(1) 調査対象
国立M大学の学生(学部問わず)1年〜4年生の男性33名、女性65名に対して、調査を行った。このうち、有効回答者として、男性30名、女性64名、計94名を調査の対象とした。また、群ごとの内分けは以下の通りである。
実験群A:34名( 男性:10名・女性:24名 )
実験群B:30名( 男性: 8名・女性:22名 )
実験群C:30名( 男性:12名・女性:18名 )
(2) 実施期間
2004年12月上旬
(3) 実施手続き
それぞれ個人で調査にかかる時間が異なるため、62名の被験者に関しては、調査用紙を渡して、宿題形式で回答をしてもらった。残りの32名に関しては、国立M大学の共通教育の講義内で20分から30分ほどの時間を頂き、その講義の受講生に調査協力をしてもらった。ここでも、個人によって調査にかかる時間が異なってはいたが、全員が回答し終わるまで十分に時間を取った。
(4) 調査用紙の構成
@MIE(ミエ)自己志向・他者志向エゴグラム
西川(1995)のエゴグラム内のIFC(空想すること、いろいろなイメージを思い浮かべること、感情移入すること、現実から遊離することなどが心の中で活発に起こる傾向)8項目とUA(思い込みや感情に左右されずに、物事を冷静・客観的に観察して判断する。論理的に考えることが得意で、その場の状況に応じて問題を上手く解決する傾向)8項目を使用し、それぞれの項目について、「当てはまる」、「どちらでもない」、「当てはまらない」の3段階評定を行った。なお、論理性・明確性に注目した書記方法B(後述)と、想像・イメージに注目した書記方法C(後述)との関連から、この2つの項目を使用することにした。
A気分形容詞尺度
徳田・田上(2000)が、Matthews et al.(1990)の気分3因子モデルに基づいて、主観的覚醒度(エネルギー覚醒、緊張覚醒)と快感度を下位分類として気分を測定することを目的とした「気分形容詞尺度」から選び出した17項目を使用し、それぞれの項目について、「とても当てはまる」、「いくらか当てはまる」、「あまり当てはまらない」、「まったく当てはまらない」の4段階評定を行った。
なお、この尺度は、事前・事後テストとして、3種類の書記法の前後で、同一被験者に2回行っている。
B実験群A・B・Cの書記内容
実験群A・B・Cの書記方法の作成に関しては、本研究の「問題と目的」にも記述した山田(1996)の『「書く」行為の機能』8項目を参考にした。ただし、山田(1996)の研究では、調査対象が「自分史」を書いたグループと「阪神大震災を記録し続ける会」であったが、本研究では関連がみられないであろうと考えられる「C伝え合う」と「E思い出す」の項目を省き、残りの項目に注目した。
はじめに、実験群A・B・Cに共通の書き出しとして、『日常生活の中で、「○○しなきゃいけないけど、したくない」、「いつも何か心に引っかかっている」、「頭の中がなんとなくモヤモヤしている」』といったような事柄を1つ書いてもらった。
実験群Aの書記方法については、山田(1996)による「B癒し」に基づき、最初に書いてもらった1つの悩みに対して「思っていること、感じていること」を書き出してもらった。その際、自分の感情に向き合いやすくするために、その悩みについて考えているときの「自分の顔」を描く丸い枠を設けた。
次に、実験群Bの書記方法については、山田(1996)による「@自己を見つめる」、「D発見」、「F論理・明確性」に基づき、実験群Aと同様に「感情」と「自分の顔」を書いた後に、それをふまえた上で、「自分のすべきこと」と「自分がこれから出来ること」を書き出してもらった。これは、「自己を見つめ」、自分の現状や問題点を「発見」し、「明確」にしていくためのものである。
実験群Cの書記方法については、山田(1996)による「A創る喜び」、「Bマイナス」に基づき、自分の悩みに向き合うことで、心理的にさらに落ち込んでしまうということを改善するために、「ミラクルクエスチョン」(DeJong・Berg,1998)に着目し、実験群Aと同様に「感情」と「自分の顔」を書いた後に、それをふまえた上で「なりたい自分」と「なりたい自分になれた時の状況」を「物語のように」書いてもらった。
ここで、『「書く」行為を行わない「統制群」』を置いてはいないのは、単に「書く」という行為の効果を見たいのではなく、「何を書くか」を主に検討していくことが本研究の目的であるので、「書く」群と「書かない」群を比較することはしない。強いて言うならば、実験群Aが統制群的な役割を果たすと考えてもらいたい。
C書くことによって何を感じるか?尺度
山田(1996)による「書くことによって何を感じるか?6基本属性を変数とした30項目」から選び出した18項目を使用し、「とても当てはまる」、「いくらか当てはまる」、「どちらでもない」、「あまり当てはまらない」、「まったく当てはまらない」の5段階評定を行った。項目の選択については、先述したように、山田(1996)の研究対象が「自分史」を書いたグループと「阪神大震災を記録し続ける会」であったために抽出されたと思われる「C伝え合う」と「E思い出す」の項目や「生きる意味が分かる」、「過去をもう一度生きることができる」などのような項目を省き、本研究にも関連するものと思われる項目を抽出した。
D自由記述欄
最後に、ここには、被験者が「書く」行為を行った後の「気分」の変化を尺度などで数値的に測るだけではなく、被験者が「書く」行為によって何を感じたかを直接書いてもらいたいと考え、この欄を設けた。
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