男女とも同性の友人に対する自己開示度が最も高く、父親に対する自己開示度が最も低いことを明らかにしている。この結果は、大学生を用いた諸研究の結果と一致するものであり、大学生にとって同性の友人は一番の自己開示の対象であるといえる。ターディら(Tardy,C.,Hosman,L.,&Bradac,J.,1981)が、大学生を対象とした調査において、両親に自己開示をする場合より同性の友人に自己開示をする場合の方が、自己開示の内容は否定的なものが多く、内容そのものも深く、正直で、自己開示量が多いことを見出ていることからも、自己開示に関して同性の友人と家族では異なった機能を担っているといえる。
自己開示の内容においても、同性の友人に対する自己開示は他の開示者に比べ、社会的自己、精神的自己、実存的自己を中心にほとんど全ての側面(精神的自己、身体的自己、社会的自己、物質的自己、血縁的自己、実存的自己)において自己開示度が高く、全ての側面において比較的よく自己開示されている。父親や異性の友人への自己開示はどの側面も低く、母親への自己開示も物質的自己、身体的自己の機能的側面、精神的自己の知的側面などが中心となっており、身体的自己の性的側面、社会的自己の私的側面、実存的自己などについては自己開示されることが少なく側面による違いが著しい。以上のことから、大学生の自己開示行動の対象として、同性の友人が担う役割は大きいと考えられる。よって、本研究では、同性の友人への自己開示に限定して進めていくこととする。
3.開示者と被開示者(time perspective)自己開示とは「個人的な情報を他者に知らせる行為」であるので、自己開示場面においては、自分の個人的な情報を話す側と、その情報を聞く側が存在する。この情報を話す側を開示者、情報を聞く側を被開示者とする。
自己開示性についての研究は、Jourardをはじめとする心理的健康、適応を問題とする臨床心理学的アプローチと、自己開示性とは他者との関わりの中ではじめて形成され意味をもつという観点からとらえ、コミュニケーション過程を検討する2つのアプローチがある。開示者と被開示者においては、後者のアプローチの中で、Jourard(1971)の自己開示の返報性の研究などから、相手に関する情報の乏しい段階では、身体的魅力の高い相手に自己開示すること(Brundage,Derlega & Cash, 1977)が示されている。また、自己開示性を説明する要因として、対人的な好意の程度が大きなウェイトを持つ一方で、態度の類似性はあまり説明力を持たないこと(Gelman&McGinley, 1978)が明らかにされている。いずれの研究からも、私たちはお互いが自分の持つ情報を相手に伝え、相手からの情報を得ることで対人関係を構築していると言える。
友人関係や進路、恋愛などのデリケートな話題ともなると、自分が思っていることや自分の状況を話したくても、実際には誰に話したらいいか戸惑うであろう。よって、自己開示を行う際に、開示者にとって被開示者がどのような人物かという点も重要であると考えられる。Derlega,Metts,Petronio&Margulis(1999)は、自己開示において自分のことを話してもし拒絶や無関心にさらされるかもしれないと考えるとおそろしいものであると述べている。しかし、自分のことを他者に話すことは、自分の悩みを再認識したり、自分の考えを整理することで気分を和らげたり、話すことによってさらに他者との関係を親密にするよい機会ともなる。だからこそ私たちは、自己開示が他者に受け入れられるように、どのような相手に自己開示するかを選ぶと考えられ、自己開示することで新たな洞察を得たり、不安を低減したりなどの利益を求めるであろう。
4.被開示者のパーソナリティ私たちは、自分を受け入れてくれそうな人物や、悩んでいることに対してアドバイスをくれる人物、そして自分をより高めてくれそうな人物に対して自己開示をしていると考えられる(田邊,坂本,2000)。つまり、被開示者がどのようなパーソナリティ特性を持っているのかが重要であると考えられる。
Miller,Berg,&Archer(1983)は、自己開示を受けやすく、開示者の話を引き出しやすい被開示者の人格的な特性に着目し、openerという概念を取り上げている。openerとは、自己開示を受けやすい人、また引き出すスキルをもつ人の行動特性であり、自己開示における個人差の指標であると述べている。彼らの作成した尺度は、@他者の反応の知覚、A他者へ耳を傾けることへの関心、B対人的なスキル、の3つの構成概念からなっている。このopenerと関連する人格特性として共感性(perspective taking)や親和性(sociablity)、自尊心、そして私的自己意識があげられ、これらとは正の相関関係にあり、シャイネスとは負の相関関係にあることが報告されている。さらに、遠藤(1993)は、自己開示の引き出しやすい人をopener特性の高い人としてとらえ、自己開示を引き出しやすい人の発話特徴について検討し、opener特性の高い人の方がopener特性の低い人よりも、互いに共有された情報を関連づける発話(意見)の頻度が多かったこと、開示者を社会的に望ましいと感じていたことが明らかとなっている。
このように、被開示者についての研究は少なからず行われているが、開示者が評定した被開示者についての研究は、ほとんど行われていないと言える。田邊・坂本(2000)は、開示者のパーソナリティ特性によって、自己開示をする相手が異なるのかどうかを開示者と被開示者の関係性の視点から検討しているが、開示者の評定による被開示者のパーソナリティ特性について焦点を当てた研究は見られない。しかし、実際の被開示者のパーソナリティだけでなく、開示者が被開示者のパーソナリティをどのように知覚しているのかを検討することは、開示者がどのような人物に自己開示をしたいのかを明らかにする上で重要であると考える。よって本研究では、開示者が、どのような人物に対して自分の悩みを開示したいと考えているかについてを開示者側のエゴグラム評定から検討していく。
5.開示者のパーソナリティ開示者のパーソナリティについては、これまで様々な研究がなされてきた。大坊・岩倉(1984)の研究においては、社会的外向性と自己開示性に正の相関関係があることが示されている。安藤(Ando,K.,1978)や加藤(1978)は、自己開示度と親和欲求の関係を検討し、ともに自己開示度と親和欲求との間に正の関係を見出している。つまり、外界への関心や指向性が強い社会的外向性の高い人は、自己開示を多く行うことや、自己開示の程度の高い人はより相手と親密になりたいと考えてると言える。しかしながら、開示者のパーソナリティ研究は、他者との関係とは別に検討されてきている。大坊(1984)も指摘しているように、開示者と被開示者のパーソナリティ特徴との相互関係は必ずしも明らかとはなっていない。個人のとる対人行動は、個人と相手との相互作用的な成果として捉えると、対人関係を築いていく上で重要である自己開示について、どのようなパーソナリティを持つ人物がどのようなパーソナリティを持つ人物に自己開示しているのかを検討することが必要であると言える。
6.開示者と被開示者のパーソナリティ大坊(1984)は、開示者と被開示者のパーソナリティの関係および自己開示性との関係を、互いが知己になる過程という時間的な軸を視点において検討し、開示者のパーソナリティ特徴と被開示者のパーソナリティ特徴とはいくつかの相関関係を示すことを明らかにした。エゴグラム特徴を中心にその関係を検討すると、批判的な傾向の人は、統制的でない、行動の枠組みの自由な人に自己開示をし、受容的でない人ほど、より受容的な人に自己開示をし、そして客観的で現実的な判断力を持つ人は、批判的、道徳的、といいうるパーソナリティ特性を持つ人に対して自己開示をしていることが明らかとなっている。これらの結果からは、開示者と被開示者との間に少なくともパーソナリティの類似性のもたらす積極的な関係は認められず、むしろ自我状態の概念づけからすると、相補的な関係がある可能性があることが明らかとなっている。また、本能的で感覚的・創造的な側面をもつ「FC」間でのみ自己開示の相互性が認められ、パーソナリティの類似性による効果を呈している。
一方で、田邊・坂本(2000)は、自分と比べてどのような対象に自己開示をするのかという関係性を重視し、開示する動機や開示することへの重要性をふまえつつ、相手に自己開示をするまでの過程を研究し、互いの厳しさや優しさに呼応するように自己開示する、つまり似たもの同士が自己開示しあうことを示している。
よって、本研究では、開示者のパーソナリティと開示者にとって最も自己開示を行う同性の友人のパーソナリティについての評定を求め、どのようなパーソナリティを持つ開示者が、どのようなパーソナリティを持つと思われる人物に自己開示を行うかを検討することを第1の目的とする。
7.エゴグラム田邊・坂本(2000)は、開示者や被開示者のパーソナリティ特性をエゴグラムを用いて検討している。また、大坊(1984)は、エゴグラムに加えて、モーズレイ性格検査における社会的外向性、神経症的傾向などの指標を加えて開示者や被開示者のパーソナリティを明らかにしている。エゴグラムは、自分の考えや価値観を正しいものとして主張する側面をもつ「批判的親 Critical Parent:以下、CP」、思いやりや同情、寛容さなどの部分で、人を励ましたり世話をする側面をもつ「養育的親 Nurturing Parent:以下、NP」、客観的事実をもとに物事を判断する側面をもつ「大人 Adult:以下、A」、本能的で感覚的・創造的な側面をもつ「自由な子ども Free Child:以下、FC」、本来の自分の感情や欲求を抑えて周囲の期待に沿おうとする側面をもつ「順応した子ども Adapted Child:以下、AC」の5つの自我状態から構成されており、対人関係で起こっている交流のパターンを分析する方法である交流分析の理論に基づいている。エゴグラムはこれまで様々な研究に用いられており、西川(1996)が指摘しているように、測定尺度はごく少数の指標によって、現実には無数に分布する人の行動・思考・感情の母集団を予測・説明しようとする手段であるとしていることからも、エゴグラムを用いて開示者や被開示者のパーソナリティ特性を検討していくことが妥当であると考え、本研究でも使用することとした。
また、西川(1993)は、エゴグラムの5つの自我状態それぞれに、心理的エネルギーを投入する対象方向について、自分に対する心の動きである「自己志向性:I」と、他者すなわち他の人や外界の環境に対する心の動きである「他者志向性:U」の2次元モデルを導入することの理論的および実際的有効性を指摘し、この2次元自我状態の測定尺度(「改訂自己志向・他者志向エゴグラムMIE(ミエ)」)を作成している(西川,1995)。本研究では、開示者側からみた被開示者のパーソナリティを検討することと、相互関係における開示者と被開示者のパーソナリティを検討していくことを目的とするため、西川(1995)の「改訂自己志向・他者志向エゴグラムMIE(ミエ)」を用いて他者に対する心の動き(他者志向性:U)におけるエゴグラム特徴を検討していくこととする。
8.自己開示動機私たちは、自己開示することによって、自分自身の考えを整理したり、新たな自分を発見したりするなど何らかの利益を求めていると考えられる。例えば、自分の判断の正しさを確認するために自己開示をしたり、自分のことをわかってもらいたくて自己開示をしたり、ためこんだ感情を吐き出すがごとく自己開示したりするなど自己開示をする動機は個人によって様々であると思われる。榎本(1989)は、重大な決断を迫られ、迷っているときなどの「相談的自己開示動機」、自分の気持ちや考えを誰かに理解してほしいときなどの「理解・共感追求的自己開示動機」、相手から好意を得たいときなどの「親密感追求的自己開示動機」、思いがけない発見をしたときなどの「情動開放的自己開示動機」の4つからなる自己開示動機尺度を作成し、日常接する人たちに対する自己開示動機を検討している。そして、両親や先生に対しては、自分の考えや選択に自信がないときや重大な決断を迫られたときなどの「相談的自己開示動機」が中心であり、最も親しい同性の友人に対しては、自分の気持ちや考えを誰かに理解してほしいときなどの「理解・共感追求的自己開示動機」や腹が立ったときやうれしいときの「情動解放的自己開示動機」が中心であることを明らかにしている。また、最も親しい異性に対しては、相手から好かれたいとき、相手の気持ちを知りたいときなどの「親密感追求的自己開示動機」が中心であり、一般の友人やきょうだいに対しては、腹が立ったときやうれしいときの「情動解放的自己開示動機」が中心であることを示している。つまり、父、母、きょうだい、最も親しい同性の友人、最も親しい異性の友人など、相手によって自己開示の主要な動機が異なっていることが示されている。
榎本(1997)は、これらの自己開示動機は、個人の性格的要因や誰を目の前にして自己開示をするのかという状況的要因によって異なることを指摘している。個人の性格的要因によって自己開示動機が異なるのであれば、開示者のエゴグラム特徴によって、自己開示動機が異なることが考えられる。つまり、開示者のパーソナリティと自己開示動機においては、感情や欲求を素直に表す「UFC」的な特徴を持つ開示者は、腹が立ったときやうれしいときの「情動解放的自己開示動機」から自己開示することが他の性格特性の開示者に比べて高いことが予測され、他者に承認を求める「UAC」的な特徴を持つ開示者は、重大な決断を迫られ、迷っているときなどの「相談的自己開示動機」から自己開示することが他の性格特性の開示者に比べて高いことが考えられるであろう。よって、開示者のパーソナリティによって自己開示動機が異なるのか、そしてもし異なるのであれば、どのように異なるのかを検討することを第2の目的とする。
また、誰を目の前にして自己開示をするのかという状況的要因によって自己開示動機が異なるのであれば、反対に自己開示動機によって自己開示をする相手を選ぶという可能性も考えられるであろう。重大な決断を迫られ、迷っているときなどの「相談的自己開示動機」から自己開示する開示者は、現実の状況を客観的にとらえ、冷静な判断や合理的な対処ができ、対人場面でも高い現実適応能力を発揮する「UA」的な特徴を持つ人物に自己開示することが考えられ、自分の気持ちや考えを誰かに理解してほしいときなどの「理解・共感追求的自己開示動機」から自己開示する開示者は、親切で人を思いやり、親密な他者肯定的関係を大切にする「UNP」的な特徴を持つ人物に自己開示することが予測される。よって、開示者の自己開示動機の違いが被開示者のパーソナリティ特性にどのように影響しているのかを検討することを第3の目的とする。